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馬車が大きな城の中に入り、入口の前で停まると数多の侍従が頭を下げて待っていた。

城は馬車と一緒で真っ黒で、要塞のような雰囲気だ。


ギルバートは先に馬車を降りるとステップの前ですぐに振り返り、ルフェルニアの両脇に手を入れてルフェルニアを降ろした。


(ちょっっっと!!!!こんなに人が見ている前でもしなくて良いじゃない!)


案の定、先ほどまで首を垂れ、静かに控えていた侍従が少しざわついている。


ルフェルニアはここまでの道中で、乗るよりも降りる方が断然苦労することを知った。

スカートの裾が長いせいで、全くステップが見えないのだ。何とかひとりで乗車はできるようになったが、降車のときは距離感が測れず困ってしまう。そうすると、ギルバートは子どもにするかのようにルフェルニアを毎回降ろしてくれた。

マーサも、ルフェルニアが怪我をするよりは良いと思ったのか、苦い顔はしても止めはしなくなってしまった。


ルフェルニアは抗議を込めてギルバートの腕を叩く。


「こんな子供にするみたいに下ろさなくたっていいじゃない!」


ルフェルニアはここまでの道中で、降ろされるのに慣れてしまっていたが、ギルバートの侍従の前でこの行為を当然のように受け入れることはできなかった。


「ここ数日で何回もしているじゃないか。」


ギルバートは急に文句を言われたので、不思議そうな顔をした。

なるほど、ギルバートは全く女心を理解できない生き物なのだ、とルフェルニアは黙って睨みつける。


「おかえりなさいませ、ギルバート様。」


執事が声をかけると、ギルバートは馬車の中で見ていた書類をすべて執事に手渡して小難しいことを次々と言いつけた。


「それから、こちらが連絡していたルフェルニア・シラー子爵令嬢だ。部屋は?」

「準備できております。」

「そうか。夕飯は城内に用意してくれ。今日はこれから少し外出をするから、留守の間に溜まった書類は部屋に運んでおいてくれ。」

「ギルバート様…。」

「…なんだ?」


ギルバートが城の中に足を進めながら次々と執事に伝えていくと、執事は申し訳なさそうに口を挟んだ。


「本日ギルバート様がお帰りになることを知った貴族の方々が何名か直接お話をされたいと今朝早くからいらっしゃっています。決議事項の中で、直接殿下に御説明差し上げたい事項があるようです。」


ギルバートは大きくため息をつくとルフェルニアに向き直った。


「案内すると言ったが、それは明日にさせてほしい。明日の昼には出発する予定だから、昼は外で食べよう。」


「お忙しいところ申し訳ございません、お気遣いありがとうございます。」


ルフェルニアが周りの侍従の目を気にして丁寧に答えると、ギルバートは怪訝そうな顔をした。


「普通に喋ればいいだろう。

部屋はマーサに案内させる。今日はマーサに街を案内してもらってくれ。」

「…うん。ありがとう。」


「マーサ、後で少しだけ部屋に来てくれ。」


ギルバートはそれだけ言うと、急いでその場を去ってしまった。


「では、ルフェルニア様、お部屋にご案内いたします。」


マーサはルフェルニアを先導して部屋へと向かう。


「まぁ、とっても素敵なお部屋をありがとう!」


部屋は白の外観からは想像が全くつかないほど明るくて可愛らしいお部屋だった。それこそ、ギルバートが邪険にしていた”可愛くて守ってあげたくなる女の子”が似合いそうなお部屋だ。

成人をとっくに過ぎているルフェルニアには少し幼い雰囲気があるようにも思うが、ルフェルニアは可愛いものが大好きなので、すぐに部屋が気に入った。


「城外からは想像できなかったけれど、こういったお部屋もあるのね。」

「客室はギルバート様のご趣味でいつもはシンプルなのですが、今回は少しお部屋を整えさせていただきました。」


きっとマーサが先に手紙などで指示を飛ばしていたのだろう。

ルフェルニアはこれを聞いて恐縮した。


「たった1泊に、それも私程度の人間に申し訳なかったわ…ありがとう。」

「お気になさらないでください。」


マーサはそう言うとルフェルニアの耳に顔を近づけこっそりと言う。


「ギルバート様が、私にお部屋の指示をするときに”可愛らしく華やかな感じ”と仰ったので、そのように準備しました。」


あの騎士らしい見た目で随分可愛らしい注文だ。

きっとこの指示も、マーサがギルバートを気遣ってマーサの指示ということで通っているのだろう。ルフェルニアはギルバートの気遣いを嬉しく思った。

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