天女魔年 第3話 味見
「貴方は命や魔力を奪うことができるじゃない。」
私の言葉に彼はその視線を鋭くさせた。
「ふうん。そこまで知っているのか。物知りだね。」
天仕は、自分の命や魔力を与えることができる『与うるもの』。それは、天仕本人が与える意思がないとなされない。状態異常の術を使って、無理やり与えさせようとすることはできない。一方、魔人は、他者の命や魔力を奪うことができる『奪うもの』と呼ばれる。これは、相手が抵抗しても、相手の魔力量を上回っていて、かつ、魔力の色が近くなければ、できる。
「奪っても、味は分からないではないか。つまらぬ。それに、私は命も魔力も、今持っているもので、それほど困ってはいない。それに、そなたは体力も、そして多分魔力もかなり消耗していると思われる。それなら、回復してから奪ったほうが、効率的だ。」
命や魔力が減るくらいなら耐えられるかと思ったけれど、彼が気になっているのは、私の味であるらしい。私の命もここまでか。
私は彼の笑みを見て、身体を遠ざけようと身じろぎをする。体勢が崩れて、起こしていた上半身が後ろに倒れた。思わず目をつぶったけど、後頭部に強い衝撃は来なかった。
「?」
恐る恐る目を開けると、後頭部の後ろには彼の腕が差し込まれていて、床に頭を打ち付けないよう守ってくれていた。頭を右腕で抱えられているので、彼の顔は私の顔にますます近くなっていた。
「は、離して。」
「断る。」
彼の力は思ったより強くて、怪我をして体力を奪われている私にはとても振り払えなかった。彼はそのまま私の首筋に顔をうずめる。しばらくすると、首筋にピリリとした痛みがはしった。
噛まれた!
痛みのはしった箇所に唇らしき柔らかいものが押し当てられ、じゅうっと吸われるような音がした。血を飲まれているらしい。
「やめて。お願い。」
彼は血を吸った個所を舐めると、私に向き直った。その顔はとても楽しそうで、赤い瞳はギラギラした光を放っていた。
「何をしているの?」
「味見。」
彼はそう答えて、フフッと笑う。
「確かに美味だった。」
彼の言葉を聞いて私が顔を青ざめさせたのを見ると、彼はさらに笑みを深くした。
「もう少し欲しい。」
彼は私の首筋の噛み跡に舌を走らせた。恐怖なのか涙のにじんできた目で彼を見ると、その頬が上気している。彼の赤い瞳も揺らめいていて、まるでお酒でも飲んでいるかのようだ。
今の状況から目を背けていると、彼の金色の髪が耳下に当たって、耳には彼が血を吸う音が響いた。目の前が暗くなってくる。身体の力が抜けて、彼の腕にぐったりともたれかかった。
「やりすぎたか・・。」
彼が私の顔を覗き込んでくるのは分かったが、何か言葉を発する前に、私の意識は途絶えた。
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