第24話 怪文書は怪人におまかせ!

 三週間後、一行は王都ヴィンターリアに無事帰還した。

 一行とはエリオットたち騎士三名に、エレノア・ハートウィスパーとアンナマリー・ハートウィスパーを加えた五人のことである。

 ハートウィスパー家の二人は大事な証人であるため、暗殺を警戒して連れてきたのだ。


 レジナルド・フォーテスキュー子爵に関してはあつかいが難しく、今後どのような展開になっていくかは未定である。

 貴族は王国法で保護されているため一般人のように拘束こうそくして牢屋ろうやへぶち込む、というわけにいかないのだ。

 だが子爵本人が邪教じゃきょう崇拝すうはい加担かたんし人間を次々と生贄いけにえにしてきたという証拠があるため、明るい未来は絶対に来ない。

 生きるにせよ死ぬにせよ、悲惨な末路まつろになるだろう。


 グゥィノッグ・ブラナ司祭の消息は残念ながら不明である。

 今後も社会の闇で何かしらの犯罪行為を働くのは間違いないだろう。






 後日。

 エリオットはグレイスタン国立大学を訪問した。

 いつぞやの謎の手紙、あれの解読が終了したというので報告を聞きに来たのだ。


「いっやあああああああああ!? これはひっじょおおおおおおおに貴重な資料でしたよ騎士殿!?!?!?!?!?」

「そっそうですか」


 深刻なレベルのハイテンションでクルクル回りながら絶叫する白衣の老人。

 とても残念なことだが、彼はグレイスタン王国がほこる高名な歴史学者である。

 大学教授は白髪を振り乱し、部屋がビリビリと振動するほど大声を出しつづけた。

 

「現代! しかもまさかの国内にッ! こんな古代言語を実用する人々が存在していたとはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 その人々はそれそのものが貴重な文化財ですぞぉ!?!?

 ぜひ我が研究所に招待したいッ!!!!!!!」

「いや、生憎あいにく行方不明なので……」

「ぬうおおおおおおお!! 生きた国家の財産がーーーーーーーーーーー!!」


 絶叫する教授。声量だけなら歌劇オペラ俳優はいゆうをも超える。

 このままではエリオットの鼓膜こまくが破壊されてしまう。

 彼はつくえの上に置いてあった手紙と解読文、関連資料をありがたく受け取り(勝手に持ってきたともいう)、研究室をあとにした。


「生きているっ! 歴史は今も生きているのだーーーーーーーーーーー!!

 羽ばたけ人類よーーーーーーーーーーー!!」


 なんだかよく分からない演説を聞き流し、エリオットは大声から早足で逃げ出す。


「あれが高名な大学教授か……本当に学問で・・・高名なのか……?」


 この国の未来はまだまだ暗いなあと、そんな事を思いながらエリオットは情報本部へ帰還した。


 




 封筒に書かれていた宛名あてな。 


"A ghrá Guineach an tOllamh Bláthnaid chuig"



 そして封筒に入っていた便箋びんせんの文章。



"Tá mé ag súil le bualadh le mo mháistir ar oíche na gealaí seo chugainn. Is léir dom le déanaí go ndéanann gach comharsan dearmad ar threoir Mhór Ríoghna na Mumhan, agus níl aon dabht ach go mbeidh athrú sa domhan gan mhoill mar thoradh ar na béimíochtaí sin. Is arna bhríocht ag an Ríognach agus ag ceannaireacht Bhreandáin a thugtar an ghlóir seo. An bhfuil gach rud réidh le haghaidh an áirithigh? Ní mór go mbíonn an searmanas foirfe."



 その翻訳ほんやくが以下。


『親愛なるグゥィノッグ・ブラナ師へ』


『次の満月の夜に師にお会いするのを楽しみにしている。

 近頃は配下たちもみなモリガン女神の教えになびき、世の変革が間もなくであろうことを実感せずにはいられない。

 これもみな女神の祝福とブラナ師の指導の賜物たまものであろう。

 生贄いけにえの準備は万端ばんたんであろうか?

 儀式は完璧であらねばならぬ』

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