第34話 貧民街に渦巻く想い
結果として当初の希望通り貧民街に来ることになってしまった国王陛下お忍びご一行様だった。
せまい
場違いに豪華なアクセサリーなども取引されていたが、おそらくは盗品だろう。
まだ日中だというのに
なんだか体型に違和感がある者もいるなと思ってよく見ると、女ではなく男だった。
――もし自分も貴族ではなく
エリーゼの脳裏にそんな考えがよぎり、背筋がゾッとした。
そうこうしているうちに、目的の建物に
「おう、ここか! ひどいオンボロだな!」
腰に手を当てたヴィクトル二世が
目の前には
貧民街の中にあるボロボロの孤児院だ。
ここがパン
「っせーよ……」
孤児院と同じくボロボロの服を着た少年が小さな声でつぶやく。
きっと聞こえてないつもりで言ったのだろうが、エリーゼの耳にはしっかり届いていた。
少年の名はイサークという。
「そんなはずは無いのだがなあ」
ヴィクトル二世が建物を見上げながらつぶやいている。
実は国王になって
それによって孤児院には『子供一人につき毎月銀貨五枚』の支援金が出ているはずだった。
盗みをはたらかなくては生きていけないというのはおかしな話だった。
「チッ」
イサークがまた舌打ちした。
首をかしげているヴィクトル二世の態度がよほど気にいらないらしい。
――貴族におれたちのなにが分かるってんだよ!
そういう
「おいお前
あまりの態度にミックが怒り、イサークの身体に手をのばす。
しかし少年は身軽にヒョイとかわすと孤児院の中に逃げていく。
「バーカ!」
「このガキ!」
中に逃げようとするイサーク。しかし逆に出てくる人影があらわれて、二人は正面衝突してしまった。
「きゃっ!」
「あ、ご、ごめんよ、ねえちゃん!」
イサークはあわてて女性に手をかす。
起き上がった女性は、これまた薄汚れた
「す、すいませんお客様、もしかしてこの子がまた悪さをしましたか?」
「ん、んんー、まあ何というか」
ヴィクトル二世が返答に困る。
かわりにエリーゼが良いように答えた。
「この子がパンを欲しがっていたので、わたくしたちが買ってあげましたのよ」
事実、後ろに
中にはパンがぎっしり詰まっている。
「まあ、まあまあそれはありがとうございます。あらこんなに
予想以上の喜びようで、エリーゼはむしろ
たしかに量は多いが、パンだけである。
王都の
それでこの喜びよう。
どうやらこの孤児院の経営状況は予想以上にひどいようだ。
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