三人の門出
町に帰った
帰還して早々、国王から呼び出され、炎華の獅子のような大きな屋敷と使い切れないほどの金品が与えられた。あまりに多いので今回の冒険の準備で炎華の獅子から借りた魔道具や詩片の代金は払えてしまった。それでもなお余った大部分は、受け取らずに冒険者組合で保管してもらっている。
「やっと抜け出せた~」
「だな。お祝いっていってもここまで続くとふっつーに疲れるな」
帰還して四日目の夜。ようやく解放された俺たちは、与えられた屋敷でだらだらとくつろいでいた。
「だけど、楽しかった」
ユーシェはすっかりフードを外していた。元々冒険者の数が多い国だ。彼女の出自は伏せたがそれを加味しても、俺たちの想像以上に早く彼女は人々から受け入れられた。今も、市場の大人たちから貰ったたくさんのお菓子をちびちびとかじってその度に目を輝かせていた。
「……そういえば、帰ってきたらユーシェに渡そうと思ってたものがあったんだ」
「なぁに?」
間延びしたユーシェの声。よく見れば耳もパタンと倒れて眠そうだ。だったら手短に済まそうか。
「ちょっと遅くなっちゃったけど……ユーシェが俺たちの仲間になった記念ってことで、はいこれ」
それは、ユーシェの片目のような黄色の宝石をあしらったペンダントだった。彼女が連れ去られる直前、俺が選んで買ったものだ。
「……きれい」
眠そうだった瞳をぱっちりと開けて、食い入るように眺めるユーシェ。恐る恐る首に下げて、しげしげと眺めると輝くような笑顔を浮かべた。
「気に入ってくれたみたいで良かったよ」
「あんたも選んでたの?」
そういって望海が取り出したのは、赤い宝石のはまった指輪だった。どうやらこの三日間で買いに走っていたらしい。経済的な余裕ができた後に買ったものだからか、俺の選んだものよりも明らかに質が良い。
「これ、どっちが天使になるんだろうな」
思わず口をついて出た素朴な疑問だったのだが、それが良くなかった。
「もちろん私のですけど?」
「……って思ったけどやっぱ俺だよな」
売り言葉に買い言葉のようなもので、しょうもない言い合いが始まってしまった。小学生くらいの時にした喧嘩ならそろそろ相手の人格否定タイムに入りそうなタイミングで、俺たちの肩をユーシェが叩いて止めてくれた。
「こうすれば、ずっと一緒だよ?」
そう言って、ペンダントのチェーンに指輪を通す。ペンダントトップと指輪が、彼女の特徴的なオッドアイのようにきれいに並んでいた。
「……ごめん」
「こっちもなんでこんな熱くなったんだろう……」
純粋なものを見て毒気が抜け落ちた。それに比べて俺たちはなんて醜いのだろう。
「まあ、ユーシェが喜んでくれたなら何よりだよ」
気分を無理やり切り替えて、夜食をつまみながら色々な話をした。ユーシェには、俺たちの本当の事情も含めて過去の話をした。
「魔物のいない世界って素敵だね」
「その代わり、色々不自由もあったけどな。でもまあ、その世界は生まれ故郷なわけで……。どうにかして帰りたいんだ」
「それじゃあ、もっと色々なところを探そう? 世界中を見て回ったら手がかりだって見つかるよ」
ユーシェは賢い。俺たちの話を聞いて、そんな励ましも浮かぶよくできた子だ。
「そうね。私たちは決してここがゴールじゃない。むしろここからがスタートラインなのよ」
「ああ、そのためにも改めてパーティーの名前を決めないか?」
元々、俺たち二人しかいなかったため特定の名前も付けなかったのだ。
「いいわね、それ。みんな私たちをどう呼ぶか迷って新人、新人って呼んでたし」
「かっこいいのがいい!」
「……考えるのはそっちの仕事で」
ユーシェの言葉でハードルが爆上がりするが、なんとか頭をひねる。というか、望海は逃げんな。
「うーん。『
「俺の名前から『
沈黙が痛い。脳直で答えを出すのはまずかったか。
「まあ、嫌いじゃないわ。そのセンス。少なくともカッコ悪くないし……」
「わたしも好き~ロウガってところがかっこいい!」
良かったぁ……。大きく息を吐き出す。思わず息を止めてしまっていたようだ。
「それじゃあ、改めて。『明望の狼牙』結成を記念して、カンパーイ!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
幸い、色々な人から貰った食べ物も飲み物も、ちょっとやそっとじゃ底を尽きそうにない。さすがにお酒は大切に保管させてもらうとして、俺たちはその夜も三人だけの宴を楽しんだ。
***
・トラントの渓谷 討伐済
危険度:中
ルダニアの王都から見て北西に分布する渓谷が瘴気域となった。比較的幅広い種類の魔物が生息するが、閉所が多いこと以外危険度は低め。この瘴気域の手前に遺構が存在していることや、瘴気域の主が人里離れた最深部から動かなかったため、討伐は困難を極めていた。
瘴気域の主 『怪樹』
樹齢数千年の古樹が詩片を取り込んだことで魔物化した。植物系の魔物特有の再生力や触手のように伸ばされる太い枝と、奥の手である種子の散布が非常に厄介。
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