第5話 冷たい眼光
酔った男は無警戒に口を動かし続ける。
「おうさ、
そのためにわざわざ地下に
「おい!」
「ゲホッ!」
上機嫌にペラペラしゃべる酔っぱらいの太った
「おっとっと、こいつは
「あら、そうなのですか?」
エリーゼはわざと『よく分からない』という顔をしてとぼけた。
誰もがおなじ宗教をおなじ方法で
表面的には唯一にして絶対の強固な宗教が世界を支配しているかのように見えるが、実は地方独特の古代信仰や
世界各国の王や領主も、よほど過激な信仰心を持つ
――ただし、害のあるものは別である。悪は取り
会話がちょっと途切れてしまったので、エリーゼは木のカップに入ったミルクをひと飲みする。
(地下に祭壇か。いい情報が聞けた。
しかし相手はちょっと警戒心をいだいてしまったようだ。
これ以上聞きだすのは少し難しいかな)
口にミルクを
「なあお嬢さん、そんなんじゃなくて
初老の男がエリーゼの鼻先に自分のジョッキをグイ、と突き出してきた。
見れば目つきがトロンと
(このオッサンそうとう悪酔いしてやがるな)
不快に感じたが、顔や言葉に出すわけにはいかない。
「あらわたくし、お酒は飲んだことがありませんの」
「ダイジョーブだって! たいして強い酒じゃないから! ほら!」
エリーゼはやんわりと断ったつもりであったが、白髪まじりの男はぐいぐいジョッキを押しつけてくる。
そんなに飲みかけの酒を人に飲ませたいのか。
「あらあら」
エリーゼはオスカーに目線を送って、助けを求めた。
オスカーはすぐに立ち上がってエリーゼの後ろに立つ。
「お嬢様もう
「あらそう、じゃあ仕方がないですね……」
そう言って立ち上がるエリーゼ。
しかしその手首を、酔っぱらいがつかんだ。
「おいおいおいおいそりゃねーだろぉ、まだ夜は始まったばかりだぜぇ!」
男の目が
「お嬢様の手を離しなさい」
「なんだとこの野郎!」
上から目線のオスカーの言葉は、かえって火に油を
「てめえこの女のなんだってんだ、男かこの野郎!」
ダン!
男は酒のはいった木製のジョッキをテーブルに叩きつけた。
中に入っていた酒が飛び跳ね床やテーブル、そして周囲の人たちまで汚す。
男はそんなこともお構いなしで、オスカーに食ってかかっていた。
(いい加減にしろクソオヤジが!)
エリーゼはそっと男の腕を引くと同時に、すばやく足払いをかけた。
「うおっ!?」
男はあっけなくバランスを崩し、エリーゼに寄りかかるような形で床の上に倒れてしまう。
エリーゼは相手に
「お酒の飲みすぎですよ、もう帰ってお休みなさい」
「なにをっ、この……!」
男の言葉は途中で止まった。
胸をエリーゼの手で
しかし痛むほどの強さではない。
「……ッ!?」
だが身体が動かない!
白い細腕で
「!?!?」
エリーゼはあわてる男の顔を上からジーッと見つめ、有無を言わさぬ口調で告げる。
「あなたは飲みすぎです、家に帰って休みなさい」
大きな瞳でジッと
目前の女から得体のしれない恐怖を感じる。
この女は自分の動きを封じ、声も封じ、異様な目つきで威圧してくるのだ。
未知の脅威に対する怖さに、男はすっかり大人しくなった。
「ではみなさん、ごきげんよう」
うって変わってにこやかな笑顔を皆にむけ、酒場を去っていくエリーゼとオスカー。
その後ろではエリーゼに説教された男が床に
「
男の自分があんな女の子に力負けするわけがない。
あんなに恐怖を感じるわけもない。
酒だ。
酒を飲みすぎたせいだ。
自分は酔い過ぎておかしくなっちまってるんだ。
男は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます