第24話
「よし、決めた。私もあんたらの力になるよ。何か困ったことがあったらすぐに相談しに来な」
「え? 良いんですか?」
「もちろんさ。あんたらのことを気に入っちゃったからね。どうだい? 迷惑じゃなかったら協力させてほしいんだけど」
「迷惑なんて、そんなっ! ありがとうございます!」
慌てて頭を下げながら感謝を伝えるリーリア。
そんな彼女に続くように俺も軽く頭を下げると、ノエラは少し照れたように口元を緩ませる。
「お礼なんて言わなくていいよ。私がやりたくてやるんだからね」
「それでも、ノエラが味方になってくれると助かるよ。俺たちだけじゃ、できることに限りがあるから」
俺にできるのは商品を作り出すことだけで、商売についてはまったくの素人だ。
商会を率いているノエラみたいなプロに手伝ってもらえれば、できることの幅が広がるだろう。
「まぁ、あまり期待はしないでおくれよ。精いっぱいの協力はするけど、あくまで頑張るのはあんたたちなんだからね」
「分かってます。……私もしっかりしないと」
グッと気合を入れ直した様子のリーリアを見て、俺たちは思わず笑みをこぼしてしまう。
こうして思わぬ形で味方を手に入れたお茶会は和やかに進んでいった。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気が付けば外はすっかり夕暮れになっている。
「もうこんな時間か。そろそろ帰らないと」
「そうですね。……長い時間お邪魔しました」
「いや、私も楽しかったよ。守衛には伝えておくから、用がなくても何時でも遊びに来ておくれ」
名残惜しそうに挨拶を交わす二人を見て微笑んでいると、ノエラが不意に俺を見つめる。
「アキラ、リーリアをよろしく頼むよ。あんたが一番身近で彼女の力になってやれるんだ。もしも泣かせたら、承知しないからね」
「分かってるよ。任せておいて」
力強く頷くと、ノエラは満足げに笑みを浮かべる。
「それならいいんだ。それじゃ、来週の納品をよろしくね。それと、他にもなにか商品があればいつでも持ってくるといいよ。しっかりした商品だったら、ウチで買い取るから」
「なにからなにまで、ありがとうございます。絶対にまた来ますね」
「ああ、楽しみに待ってるよ」
最後に握手を交わして、俺たちは来た時と同じようにジェリスに先導されて部屋を後にする。
でも、新商品か……。
廊下を歩きながら、俺は自分にできることをもう一度考えてみることにした。
────
工房に帰った俺は、ノエラに納品する剣を作るためにさっそく炉の前に立っていた。
ゴウゴウと燃え盛る炉に向かってハンマーを振りながら、俺は作業とは全く別のことを考えていた。
それは、買える間際にノエラから言われた新商品という言葉のことだった。
今は鍛冶師としての腕しか振るっていない俺だが、実際に神様から貰ったチート能力は『創造神の化身』、生産スキルを極めた能力だった。
だからやり方さえ分かれば、武器以外にもなんだって創り出すことができるはずなのだ。
「だけど、作り方が分からないんだよなぁ……」
もしかしたら、いざその時になれば作り方が浮かんでくるのかもしれない。
剣を作る時だってそうだったし、その可能性は十分にあるだろう。
しかし神に似て気まぐれなこのスキルは、今のところ作り方を教えてくれるつもりはないみたいだ。
「もしも簡単に作れるのなら、そっちの方にも手を出してみてもいいかもな」
売れる商品はひとつでも多い方がいいし、俺にはそれを作る力がある。
だったら、挑戦してみて損はないだろう。
「まぁとりあえずは、ノエラに頼まれた分を作り終えてからだな」
考えごとをしている間にも俺の手は自然と動いていて、どんどんと質のいい剣を作り上げていっている。
少し集中するために思考を追い出し、手の動きだけを意識する。
そうしてしばらく、カンッカンッと金属を叩く音だけが工房の中に響く。
耳障りの良いその音が俺の集中をさらに高めていき、やがて鉄と火とハンマーだけが俺の世界になっていった。
そのままどれだけ時間が経っただろうか。
すでに納品ようの半分くらいを一気に作り終えた俺は、一息つくと炉の火を落とす。
そうすると暑かった工房の中の温度もゆっくりと下がっていく。
そんな工房で休憩するように汗を拭っていると、奥から冷たい飲み物を持ったリーリアが現れた。
「お疲れ様です、アキラさん。どうぞ」
「ああ、ありがとう。ちょっと気合を入れて頑張りすぎちゃったよ」
リーリアから手渡された飲み物を飲むと、冷たい感覚が喉を通り抜けて身体を冷やしてくれる。
同時に、集中し過ぎで少しボーっとしていた頭も少しずつクールダウンしていくのを感じた。
「ふぅ、冷たくて美味しい」
身体から力を抜いて完全にリラックスしていると、そんな俺の隣にリーリアがちょこんと座る。
「ふふっ……」
少し動けば肩が触れ合うくらいの距離に座った彼女は、手に持ったコップを見つめながら小さく笑う。
「どうした? なにかあった?」
「いえ、なんでもないです。ただ、幸せだなって思って」
俺の問いに微笑みながら答えたリーリアは、俺の方に視線を向けて言葉を続けた。
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