四つ腕アシスタントと売れない漫画家
真岸真夢(前髪パッツンさん)
第1話 焼失わが家(前編)
読み切り三本、打ち切り一本。これが私、カジカガエルもとい水谷カジカ(27)が漫画家生命2年で世に出した漫画の本数。
…売れていない
この言葉に尽きる。
原稿を持ち寄った出版社には揃いも揃って同じ指摘を受けた。
「イラストの技量は申し分ない。でも、内容がねぇ…」
「絵が上手いってのは漫画家として最低限のラインなんだよ、アンタの漫画にはストーリーのリアリティってのが無ェのよ」
「自分でストーリー考えるの辞めてコミカライズ漫画家になった方がきっと売れるよ?」
けんもほろろ…
そもそも私の昔の夢は小説家だった。
美術部だった学生時代の友人に「俺の描く漫画の原作やってくれ」と言われたのがことの発端。
しかし自分には文才が無かった。
だから絵の方で補おうと思った。
でも、上手くいかなかった。
友人もとっくのとおに漫画や小説なんかには擦りもしない”ご立派な“職についてしまった。
そんな私でも始めたばかりの頃は「なんと言われてもやってやる!」と少年マンガの登場人物ばりの何ともフワリとして現実味の無いやる気という様なモノが有った…ような気がしなくも無い。
元々漫画の収入で生活していた訳ではない、小さな店だが飲食店の正規店員として働いている。漫画家なんて続けていてもインクに原稿用紙、Gペンにトーンと出費が
「辞めてしまおうか…」
描きかけの漫画原稿を見て呟く。原稿といっても打ち切り用の最終話の原稿だ。
これを機に本当に辞めてしまうってのも、ひとつの手なのでは…
不意に普通に過ごしていれば嗅がない強い刺激臭が鼻をかすめ、鼻をつまんだ。
「
そう言えば朝食用に食パンをトースターに入れて、そのままだった気がする…
「あぁぁ、私の収入じゃ食パン一枚も馬鹿になんないのに…勿体ない」
食パンをトースターに入れたのは5分前くらいだ。今ならまだ救出すれば3割くらいは可食部が残っているかもしれない。
読みかけの小説やら、服やら、タバコやら、エロ本だのがとっ散らかった床の
途中カサカサ動く
ドアを開けて…すぐに閉じた…
廊下が私のキッチンで集団キャンプファイヤを催したかの様に煙でモックモクだった。
食パン一枚
そんな
てんやわんやになりながらも手当たり次第のモノを手に取りベランダの手すりに飛び乗る。毛玉だらけのスウェット姿で街に繰り出す恥など、命に変えればなんと安いことか。
私は裸足のまま近くの
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