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ガイア王国を発ってから3日目の夕刻、ぎりぎり日が落ちる前にルフェルニアの乗った馬車はテーセウス王国の王都内の学園に到着した。


「ようこそいらっしゃいました、シラー子爵令嬢。私は学園長のバロン・アデラスです。こちらは今回シラー子爵令嬢のサポートをさせていただく、当学園教員のヘレン・アデラス、私の娘です。」


「ヘレンです。よろしくお願いいたします。」


早速学園の学園長室に通されると、ルフェルニアは学園長らから挨拶を受けた。

バロンとヘレンはとても良く似ていて、ふたりとも人柄の良さそうな柔和な顔立ちをしている。


「よろしくお願いいたします、バロン学園長、ヘレン様。私は今回子爵令嬢としてではなく、植物局のひとりの職員としてまいりましたので、ぜひ気軽にルフェと呼んでいただければ嬉しいです。」


「ありがとうございます、ルフェさん。到着したばかりで申し訳ないのですが、少しだけ今回の講義について、話しをさせてもらえますか?」


バロンはルフェルニアの挨拶を聞いて少し態度を楽にする。


「はい、もちろんです。」

「講義は週末を除いて1日1回、全5回、各回90分でお願いいたします。講義の内容はお任せいたします。何か講義で使用されたいものがある場合はヘレンにお申し付けください。

学園の教師には1人1部屋を与えているのですが、ルフェさんにも1部屋、お部屋をご用意しています。

そこにある備品についてはお好きにお使いいただいて構いません。

また宿泊先については学園の近くのホテルを予約しています。

後ほどヘレンと御者に案内させます。」


バロンは「ご不明な点はありますか?」とルフェルニアに聞いたが、凡そ事前に聞いていたとおりだったため、ルフェルニアは首を横に振った。


「ありがとうございます、承知しました。1週間、どうぞよろしくお願いいたします。」


バロンとはそこで別れ、ヘレンと2人になると、ヘレンがくるりとルフェルニアの方を向いた。


「改めまして、よろしく!

先に貴女の情報をもらっていたから知っているのだけれど、私、同い年なんです。私のことはどうぞヘレンと呼んで。」


ヘレンがにっこりと笑ってくれたおかげで、ルフェルニアの緊張で上がっていた肩が少し下がる。


「こちらこそ!ヘレン。

ひとりの外国出張は初めてなので、同い年の方が一緒にいてくれてとても心強いわ。」

「教員に若い女性は少ないから、来てくれるのを本当に楽しみにしていたの。まずは学園内のルフェの居室を案内するわ。」


そう言ってヘレンが案内してくれたのは、中庭に面した1階の部屋だった。

窓のすぐ下には様々な花が咲く花壇がきれいに整備されている。

部屋の中はアンティーク調の家具が揃えられ、壁にびっしりと本が並べられている。


「今は部屋が1階しか空いていなくて…。それに本棚のせいで圧迫感があるわよね。」

「全然!気にしないわ。素敵な部屋でうれしい。本は…、見る限り植物や天候に関するものが多いようだけれど、読んでも大丈夫?」


ルフェルニアがいくつかの本に手をかけると、少しだけ埃を被っていたが、ルフェルニアの興味がありそうなものばかりだ。


「ごめん、本棚の本までは掃除がしきれていなくて…。

ここは昨年学園を辞めたご年配の先生のお部屋だったのだけど、テーセウス王国の天候とか植物分布とかを調べるのが好きだったの。その先生が置いて行っちゃったものだから、好きに読んで大丈夫。ここにあるのは古い本やデータ集が多いけど、最近の書物は学園内の図書館においてあるから、そちらも自由に使って構わないわ。」


「ありがとう!最近はガイア王国にいてもテーセウス帝国の本がいくつか取り寄せられるようになっているけれど、ここに置いてある本はどれも読んだことがないわ!」


ルフェルニアは本棚の端から端まで目を走らせて嬉しそうに声を弾ませる。


「そっか、喜んでくれてよかった。講義の時間以外は退屈な思いをさせてしまうと思っていたから、ちょうどよかったわ。」


ヘレンは安心したように言うと、「もう時間も遅いから」と馬車に戻り、ルフェルニアを宿泊先まで送った。


「ヘレン、案内ありがとう。それじゃあ、また明日!」

「また明日!」


ルフェルニアとヘレンはホテルの1階で別れると、明日からの講義のためにその日は早く眠りについた。

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