女装の達人 ~姫騎士エリオットの㊙報告書~
卯月
謎の美少女エリーゼ
第1話 うわさの姫騎士エリオット
「おや、姫騎士殿のご登場ですぞ」
「本日も陛下のお話相手ですかな」
「まああの身体でつとまる役目などそのくらいでしょうよ」
よく
その横を、軍服姿の美しい男性が通りすぎていく。
短く切られた金髪。
背は女性と同じくらいしかなく、体も細い。
きっと誰もが彼の印象を『美少年』と評価するだろう。
だが彼はれっきとした成人男性である。
どうも医者にも治療のしようがない特異体質らしく、少年時代に身体の成長が止まってしまったのだ。
そんな彼の職業は王国騎士。
おそれおおくも国王陛下直属の騎士団員の一人である。
そうしてついたあだ名が『姫騎士』。
女みたいな見た目の騎士という意味の
だがそんな評価はどこ吹く風で、姫騎士エリオット・ハミルトンは王宮の赤い
「やあエリオット、その顔はまたなにか
グレイスタン王国、国王ヴィクトル・グレイウッド二世は皮肉な笑みを浮かべてエリオットを
「ええ、実はその通りなんです」
エリオットの態度にもどこか、なれなれしさがある。
この二人は
病弱であった先代王妃にかわり、エリオットの母が
つまりエリオットとヴィクトル二世はおなじ母乳を飲んで育った仲というわけだ。
こういう存在はなかば運命的にもっとも親しい
二人の間にあるなれなれしい空気感には、そういう理由があった。
「ご確認ねがいます」
エリオットは持参した大きな
すぐその場で中を確認した国王は表情をくもらせる。
「……これが真実だとすれば、放置はできんな」
「はい、ですのでしばらくの間、
「お前みずから行くのか?」
ヴィクトル二世の瞳がキラリと光った。
「つまり例の技を使うつもりだな?」
「はい」
エリオットも
忠臣の笑みを見て、主君も同じ意味深な笑顔を見せた。
「期待しているぞ、我が友よ」
「おまかせあれ」
エリオットは胸に手を当て優雅に一礼した。
およそ一時間後。
王宮内に輝くほど美しい金髪の
すぐ後ろに背の高い男の付き人を連れている。上品に振舞っているが彼はきっと護衛だろう。
彼女はいったいどこの姫君なのか――?
うっとりと見つめる二つの視線に気づいた
そこに居たのは先ほどエリオットを『姫騎士』と
その美しさに中年貴族たちは
「あ、あれはどこのご令嬢であろうか?」
「さて、あれほどの美女、宮中のうわさにならぬわけが無いのだがな」
未練たらしく美女の後ろ姿に熱い視線を送りつづける中年男二人。
そんな視線を背中に浴びながら、美女はククッと小さく笑った。
実はこの美女、姫騎士エリオットが女装して化けた姿である。
子供のように細くて小さな体。
エリオットにとって女装とは、まさに天から与えられた才能であった。
「
二十歳を過ぎても変声期をむかえることのなかった声は、無理して低い
「あの程度の男たちに見破られるようでは困ります」
すぐ後ろに
「我々はプロなのです、エリーゼ」
「そうねオスカー」
変装したエリオットは、
そして付き人に
彼らは王国騎士団情報部に所属する、国王直属の
さらに馬車をあやつる
田舎町の教会で
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