イフィーデイズ~もしかするとこれは破天荒な恋物語?~
加藤とぐ郎No.2
出家しようかな
あれは中学三年の夏の終わり。あたしは変な奴に絡まれ、行く気の無かった高校に入学する事になった。
でも、なんだかんだ楽しくやれそうです。
入学式は三年ぶりだなぁ。当たり前だけど。この見渡す限り広がる初々しさ、新鮮~。
「新入生一同、
新入生代表が金髪だった。登校初日早々、前の席が金髪で驚いたけど、その金髪がまさかの新入生代表だったとは。
「新入生代表、引地葉流夏」
拍手に混じってひそひそ話が耳に入ってきた。
「ヤバくない?」
「マジでヤバい」
「ヤバすぎ」
「ヤバヤバのヤバだわ」
皆の語彙力を消し飛ばすほど、金髪はヤバかった。
整列し、A組から順に教室へと戻る。それにしてもかなり目立ってたなぁ。とさっきの彼女のことを考えそうになって、必死に振り切った。
信じられないかもしれないが、あたしは特異体質で、考え事をすると髪が伸びてしまう。バレても特に支障は無いが……。あまり奇異の目で見られるのも気持ちが良くない。ましてや入学したばかり。
もう少し周囲との関係性を確立してから……ってまた考え事をしてしまっているぞ!?
「だ、大丈夫で――」
「え、ごめん。気にしないで」
「あ、え……」
あたしの様子を心配して後ろの子が声をかけてくれたけど、あたしの反応が爆速すぎて若干引かれてしまった。しくじった。完全に変な奴だと思われた。
人間、何も考えないのは難しい。しかし限りなく何も考えていない状態になることはできる。あたしの髪は、思慮を深めれば深めた分だけ伸びてしまう。
だからあたしは基本的に、考えて言葉を発していない。そのせいで口調がおかしくなったり、キャラがぶれたりしまくってしまう。
なるべく変に目立たないようにしなければ。
─────
【行間ちょこっとやり取り】
『今日はイカれたメンバーを紹介するわ』
『イエーイ!』
『昨日実家が燃えたダニョエルと燃やした葉流夏よ』
『放火魔呼ばわり!?というかダニョエルって誰!?』
─────
「君、可愛いね」
新入生代表は何やら先生に呼び止められ、他のクラスメイトに遅れて教室に戻ってきた。そして席に戻ってき、私の顔を見るなり第一声がこれだ。
「お、おう。そうね」
「ハッハッハ。名も名乗らずに無作法だったね。私は葉流夏。これから三年間よろしく頼むよ」
キャラ濃ゆ~い。
「引地さん、はよ席に着け」
彼女はプロ級のウインクを決めると、あたしの前に静かに座った。芸能関係の仕事でもしているのか。目鼻立ちくっきりな上に綺麗なブロンドヘアも相まって、王子様キャラで売ってるアイドルみたいだ。
「えぇ、皆さんまずは入学式お疲れ様です」
あたしたちの担任は、小太りで頭に白髪を乗せた数学の教師だ。中学校にも同じような先生が居たけれど、生徒という立場から見ればその人の人間性より先に“教師”という存在として見てしまうのかもしれない。
だから無意識のう……いかんいかんいかん。くだらない考え事をしてはいけない。考えるな考えるな。
その後、担任の話はいつの間にか終わっていて、すぐに解散となった。
「はあ。お前と同じクラスかぁ」
「千夏、それ言うの七回目だよ」
「数えてんじゃねぇよ。マジ憂鬱だわ」
あたしの目の前にいるいまいちパッとしない少年があたしをこの高校に引きずり込んだ変な奴こと、茂上孝太だ。
「お前、ご両親は?来た?」
「二人とも忙しいみたいで間に合わなかったってさ。まあ小中の卒業式は来てくれたし、高校も卒業式だけ来てくれたら良いよ」
こいつの家はかなり特殊で、そんな家で育ったこいつもかなりの変人なのだが、本人に自覚があるかはわからない。
ただ、彼はやけに大人びていて、浮かれた雰囲気の教室の中で一人だけつまらなさそうに落ち着いていた。
中二病が根治されていないのだろうか。寝癖を治しきれてない頭で、今何を思っているのか、全然わからない。
「僕なんか、親と仲良いだけでも十分幸せ者だよね」
「誰に対するどういう気遣いなんだか。帰りは?一人で帰んの?」
「そうする腹積もり」
「じゃあ一緒に」
「やあやあそこのお二人さん」
廊下に出て、昇降口へ向かおうとした矢先、新入生代表の葉流夏があたしたちの間に割って入った。物理的に……。
「良かったら私と遊びに行かない。君たちこの街の子じゃないよね?」
「いやそうですけど、あの距離が、」
「だったら!この私が特別に案内してあげるよ。ふふふ、さあついておいで」
「ちょっとタイム」
孝太はそう言うと、私を離れた所に引っ張って、顔を耳元に近づけ小声で話し掛けてきた。
「千夏。なんで初顔合わせ早々、新入生代表に目ぇ付けられてんの?てかあの人距離近すぎでしょ」
「知らない!あたしが聞きたい!てか……」
距離近すぎなのはお前だよ!いきなり囁きかけてくんな!そして私もドキドキすんな!
