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シラー子爵家の庭園の奥まったところに、ルフェルニアのために建てられたガラス張りのこぢんまりとしたグリーンハウスがある。
ルフェルニアはユリウスのもとへ通うことを止めてから、ユリウスが来る前と同じように、グリーンハウスで大半の時間過ごしていた。
育てている植物に水をやったり、観察したり、関係の書物を読んだり。好きなことをしていると気は紛れたが、ふとした瞬間にいつもユリウスのことを考えていた。
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ルフェルニアがユリウスに会わなくなってから、1週間足らずのある日、シラー子爵家で大騒動が起きる。
ユリウスが人生で初めて癇癪を起したのだ。
(今日は丁度、ユーリアの御両親がいらっしゃる日なのに、どうしたんだろう?)
ユリウスの部屋が慌ただしいことを心配したルフェルニアは、ユリウスの様子を確認しようと、集まる大人たちの合間からこっそり様子を伺い、絶句した。
ユリウスが寝ているベッドに大量の血が付いていたのだ。ユリウスの口元や手も血で汚れている。
医者がもっている注射針を避けるようにベッドの上で暴れるユリウスを、ルフェルニアは信じられない気持ちで見ていた。ユリウスはいつも落ち着いていて、こんなにも感情を露にすることはなかったからだ。
「ユリウス、落ち着きなさい!じっとしてくれ!」
サイラスは「速く鎮静剤を打つんだ!」と医者に言い、ユリウスを押さえようとするが、常にない力でユリウスが抵抗する。
「どうせ僕は近いうちに死ぬんだ!みんな僕の傍にいてくれはしないくせに、どうして僕からルフェを奪うだ!!」
血を吐きながら泣き叫ぶユリウスに、ルフェルニアはたまらず駆け寄り、手が汚れることも厭わずに、ぎゅっとユリウスの手を握りしめた。
「ユーリア、どうしたの?私はここにいるわ。」
ユリウスはルフェルニアに気づくと、暴れることを止めて、ルフェルニアの手を強く握り返す。
「ルフェ、どこにいっていたの?ルフェが来てくれないから、いけないんだよ!」
ユリウスは綺麗な瞳から大粒の涙を流しながら訴えた。
「ごめんね。でも、私といたらユーリアの体調が悪くなるって…、」
「知ってる、ルフェが来なくなったのはお父様が遠ざけたからだって。でも、僕は一度だってそんなことお願いしていない!」
ルフェルニアは後から聞いた話だが、ルフェルニアが来ないのは嫌われたからだと思い込んでいたユリウスに、「ユリウスに優しくしてくれたルフェルニア嬢を悪者にしてはいけない」と思ったユリウスの両親が、感情の制御のためにルフェルニアをユリウスから遠ざけたことを伝えたところ、癇癪に繋がったようだった。
「ずっと一緒だって、言っていたじゃないか…。」
「うん。これからはずっと一緒よ。もうユーリアが嫌がっても、ずっと付きまとってやるんだから!」
ルフェルニアが笑顔で答えると、ユリウスはほっとしたように息をつき、
「それから、僕、ユーリアじゃなくてユリウスだよ…。」
とだけ言い残して、意識を失った。
周りの大人が治療と看護のために慌ててユリウスを囲んだため、ルフェルニアはあっという間にユリウスのベッドから離され、呆然と立ち尽くした。
「ユーリアはユリウス…。ということは…、男の子だった…?」
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