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ギルバートの馬車は、テーセウス王国が用意してくれた馬車よりも大きくて安定していたためか、揺れが少なく快適な乗り心地だった。


ギルバートは仕事が忙しいのか、書類に目を通している時間が長かったが、時折書類から目をあげると、見えている景色の地形や歴史などを丁寧にルフェルニアに教えてくれた。


また、馬車の中にはテーセウス王国の王都で買える焼き菓子の類がいくつも乗せてあり、ルフェルニアを楽しませた。マーサの様子を見る限り、マーサがギルバートの甘いもの好きを知っている乳母なのだろう、とルフェルニアはあたりをつける。


「あの、マーサ。マーサがギルの乳母だったの?」


ルフェルニアはマーサに敬語も敬称も使わないように言われていたため、砕けた口調で話しかけた。確かに、マーサの主人であるギルバートに敬語を使わないのに、その侍従に敬語を使うのはおかしな話しだ。


「ええ、そうです。よくお分かりになりましたね。」


「ギルから聞いていたの。ギルの甘いもの好きをしっているのは幼馴染のヘンリー様と乳母だけだって。先ほどからマーサはギルに、ギルが好きそうなお菓子を何も聞かずにお渡ししているから、そうなのかなって思ったの。」


ルフェルニアがそう言うと、マーサは驚いたように目を丸くした。


「まぁ!ギルバート様、甘いものがお好きなのを御自分でお話しされたなんて、よっぽどルフェルニア様にお心を開いてらっしゃるのね。」


「ルフェが勝手に気づいたんだ。」


「ギルバート様はあまり表情には出ないのですが、よくわかりましたね。」


「私には弟がいるのですが、弟も同じように甘いものが好きで、それを隠しているの。甘いものが出ると少しそわそわしちゃうところとか、目が何よりも物語っているから、すぐにわかるわ!ギルは弟にとってもそっくりなの。」


「まぁまぁ!」


ルフェルニアが自慢げに答えると、マーサは嬉しそうにした。


「気づいてくださる方がいらっしゃって、嬉しいわ!ギルバート様がうまく隠されるから、公都でギルバート様に御用意するお菓子は、私が食べていることになっているのです。」


マーサがおかしそうに笑うと、ルフェルニアもつられて笑った。


「私も弟にはいつもこっそり甘いものを買ってあげているわ。あげると素直に嬉しそうにはしてくれないのだけれど、そこがとっても可愛いの。」


「まぁ!お話をうかがう限り、本当にそっくりなのですね。ギルバート様は徹底的にお隠しになるから、このお話をできる方がいらっしゃって本当に嬉しいわ!」


「テーセウス王国の王都で、ギルは”恐ろしい”と言われていたわ。私には全くわからないのだけれど、ギルが甘いもの好きを隠さなければ、そのようなことを仰る方が減るのではないかしら?」


「軍人が恐ろしくなくてどうする。」


「そのようなことを仰っているから、なかなか侍従が貴方のお部屋に寄り付かないのではないですか。それにギルバート様はもう騎士団長ではなく大公様なのですから、もう少し親しみやすいイメージをもっていただいても良いのではないでしょうか?」


「マーサの言うとおりよ。こんなに可愛いのを知らないなんて、損をしているわ!」


ギルバートは、逃げ場のない馬車の中で女性ふたりにぐいぐいと詰め寄られ、大変居心地が悪そうに眉間にしわを寄せている。


「俺はこれでいいんだ。」


「まぁ、隠しているところも込みで可愛いのだから、これで良いのかもしれないわね。」


「そうですね、そこだけは子どものころと変わらず、お可愛いのです。」


「…もう、やめてくれ…。」


しまいには、ギルバートは赤い顔を隠すように手で顔を覆ってしまった。


そんなところが尚更可愛い、とルフェルニアは思うものの、これ以上は可哀そうだ。

ルフェルニアはマーサと目を合わせて笑いあった。

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