第19話

「確かにそうかもしれませんけど、実際は品質が良すぎても駄目な場合もあるんです。商売は買ってくれるお客さんが居て初めて成立するんで、たとえ良い品物でも買い手がなければ価値はありません。この街は駆け出しの冒険者さんが多いので、質の良い武器は値段が高くて買えないなんて人が多いんです。だから、少し粗悪でも安く売りさばける商品の方が人気なんですよ」

「へぇ、そういうものなのか」

 まぁ確かに、始めたてでいきなり高価な物を買っても失敗することも多いだろう。

 特に武器なんかは、使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。

「でも、イザベラみたいな強い冒険者だって居るんじゃないか? だったら、そういった層をターゲットにすれば」

「イザベラさんクラスになると、すでに愛用の武器を持っている方の方が多いですから。わざわざ街の武器屋で新しい武器を買ったりしないみたいです」

「あぁ、そっか……」

 だったら、俺が作ったこの武器たちはほとんどが売り物にならないガラクタということになってしまう。

「それはちょっと寂しいかな」

「そうですね。そうならない為にも、頑張ってどこか置いてくるお店を探しましょう」

 気合を入れるようにクッキーを頬張ったリーリアは、一緒に用意していた紅茶を飲んで一息ついた。

 確かに彼女の言うとおり、諦める前にまずはできることをやってみよう。

 立ち止まるのは、できることを全部やってからでも遅くはないはずだ。

「それで、リーリアにはどこか心当たりとかある?」

 残念ながら、俺には人脈や伝手が全くない。

 頼みの綱はリーリアだけだけど、しかし彼女も渋い表情を浮かべている。

「私もあまり当てにしないでください。そもそも、ウチみたいな小さな工房では話を聞いてくれるお店も少ないんです」

 そう言えば、この工房が武器を卸しているのはたった三軒だけだ。

 しかも、テッドの店以外はほんの少しだけしか取引をしてもらえていない。

「やっぱり大きな工房の方が力もありますから。少しくらい品質が悪くても、より安価で大量に仕入れられる方が選ばれてしまうんです」

「確かに、俺一人じゃ作れる数に限りがあるからな」

 どうしても、大手ほどの生産量は望めないだろう。

「だけど、これで諦めるのはまだ早いさ。とりあえず片っ端から交渉をしていこう」

「そうですね! もしかしたら、どこかのお店が話を聞いてくれるかもしれません」

 そんな希望を胸に抱いて、俺たちはさっそく出掛ける準備を進めるのだった。


 ────

「ここも駄目、か……。これで何連敗したんだ……」

 取り付く島もなく追い返された俺たちは、店の前で大きなため息を吐いていた。

「分かっていたことですけど、こう何度も連続で断られるとちょっとへこんじゃいますね」

 あはは、と乾いた笑いを浮かべるリーリアも、心なしか元気がなさそうだ。

「せめて話だけでも聞いてくれてもいいのにな。現物を見てもらえれば、きっと気に入ってもらえるはずなのに」

 俺の作った武器は、そこらに売っている物よりも品質が高いという自信がある。

 確かに大量に作ることはできないけど、少しだけでも店に置いてもらえれば工房の良い宣伝になるはずなのだ。

「よし、次に行こう。ここから一番近いのは、テッドの店か」

「そうですね。今のところ一番可能性のあるお店でもありますし、頑張りましょう!」

 気合を入れ直してテッドの店へと向かって歩き出す俺たち。

 しばらくして店に辿り着くと、ちょうどテッドは店の前を掃除している最中だったようだ。

「おぉ、リーリアちゃんにアキラじゃないか。今日はどうした? なにか必要な物でもあるのか?」

「テッドさん、こんにちは。今日は買い物に来たわけじゃないんです。新しい商品のことで、テッドさんに相談があって」

 リーリアのその言葉を聞いて、テッドの表情は商売人のものへと変わっていく。

「よし、詳しくは中で聞かせてもらうよ。まぁ、中に入ってくれ」

 促されて店の中に入ると、そこは相変わらずいろいろな商品が所狭しと並べられていた。

 俺たちに遅れて入ってきたテッドは、近くにあったテーブルの上を大雑把に片付け始める。

 置いてあった物の大半を床にどかしたテッドは、改めて俺たちの方へと向き直った。

「んで、どんな商品を持ってきたんだ? 先に言っておくが、いくらリーリアちゃんの頼みでも半端な物じゃ俺の店には置けないからな」

「分かってます。私だって、情けで置いてもらおうなんて考えていませんから。いつだって私が持ってくる商品は、私が売れると自信を持って言える商品ですから」

 その言葉を聞いて、テッドは楽しそうに表情を緩める。

「いいねぇ、そう言うところが親父さんにそっくりだ」

「私が、父に……?」

 意外そうな表情を浮かべるリーリアに、テッドはさらに楽しそうに笑って答える。

「アイツも今のリーリアちゃんと同じように、新商品を持ってくる時はいつもそうやって大口を叩いてたよ。んで、そう言う時に持ってきた物がハズレだったことはなかった」

 だから、期待しているぜ。

 そう言って再び表情を引き締めたテッドに、リーリアも一緒になって真面目な表情を浮かべる。

 そんな彼女に促されて、俺は持っていた試作品をテーブルの上に広げた。

 さぁ、それじゃあ商談の始まりだ。


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