第13話

「なんだか、凄く騒がしい人でしたね。でも、まさかAクラス冒険者だったなんて」

「そのAクラス冒険者って、凄いの?」

 異世界常識スキルは教えてくれなかったので、俺はリーリアに尋ねる。

「そりゃあ、Aクラスって言ったらかなり強い部類に入る冒険者さんですよ。もしかして、アキラさんって冒険者について詳しくないんですか?」

「あぁ、うん。俺の暮らしてた場所では冒険者なんて見なかったから」

 そんな風にごまかすと、リーリアは特に疑問を抱くこともなく教えてくれた。

 彼女によると、冒険者にはその功績に応じてS~Fまでのランクが定められているらしい。

 基本的にすべての冒険者はFクラスから始まり、依頼をこなしてギルドから認められるとランクが一つ上がる。

 そうやって実力を示しながら、冒険者たちは名を上げていくのだという。

「Aクラスと言えば、冒険者の中でも一握りの存在です。Cクラスまでは依頼をこなしていけば上がることができますけど、それ以上に上がるにはギルドの定めた試験を受けて実力を示さなければならなかったはずです」

「へぇ、そうなんだ。人は見かけによらないんだな」

 少なくとも、見た目だけではイザベラがそんな実力者とは分からなかった。

 あの剣だって、見たところそこまで業物というわけでもなさそうだったし。

「まぁ、それでもAクラス冒険者と知り合えたのは良かったかもね。何かあった時、助けになってくれるかもしれない」

 もちろんお金は必要だろうけど、荒事に慣れていない俺たちにとっては役に立つだろう。

「それにしても、リーリアは冒険者に詳しいんだね」

「まぁ、私たち鍛冶師の取引相手はほとんどが冒険者さんですからね。と言っても、私の知識なんてこの街の人ならだれでも知っているような基本的なことですから」

「そんな基本的なことすら、俺は知らなかったけどね」

 俺が自虐すると、リーリアは慌てたように視線を泳がせる。

 いや、別にそこまで傷ついてないからね。

 むしろそこまで気を使われると逆に気にしてしまうけど、それを知らない彼女は気まずそうに話を逸らす。

「そ、そんなことより、さっきの魔法はなんだったんですか? あんなにバラバラだった剣をすぐに直してしまうなんて、普通では考えられないです」

「えっと、まぁ修復リペアの上位魔法ってところかな。普通なら直せないような物でも、あれを使えば直せるみたいだ」

 とはいえ、その魔法を使った後は全力疾走した後みたいな疲労感に襲われるから、できるだけ使いたくはないんだけど。

 今も気を抜けば座り込んでしまいそうな身体に鞭を打って立っている状態だ。

 そんな俺の様子に気付くことなく、瞳をキラキラと輝かる。

「凄いです! アキラさんはやっぱり凄腕の鍛冶師さんなんですね」

「だから、俺はまだ未熟なんだって。それより、なんだか今日はいろいろあって疲れちゃったよ」

「確かに、激動の一日って感じでしたね。アキラさんに出会って、借金取りから助けてもらって、それからアキラさんのおかげで思わぬ収入もありました。……そうだ。これはアキラさんが持っていてください!」

 そう言って差し出されたのは、さっきイザベラが置いて行った白金貨だった。

「いやいや、それは受け取れないよ」

「私こそ受け取れませんよ! 私はなにもしていませんし、イザベラさんの剣を直したのはアキラさんですから」

 慌てて拒否するも、彼女は一歩も引くことなく無理やり白金貨を俺に押し付けてくる。

 あいかわらず頑固な彼女をどうにか説得しようと思考を巡らせている間にも、リーリアは話は終わったとばかりに奥の部屋へと歩き始めてしまう。

「ちょっと待って! やっぱりこれはリーリアに受け取ってほしいんだ」

「だから、無理ですって。なにもしていないのに売り上げだけ徴収するなんて、そんなあくどいことはできません!」

「いや、確かにそうかもしれないけど……」

 とはいえ俺だって、彼女に受け取ってもらえないと働いた意味がない。

 今の俺の第一目標はリーリアの借金を返すことだし、それにこんな大金を持っていても今の俺には使い道なんてないのだ。

 さて、どうしたものか。

 考えているうちに俺はある名案を思い浮かんだ。

「じゃあ、こうしよう。俺をしばらく、この工房に住ませてほしい」

「え?」

「それで、このお金は家賃として受け取ってほしいんだ。それじゃ駄目かな?」

「でも……」

「もしも受け取ってくれないんだったら、俺は路頭に迷ってしまうかもしれない。俺を助けると思って、お願いします!」

 両手を合わせて懇願すると、リーリアは諦めたようにため息を吐いた。

「はぁ、私の負けです。……分かりました。アキラさんには住み込みの職人としてこの工房で働いてもらいます。でも、家賃だけじゃ貰い過ぎなので食事も私が用意しますね」

「本当に!? リーリアの作った料理は美味しいから、そうしてくれると嬉しいよ!」

 というわけで、俺はめでたく住む場所と仕事、それに毎日の食事を手に入れたのだった。


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