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週明け、ルフェルニアがいつもどおり王宮内の庁舎に出勤すると、ユリウスがルフェルニアをフッた話しが早速噂されていた。いろいろな脚色も付いている気がするが、成果は上々である。


ルフェルニアは、週末の夜、枕を濡らしてしまったが、涙を流したことで思った以上に気持ちの整理がついていた。噂が聞こえないふりをしながら、自分の席に着くと、同僚のミシャに声をかけた。ミシャは平民出身だが、王立学園に特待生として入学・卒業した天才で、ルフェルニアのよき友である。


「おはよう、ミシャ。悪いのだけれど、噂のとおり、今はユリウス様にお会いするのが辛いの…。だから、当分ユリウス様の居室へ行く用事はお願いできないかしら?」

「その割には随分すっきりした顔をしているのね。噂をばらまいたのも自分のくせに…。

まぁ、いいよ。私もユリウス様には思うところがあるし、やっておくよ。」


ユリウスは、国の穀物・野菜・薬草などの植物のあらゆることを所管する植物局の局長であり、ルフェルニアも同局に所属している。局は業務により分かれており、他には騎士局や魔法局、産業局、総務局など多岐にわたるが、そのすべての局の庁舎は広大な王宮内の敷地の、王族の居住区とは全く隔離された場所に置かれている。


ユリウスには庁舎内に個室が与えられており、そこにはユリウスの補佐官のベンジャミンとユリウスが連れてきたフットマンのギュンターがいる。そこへ会議資料や決議書類を取り次いだり、軽微な連絡事項を引き受けたりする雑務は、担当があるわけではないが、主にルフェルニアが行っていた。


(ちゃんとした“普通の上司・部下”の立ち位置を守って、今回こそユリウス様離れをしないと。来週から隣国のテーセウス王国に2週間出張だし、この時期を狙って動いてよかったわ。今は両国の人の行き来も盛んだし、テーセウス王国で結婚相手を探してくるのもアリかな!)


ルフェルニアは気分が上向きになるように半ば無理やりそう考えながら今日の仕事の書類を確認していると、今朝の連絡事項をユリウスのもとへ聞きに行っていたミシャが戻ってきた。


「ユリウス様がルフェに話があるって。」


無情である。気持ちの整理はついたつもりでいるけれど、早速の対面は辛い。思わずルフェルニアはミシャの顔を懇願する気持ちで見つめた。


「仕事の話しかもしれないし、私じゃ断れないよ…。」


ミシャが呆れたように笑うので、ルフェルニアは諦めて席を立つ。


(私とユリウス様は上司と部下、上司と部下、上司と部下…)


ルフェルニアは、ユリウスを前にしていつもどおりの距離感に戻ってしまわないよう、念じながらユリウスの居室へ向かった。

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