緑の桜

古田地老

晩夏

これはある双子の姉弟の話――。


「ウツミ先生は言ってたよ!あの桜の葉っぱ、今は緑だけど、もう少ししたらピンクになるんだって!」

「お姉ちゃんは分かってないよ。ピンクなのはお花だよ。僕、この前、夜に少し目が覚めたんだ。前日まで寒かったのに、急に暖かくなったからね。その時、ドアの隙間から見たもん。ピンクのお花が。」


「葉っぱでもお花でも、どっちでもいいの!あんたは眠りが浅いから、私より体が小さいのよ!」

「そんなことないよ……。お姉ちゃんこそ、人伝ひとづてじゃなくて、自分で世界を見ないと、ホントのことは分からないよ。」


「いいの!ウツミ先生は何でも教えてくれた。この世界のこと、過去のこと、未来のこと。事実を全部教えてくれるだけじゃなくて、ヒントを伝えて、私たちが考える時間もくれた。桜のことだってそう。次この桜がピンクに変わる頃、私たちも何かが変わる――。私は私自身が変わる前に、先生の出した宿題を解きたい!」

「分かったよ。ところで、ウツミ先生はどこに行ったの……?最近、見ないけど。」


「分からない。でも、大丈夫。難しい宿題を解く時間をくれたんだ。先生がいたら、ついヒントをねだっちゃうかもしれないからね!」


(秋に続く)

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