神のいない世界で、俺は再び勇者となる。
@keisakuryou
勇者、幼稚園児編
第1話「なつかしい場所ー異世界」
そこは桜町第一中学校の1年1組の教室。
1組とわざわざ番号を割り振られているが、この学校は1年も2年も3年も1組しかない。
休み時間のチャイムが鳴り、各々が友達と喋ったりお菓子を食べたりしてガヤガヤという雑音を生み出している。
女の子グループが「キャー」と黄色い歓声をあげる。橘つむぎは小さい男児と手を握っていつメンのグループの前に立つ。
「弟のジンだよー」
ジン、と紹介された男児はペコリと頭を下げる。
「ジンです。ほんみょーは橘沈丁花ですけど、ながいから橘ジンって名乗ってます」
つむぎと一番仲の良いチサが「すごっ」と声をあげる。「本名とか名乗るとか、その年で話せる? すごくない?」
大げさに周りに同意を促すチサに、ジンは恐縮したように苦笑する。
「いえ、ユーチューブで学んでるんです」
「へー、すごっ。そっかー最近の子って無限に学べるもんねー」
あと少しでチャイムが鳴るというときだった。
次の授業、理科の先生が入ってきたときだった。
ピカッと窓の外が光り、地震のように地面が上下に揺らめいた。
つむぎはとっさにジンを抱きしめ、周囲の飛び交う物から守ろうとする。胸に圧迫されたジンは「やめろー」とジタバタする。
「直下型地震か?」
胸に顔をうずめながらジンは叫ぶ。
「え、直下型地震とかも知ってるのー? すごーい」とチサ。
震度はどんどん大きくなっていく。クラスメートの体が天井にぶつかりそうになるほど揺れは大きい。
窓の外から放たれる光はどんどん強くなり、やがて光でなにも見えなくなった。
数分して揺れが止まった。
全員ゆっくりと起き上がり、よろよろと窓のほうへ向かう。
ジンもつむぎの体の中から抜け出し、窓の外に走り出す。まだ幼稚園児だから窓まで背が届かず、がんばって背伸びをする。だがそれでも窓の外を見れないと悟ると、近くに投げ出されていた椅子を窓の傍に運び、椅子の上に乗ってようやく窓の外を見た。
そこは、地震で崩壊した町…………ではなく
「なんだここぉ!」
そう叫んだのは、ジンの隣で窓の外を見ていたユウキだった。
ジンはなつかしさに小さく笑ってから、全員に聞こえるように答えた。
「異世界だよ」
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