第17話
「それでは、予算はこれくらいで。別途材料費などで追加料金がかかるかもしれませんが、よろしいですか?」
「うん、それでいいよ。お願いします」
二人の商談が無事に終わり、やっとこれから俺の出番のようだ。
交渉がうまくいったのかホクホク顔のリーリアに場所を譲られて、今度は俺がイザベラと向き合った。
「えっと、俺はどんな武器を作ればいいんだ? 何か希望はある?」
「そうね……。エステルは確か、剣を使ってたよね?」
「は、はい! いつもはこれを使って戦ってます」
そう言って彼が差し出したのは、一本の片手剣だった。
受け取ったそれを眺めてみると、どうやらその辺の店で売っている量産品のようだ。
こう言ってはなんだけど、あまり質は良くないみたいだ。
「この街に来てすぐに買った物なので、あまり高価な物じゃないです。お金がなかったから、その店で一番安い物を買いました」
「なるほどね」
頷いた俺と反対に、イザベラは彼の頭をコツンと叩きながら口を開く。
「駄目でしょ、エステル。前にも言ったと思うけど、武器ってものは自分の命を預ける大事な相棒なんだから。高価な物を買えばいいってわけじゃないけど、ちゃんと選んで買わなきゃ」
「すいません……」
「確かに、この剣は少し重心がずれてるみたいだな。そのせいで、剣を振る時に余計な力が入ってるのかもしれない」
「確かに、たまにすごく振りにくい時があったかもしれないです……」
「ちょっと! そういう大事なことを、どうして早く言わないの?」
「ごめんなさい! でも師匠は、『自分の未熟を剣のせいにするな』って言ったじゃないですか」
「それは確かに言ったけど……。だけど、武器が不調なことはちゃんと気付かないと。そういうところが未熟なのよ」
「横暴だ……」
目の前で何やら師弟の小競り合いが始まったけど、まぁ放置しておいて問題ないだろう。
喧嘩するほど仲が良いって言うし、触らぬ神に祟りなしとも言う。
俺はしがない鍛冶師なんだから、お客様のプライバシーにあまり口を挟むのはいけない。
なんて自分を納得させながら、俺はさらにエステルから受け取った剣を調べていく。
「この剣、思ったより粗悪品かも知れないな。なんなら、新しい剣ができるまでの間に使うために、軽く打ち直すけど」
「え? 良いんですか?」
「俺は構わないよ、修行にもなるし。リーリアもいいだろ?」
「……まぁ、いいでしょう。今回はサービスということで」
機嫌がいいのかあっさり許可を出してくれて、俺はエステルの剣を持って炉の前に立つ。
その途端に俺の頭の中にはこれからの工程が一気に浮かび上がり、それに従うようにハンマーを振るっていく。
カンッカンッと小気味いい音を響かせながらハンマーが振り下ろされ、しばらくして満足した俺は再び剣を確認する。
「……よし、これでいいかな。たぶん前よりは使いやすくなったはずだけど、どうかな?」
差し出した剣を受け取ったエステルは、目を輝かせながら剣を眺めた。
「凄い! なんだか軽くなった気がします。これなら、何時間でも振っていられる」
嬉しそうに素振りをするエステルを見ていると、依然と笑みがこぼれる。
「そこまで喜んでもらえるなら、これから作る剣にも気合が入るよ。それじゃ、そろそろ希望を聞いてもいいかな?」
「あっ、はい! えっと、僕は師匠と違ってあまり腕力が強くないんで、できるだけ軽い剣が良いです。それから……」
それからエステルと向き合って、彼の希望をいろいろと聞いていく。
彼の注文に時々こちらから質問して、そしてお互いの意見をすり合わせていく。
そうすることによって少しずつ理想の武器が頭の中で形になってきて、それがなんだか楽しくなってくる。
気が付けば話し始めてすでに3時間が経っていて、リーリアの出してくれた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
「それじゃ、とりあえず希望はこれくらいでいいかな? まだ何かあれば聞くけど」
「いえ、大丈夫です。いろいろとわがままを言ってごめんなさい」
「気にしないで。俺も、これを作るのは楽しくなりそうだ」
エステルの希望を再確認しながら、俺はさらに頭の中で細かい調整をしていく。
その間にもスキルが細かくアシストをしてくれて、推奨される素材や作り方なんかを逐一俺に教えてくれる。
そうやって思考の海に沈んでいた俺に、イザベラが横から声をかけてくる。
「それじゃ、よろしく頼むよ。どれくらいかかりそう?」
「そうだな。いろいろと準備があるし、たぶん二週間くらいはかかると思う。それに、必要な素材でここにない物もあるかもしれないから」
もしも手元に素材がなければ、完成はさらに遅れることになる。
あまり待たせるのも忍びないけど、こればかりはどうしようもない。
「だったら、私たちでその素材を持ってくるよ。ね、エステル」
「はい! 僕の剣を作ってもらえるんですから、精いっぱいお手伝いします!」
思いがけない申し出に、俺は驚きながら答える。
「それはありがたいけど、俺には冒険者に依頼するようなお金はないよ」
「あはは、良いんだよ。私たちが頼んでる物を作るためなんだから、お金なんて取らないさ」
快活に笑いながらイザベラはそう言ったけど、その理論に俺はあまり納得ができない。
そしてそれはリーリアも同じだったようで、新しい紅茶を持ってきた彼女は毅然とした態度でイザベラと向き合った。
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