第14話:新発見

 僕たちは魔力の1/4を使っては休憩を入れて話し合いました。

 魔力の属性を揃えてモンスターの急所に叩き込む倒し方を繰り返しました。

 その中で宝物を落としたケースを再現して確認しました。


 1日で確かめられる事など限られています。

 ですが、最初から期待を込めていた事は正解だと確認できました。

 スケルトンの急所に神聖術を叩き込んで倒すと、必ず宝物を落としました。


 このような簡単な事を、誰も確かめていない事に驚きました。

 ですが、よく考えれば当たり前の事でした。

 スケルトンの急所に、的確に神聖術を叩き込むのは至難の業です。


 それも1体ではなく6体全てに行うのです。

 普通の冒険者なら、複数で手分けして戦います。

 神聖術が使える者がいたとしても、他の者が何らかの攻撃を加えています。


 その時点で、神聖術だけを急所に当てて一撃で倒すという前提が崩れます。

 もし、神聖術士が1人でスケルトンと戦ったとしても、連続して急所に神聖術を当てない限り、宝物を落としてはくれません。


 もし、誰かが偶然を重ねてこの事実を発見していたとしても、その秘密を誰かに漏らすでしょうか?


 どのような宝物でも、あまりにも多く手に入るようになってしまったら、その価値は大きく下がってしまいます。


 自分以外の者が、これまで通りなかなか手に入れられない物を、自分だけ10倍手に入れられるようになって初めて大金持ちになれるのです。

 僕と同じように発見した人がいたとしても、秘密にしているに違いありません。


「凄い、本当に凄すぎます。

 昨日も凄いと思いましたが、今日は信じられないくらい多いです。

 本当にこれを29階で手に入れられたのですか?!」


 冒険者組合の受付に戻って報告すると、何時ものお姉さんが激賞してくれます。


「はい、今の僕たちではレイスと戦うのは難しいので、30階には潜らず、29階に張り付いていました」


「よほど手が早いのですね、そうでなければこのような事は不可能です」


「そうですね、僕たちは手が早いと思います」


「ハリー、また僕と言っている、自分と言ってよ!」


「そうですよハリー様、ハリー様はいずれ騎士になられるのです。

 今から私と言っていただかなければ困ります」


「フッフフフフフ、僕と言われるハリー様もお可愛いですが、そうですね、騎士家の次期当主なのですから、12歳になられたのを機に、私と言われても良いですね」


「分かりました、私と言うようにします。

 私たちは剣も魔術も神聖術も使えますから、ほぼ一撃でモンスターを倒せます。

 だから回転が速く稼げるのです。

 特にスケルトンを一撃で倒せるのが大きいですね」


 今日3人で手に入れた宝物は昨日の倍以上あるのです。

 何か理由を作っておかないと、多くの冒険者に妬まれてしまいます。


 水晶339、小銭貨738、小鉄貨645、大銭貨186、大鉄貨99、岩塩189個も手に入りました。

 

 硬貨も信じられないほど多いですが、何より多いのが岩塩です。

 内陸で海水塩が手に入り難い我が国では、塩がとても高いのです。


 それなのに、スケルトンを上手く倒すと100%で岩塩を落として行くのです。

 それも6体全てが落としてくれるのですから、笑いが止まりません。


「そうなのですね、ハリー様のご領地、グリフィス騎士領に行けば同じような力が手に入るのでしょうか?」


「さあ、ぼ、私は他の領地を知らないので何とも言えません。

 ですが、私だけでなく、この2人も同じように戦えます。

 ダンジョン騎士になられた叔父や叔母上たちも同じでした。

 領民の多くも神聖術と魔術を使えます」


「組合長が戻られたら、どのような指導法を取られておられるのか、グリフィス騎士家に確かめていただかないといけません」


「そう言えば組合長はご無事なのですか?」

 副組合長が暗殺しようとしていると言っていませんでした?」


「あの組合長が、副組合長ごときの罠に嵌るはずがありません。

 逆にこの機会を利用して副組合長を成敗してくださると信じています」


「そうですか、それなら大丈夫ですね。

 話は変わりますが、お願いしていた魔力を売る仕事はありますか?」


「そうでしたね、依頼先に話をしてみましたが、直ぐには返事がありませんでした。

 申し訳ありませんが、今日は組合の仕事もありません」


「そうですか、ありがとうございました」


 ぼ、私たちは受付を終えて部屋に戻りました。

 今後どうするのかを、誰にも聞かれない場所でしなければいけません。

 

「今日は凄かったね、このまま続けられたら、もう塩を買わなくても済むね!」


 ソフィアがうれしそうに話す理由は私にも分かります。

 我が家に自給自足できないモノは幾つかありますが、その1つが塩なのです。


 遠くから運ばれてくるとても高価な海水塩を買うか、ダンジョンで手に入る岩塩を買うしかないのです。


 魔境で狩る事のできる獣や魔獣の肉がとても高く売れるから買えますが、30gの岩塩が1個で大鉄貨1枚も必要なのです。


 多くの農民が手間と時間をかけて、自分たちで草を集めて燃やして灰塩を作るのは、それだけ塩が高いからです。


「そうだね、灰の味がする塩よりもダンジョン塩の方が美味しいからね」


「ハリー様、明日も今日と同じように色々確かめるのですね?」


「はい、私たちが確かめる事で、後に続く人たちが楽になります。

 それに、私たち自身もお金持ちになれます」


「さっさと全部確かめて30階よりも深く潜ろうよ。

 その方が周りにも疑われなくなるよ」


 ソフィアが言う事も間違ってはいません。

 深く潜れば多少稼ぎが多くても疑われ難くなるでしょう。

 それに、実力を恐れて余計な手出しをしないかもしれません。


「そうですね、ソフィアの望む鈦貨製の剣を手に入れる為にも、1日でも早く全ての可能性を確かめましょう」


 アーサーは本当に優しいです。

 自分の事よりもソフィアの事を考えています。

 まあ、それも、もっと深く潜っても大丈夫だと確信を得たからでしょう。

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