第5話 かわいい夫


 リューと結婚を決意し、あたしはあらためて夫になるリューの顔をよく見る。



 (…………かわいい)

 


 今まで黄色の瞳にばかり気がとられ、他の部分に目がいかなかった。けれど、こうして顔をよく見て見るとリューは可愛らしい容姿をしている。背丈があたしよりも少し小さいこともあるけど、黄色の大きな瞳に綺麗な黄色の髪、小さな鼻に小さな口。20歳とは言え、まだまだ人魔としてはかなり若いのだろう。



 「ねぇ、リュー」



 「リューじゃない! 僕の名前はリュナードだぞ、ルーニャ!!」



 そう言うとリューは顔をむっとさせてあたしを見ている。が、あたしはその言葉を無視して言葉を続ける。



 「どうしてあたしに妻になってもらいたかったの?」


 

 あたしは先ほど森で聞いた質問をもう1度した。もう指輪の契約は成立し、あたし達は夫婦になっているけれど、リューがリュゲルドの子だと分かった今、もう1度聞いておきたかった。もしかしたらこの子はあたしのことをリュゲルドから聞いているのかもしれない。

 


 「なんでって、さっきも言ったじゃん。ルーニャが強いのを見たからだ! 僕はルーニャみたいな強い妻が欲しかったんだ」



 「そう……」



 リューの答えは先ほどの森での答えと一緒だった。どうやらあたしのことは知らないようだ。強いから好き。

 なら結婚相手はあたしではなくてもいいような気がした。これは運命ではなく、ただの偶然。聞きたかった質問を終え、あたしは再び先ほどまで寝ていたベッドの上に腰掛ける。

 


 「あと、ルーニャは綺麗だし! 仲良くなりたいと思って!!」



 「えっ……」



 あたしがベッドの上で気を抜いているとリューは唐突に別の理由を述べてきた。



 「き……綺麗。……ふ……ふへへっ」



 思わず変な声が出た。



 笑うのは何年ぶりだろう。数年ぶりとは言え人は嬉しいと自然と笑みがこぼれるものらしい。こんな状況でも綺麗と言われればやはり嬉しい。



 「な、なに、急に……気持ち悪い」



 「き、気持ち悪いって言うな!!」



 どうやら数年ぶりに笑ったあたしの表情が気持ち悪かったらしい。確かに自分でも少し思った。上ずった声に普段使っていない筋肉が動いたような気がした。でも、仕方がない。

 こんなに自然な笑みが出るのは5年ぶりだ。長年使っていなかった顔の表情筋が準備できていなかったのだろう。



 「あれ? でも、何か……ちょっと雰囲気が変わった?」



 「雰囲気? 雰囲気って……あたしの?」



 「うん。ルーニャは強くてすごいなぁって見てたけど……なんか顔が怖いなぁ~ってちょっと思ってみてた」



 「……そう、なんだ。。」



 どうやら怖がられていたらしい。そしてそれを素直に口に出すなんてなんて不用心なのだろう、この子は。戦いにおいて心理戦というのはとても重要だ。対峙する相手がたとえ自分よりも強いと分かっていても平然を装ったり。相手の注意を他へそらし、戦闘を回避したり。そうした術を持っているようには全く感じられない。先ほど森の中で魔王になると言っていたが、そもそもこの子は魔物として人間と戦ったことがあるのだろうか。

 あたしはさりげなく人間に対するイメージを尋ねる。



 「リューは人間が嫌いじゃないの?」



 「ん、人間? 人間はルーニャ以外に見たことがないからよく分からない。でも、人間の話はよく聞いてたから何となくルーニャ以外の人間ってのも見てみたい!」



 「そう……」



 どうやらあたし以外の人間というものを見たことがないようだ。でも、人間に対する印象は悪くないらしい。「聞いてた」か。あいつは一体この子にどんな話をしていたのだろうか。


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