「別に、お前に関係ねぇでしょ」
「いやいや、僕もろとも絡まれてるんだけど」
「嫌なら断れよ」
「嫌、という程では」
「断れや!」
「ぐふっ!!」
満更でもなさそうなこいつの表情を見ると何故か腹が立ったので、お腹に肘を食らわせてやった。あと、囁き声を聞くのがそろそろ限界に近かったという理由もある。
「なん、で?」
「入学式だからって調子乗ってると痛い目見る。今日の教訓だからこれ」
「理不尽」
「ところであのこは?」
振り返って新入生代表を探そうと思ったが、金髪で身長も高いのであっさりと見つかった。
彼女は三人の女子に囲まれていた。三人ともあたしたちとは違うクラスの生徒だった。
「会長!卒業式の時に渡せなかったので!」
「私も!お返事は要らないので、会長に読んで欲しいです!」
「会長好きです!受け取ってください!」
なんと驚くことに三人の女子は一斉に手紙を差し出し、一斉に新入生代表へ愛の告白をした。中身はきっと恋文だろう。あたしはなんて凄まじい現場に居合わせてしまったのか。
葉流夏は中学生時代、生徒会長をやっていたみたいだ。それにしても、卒業式で渡せなかったからって入学式に公開告白なんて普通するか?それも三人同時に。周りに居たほとんどの者は驚きを通り越してドン引きしている。
そして恐らく彼女らと同じ中学出身の数名は、何も無かったかのように平然としていた。
「か、帰ろうか」
「お、おう」
─────
【行間ちょこっとやり取り】
『なあ孝太、紙飛行機対決しようぜ』
『えらく唐突だけど、条件によっては僕の圧勝だ』
『ほほう、その自信はどこから?』
『どんなに風が強くても十メートルは飛ばせるから』
『えっと、どういう自信?』
─────
校舎が建つちょっとした丘を下り、駅へ向かう道を進むと、住宅街の息は失せ繁華街の騒々しさが漂い始めた。あたしの住む隣の隣町に比べ、この町は幾らか栄えていて、良く買い物しに来たり遊びに来たりしていた。
あたしと奴の家が近いせいで、通学路はほとんど被っている。家から駅まで歩き、電車に乗って、駅から学校まで歩く。これから三年間毎日繰り返す、そう考えただけでも引きこもりたくなってきてしまう。
「朝、なるべく早く起きろよ。起こしに行くのとか面倒臭いから」
「え、一緒に登校するの?」
「逆になんで別々に行かなきゃなんないのよ?阿呆臭いでしょ」
「いや、そっちから言ってくるの、何か意外だったから」
「洒落臭いこと言ってんじゃねえぞ」
「……もしかして、遠回しに臭いって言ってる?そんなに臭うかな?」
「鈍臭いわ」
くだらない話をしているとあっという間に駅に着き、あたしたちはホームで電車を待っていた。
どうせ路は同じなのだから、わざと避けるようにしてばったり会うと気まずくなるし、会う日と会わない日でムラが出来ると煩わしいし、だったら一緒に居るって決めていた方が何も考えずに済む。
変な奴ではあるけど嫌な人間ではないし、特に害もないから、登下校の間だけなら一緒に居ても何の差し障りもない。決して積極的に一緒に居たいという訳ではないのだ。むしろ、あちら側がすり寄ってくるのをあたしは渋々、受け入れてやっているだけだ。
「おい、おーい!」
「何?」
「なにって、席空いてるのに座らないから、声かけたんだよ」
気が付くと電車の中に瞬間移動していた。座席の前で何もせず突っ立っている自分が恥ずかしくなり、急いでいるのを悟られないようになるべく自然に急いで座った。
