第16話:高級宿

 昨晩思いがけない事があったので、今日の予定が狂ってしまいました。

 それでも、希望する冒険者に神聖力を付与し聖水を売る事は変わりません。


「坊主たちの神聖力は良く効いたぞ」

「ああ、レイスが何時もより早く倒せた気がする」

「持続時間も他で頼むより5割は長かった気がする」

「少々複雑ですが、頼んだ方が私も楽になります」


 昨日試しに私たちから神聖力を買った人たちが、今日も買ってくれました。

 複雑な表情をしていましたが、楽になった神聖術士まで褒めてくれました。


 そのお陰か、昨日の5割増しで依頼があり、1人大鉄貨158枚も儲かりました。

 その内の150枚を小鈦貨20枚と交換してから食堂に行きました。


「猪のスペアリブ、ワイン、黒パンとチーズは3個ずつちょうだい」


「僕も同じ物を下さい」


「私も同じ物をお願いします」


 冒険者が少なくなった食堂を朝食を頼みました。

 ダンジョン内で食べる黒パンとチーズも一緒に頼みました。

 昼食は黒パンとチーズを1個ずつ、もう1個ずつは非常食です。


 そのチーズですが、卵ほどではありませんが、かなり高いのです。

 朝食だけで大鉄貨5枚は使い過ぎですが、158枚も儲けたのです。

 最後の食事になるかもしれない狩りの前なら、許される金額です。


 朝食を済ませた後で、受付に行って宿への紹介状を書いてもらいました。

 私たちのような12歳が高級宿に行っても相手にされません。


 もし私が貴族の正式に行事で王都に来るとしても、家紋で封をした紹介状を持って行かないと、高級な宿は相手をしてくれません。


 もし詐欺師や犯罪者を宿に入れてしまって、他の泊まり客が被害にあったら、オーナー家族が皆殺しにされてもおかしくないのです。

 宿に限らず、高級な店になるほど紹介状が必要になります。


 受付のお姉さんに教えてもらった場所に行くと、警備員を兼ねたドアマン2人が入り口を守っています。


「冒険者組合から紹介されてきました」


 最初は必要最低限の礼儀しか払わなかったドアマンですが、年配の男が紹介状を読むなりガラリと態度を変えました。


「ご令息をひと目で騎士家の方と見抜けなかった無能をお詫びさせていただきます。

 受付までご案内させていただきます」


 そう言うなり深々と頭を下げてくれました。

 もう1人のドアマンがサッと両開きのドアを開けて中に通してくれます。


 腹立たしい面がないとは言いませんが、これだけ気をつけて不審な者を入れないようにしているのなら、多少は安心して泊まれます。


「グリフィス騎士家ご令息一行ご案内!」


 私が宿に入りる同時にドアマンが大声で紹介してくれました。

 これ以上宿の従業員が失礼をしないようにでしょう。

 それと、最初の失敗で気分を害している私の怒りを鎮める為ですね。


「グリフィス卿、支配人がこの場にいない事を最初にお詫びさせていただきます。

 代わりと申すには力不足ですが、コンシェルジュを務めさせていただいている私がご案内させていただきます」


「丁寧な挨拶痛み入ります。

 12歳の義務で領地から王都にきているハリーと言います。

 本来なら組合の宿に泊まって義務を果たすべきなのですが、今年は例年以上に義務を果たす12歳が多いらしく、稼ぎの良い者は他に移ってくれと言われました。

 急な話で申し訳ないですが、3人が泊まれる部屋を用意してくれませんか」


「それは、それは、高貴な義務を果たされに来られたのですね。

 部屋が空いていない訳ではないのですが、紹介状を読ませていただきますと、3人とも同等の個室が欲しいとの事でございますが、それで宜しいですか?」


「この2人は共に12歳の義務を果たすパーティー仲間です。

 王侯貴族であろうと、12歳の義務は個人で乗り越えないといけないですよね?

 宝物は公平に分けていますので、1日小鈦貨1枚くらいは払えるのですが?」


「申し訳ございません、普段ならそれくらいの素泊まり部屋もあるのですが、グリフィス卿と同じ事情で冒険者の方々が使われているのです。

 貴族の方々がお泊りになられる、スイートルームかロイヤルスイートルームしか空いておりません」


 私が2人に視線を送ると。


「ハリーが宿賃を払ってくれるのなら、コネクティングルームでいいよ」


「僕も館ではハリー様のお世話をさせていただいておりますので、コネクティングルームでかまいません」


「分かったよ、私が部屋代を払うよ、今日から泊まりたいのですが、前金は幾らになりますか?」


「畏れ多い事ですが、グリフィス卿がこちらを使ってくださるのは初めてになりますので、小鈦貨3枚預からせていただきますと助かります」


「ではこれでお願いします」


 私たちは高級宿の予約を終えてからダンジョンに向かいました。

 昨日一昨日とダンジョンで狩りをしたよりも疲れてしまいました。

 

 私たちは心を引き締め直してダンジョンの入り口まで戻りました。

 何だかんだで、朝1番にダンジョンに入る冒険者に比べて2時間も遅れています。

 浅い層で狩場を確保したい駆け出しだったら青ざめている所です。


「ダンジョンに入る前にやるべき事をやっておきましょう」


「そうね、鈦貨を手に入れられるようになったのだから、頑張らないとね」


「そうですね、僕も稼げるときに稼いでおきたいです」


「昨日話し合った通り、今日も色々と確かめるから、金儲け最優先じゃないよ」


「分かっているわよ、だけどアンデット系は別よね?」


「そうですよ、アンデット系は昨日見つけた方法で狩る約束ですよ」


「分かっているよ、実験をするのはゴブリンとアニマル系だよ」


「分かっているなら良いのよ」


「私たちの事を考えてくださり助かります」


 何時ものように好き勝手言いながら狩りの準備をしました。

 神聖呪文を刻んだ剣に、中級の神聖術を施してからダンジョンに入るのです

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