あたしは考え事をすると髪が伸びてしまう。それは生まれつきの体質だ。しかしあたしは良く考え事に耽ってしまう性格で、気を抜けば色々と考え込んでいたりする。
こんな性格で生まれてこなければ、今より体質で悩まなかったのだろうか。こんな体質で生まれてこなければ、自分の性格をもっと好きになれたのだろうか。
「千夏、初日どうだった?」
「なにそのありきたりな質問。」
「いや何かさ、時々勉強教えてもらったりはしてたけど、こうして同じ学校に通う同級生として話すのは初めてだから、ちょっと変な感じで」
「普通じゃない」
新入生代表はかなりパンチがあったけれど、特に取り立てて良かったことも悪かったことも無かった。普通の入学式、普通の高校生活の始まりだ。
「普通か、千夏らしいね。でも、今日ずっと色んなこと考えてたでしょ。髪伸びてる」
「な」
孝太はあたしの髪をさっと梳かすように撫でてそう言った。
「あ、言おうと思ってたんだけどさ、千夏ってショートヘアも結構可愛いんだな。思いの外似合ってた。今はセミロング、くらいだけどはぁっ!!?」
「だから調子乗んなや。ど阿呆」
またも肘打ちを食らわせ、孝太を黙らせた。こいつ、高校デビューなのか何なのか知らないがコンタクトに替えやがって。死ぬまで瓶底でも掛けといたら良いんじゃ!人の心臓の気も知らないで。
「痛いというよりもびっくりするからやめて」
「常日頃、びっくりしないよう備えでもしてれば?」
「常にエルボーが飛んでくるのを警戒してて平穏な日常が過ごせるか!」
「わからないよ。次は至近距離でエアーホーン使われるかも」
「びっくりに傾倒しすぎだろ。しかも耳への殺意が高い」
あたしは何気なく、こいつとの会話を楽しんでいる節がある。さっきかなりの変人と言ったが、その変人ぶりが面白いのかもしれない。
そう言えば、彼はよく色々とあり得ない物を持ち歩いている。
この間は十メートルきっかりに飛ぶ紙飛行機を見せてきた。どこからどんな投げ方をしても十メートル。それより長くも短くもない。飛距離は必ずぴったり十メートルになってしまう見た目普通の紙飛行機だ。
ただ正直、自分の体質が変わってるだけに、彼がどんなにぶっ飛んだ物を持ってきても指摘しづらい。その紙飛行機は十メートルしかぶっ飛ばなかったけど。
「まあでも、そんくらいしないと千夏の隣には居られないってことか」
「そう、だね?」
「俺、がんばるよ」
「え、うん。んん!!?」
「ああー……。僕が“俺”って、やっぱ変かな。調子乗ってるってこういうとこか。ごめんごめん」
本当に変な奴だ。どこに飛んでくのか全然わからない。でもあたしはこいつを見てると、どこへだってついて行ってみたくなってしまう。やっぱり、あたしも変わってるんだろう。
「え~っと、今日の僕、何か浮わついてテンションバグってるけど、これから三年間よろしく」
「そっかあ三年間か……」
その間、どれだけ煩わしさに悩まされ、髪が伸びてしまうのだろう。いっそのこと剃髪して、出家しようかな。
「ゲームは一回きりだから。忘れてねぇだろうな?」
「もちろん。僕が絶対勝ってやるよ」
長くても短くても、決められた時間の中でしか生きられないのなら、あたしは……。
答えも勝敗も、とっくに決まっていた。だけどまだ、誰にも教えてやるつもりは無い。
今日から始まるこれが、ずっと前から終わりの見えてる、たった一度きりのあたしたちの物語なんだ。
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