EP.6

なんやかんやあったが、無事に騎士団の鍛錬に混ぜてもらえるようになって数日。



「シシリア様、あの剣術はどこの流派のものですか?」


「あのような構え、見た事もありませんっ!」


「もしや公爵家秘伝の剣術では?」


私は若い騎士達に囲まれ、キラキラした目で質問攻めにあっていた。


「いえ、あれは我流ですのよ」


正確には流派はあるのだか、それは前世のもので、この世界には存在しない。


東の国に似ているものがあるが、それを何故この国の公爵令嬢が使えるのかと問われると面倒なので、子供の発想力ゆえ、という事にしておく。



「我流っ⁈それは凄いっ!」


「是非ともご指南頂けませんかっ!」


「俺もっ!俺も教えてほしいっ!」


ハイハイっと手を挙げる騎士達に、こりゃどうしたもんかと首を捻っていると、やっぱりいつの間にか居る、エリオットが、騎士達に向かってニッコリ笑った。


「いけないなぁ、嫁入り前のご令嬢をムサイ男達で囲んだりして」


バックに花でも背負いそうな勢いに、私はウヘっと嫌な顔をして横目で睨んだ。


「エリオット様、こちらでお世話になる以上、公爵家令嬢である事はお忘れ下さい、と私が無理を言ってお願いしているのです。

騎士の皆様はいけなくもないし、ムサくもございませんわよ」


ギラリと睨むと、エリオットはヒョイと肩を上げた。


「仕方ないなぁ、シシリアは。

自分の事を何も分かっていない」


ハァっとこれ見よがしに溜息をつくエリオットに、イッラァとしながらそっぽを向いた。


もうこんな奴、無視無視。

さっさと鍛錬に戻ろう。


丁度その時、休憩終了の鐘が鳴り、皆散り散りに自分の鍛錬に戻っていく。


「今度必ずご指南下さいね」


しっかり釘は刺されたが、さてどうしたものか……。



「シシリアちゃーん、ちょっとこっちに来てくれ」


将軍に呼ばれ、スタスタとそちらに向かう背後に当たり前のようにエリオットが引っ付いているが……無視無視。


「閣下、お呼びでしょうか?」


「シシリアちゃん、いつもの様におじ様でいいんだよ〜」


少女にどこまでも甘い将軍(娘持ち)だが、私はそれに断固として首を振る。


「こちらでお世話になる以上、私の事は配下と同様に扱って下さいとお願いした筈ですわ。

将軍閣下、御用は何でございましょう?」


私の返答に拗ねたように口を尖らせるパワー系イケメン。


むふ、悪くない。可愛いぞ。


「そうか〜じゃあ、シシリアちゃん。

この前の試験で使ったあの剣術についてなんだが、あれは本当に我流で間違いないか?」


ブ○ータ○……お前もか……。

ここでもその話になるとは。


とりあえず、様子を見ながら頷いてみる。


「そうか……。いや、あれはどうだろう?

例えば、この騎士団で使えると思うかな?」


将軍の言葉に、私は首を横に振った。


「あれは騎士団には向きません。

どちらかと言うと、近衛騎士向きです」


私の答えに、将軍と近衛騎士団団長、ジャンの父親ベルーケ・クロード・ギクソット伯爵は顔を見合わせた。


ジャンの父親、ギクソット団長はこの鍛錬場でクラウス達に体術、武術を教えている。


「どうだ、ベル?お前はどう思う?」


将軍に聞かれて、団長は顎に手をやり少し考えてから頷いた。


「確かに、あれは近衛向きだ。

騎士団では通用しないだろう」


「やっぱり、そうか……」


団長の答えに将軍が残念そうに肩を落とす。


あ、なるほどなぁ。

戦闘マニアの将軍の事だから、剣道も騎士団に取り入れたかったんだろ〜なぁ。


しかし、残念。

剣道は元々、刀剣を使う剣術がルーツ。

つまり、日本刀が竹刀になったものだ。

日本刀の切れ味を最大限に活かして戦う剣術は、断ち切る事を主にする。

正に一刀両断。

一刀で断ち切る為にある。


対して騎士団は、他国との戦や魔物や魔獣の討伐が主な任務。

つまり、相手が固い事が大前提。

他国の軍の固い鎧、魔物や魔獣の固い鱗や皮膚。

これらに対抗する為、騎士団の剣はとにかく固く丈夫で重い。

その剣で相手を叩き斬る為だ。

多少刃こぼれしようが相手を叩き潰せる強度があれば良いので、切れ味を必要としていない。

自然、剣術もそんな剣を扱う事に特化している。


日本刀は、切れ味をどこまでも追求し、薄くて細身、切れない物が無いとまで言われるが、その分頑丈さに欠ける。

それゆえに、相手を一刀に倒す剣術が発展していったのだ。


つまりこの二つでは、想定している相手が違う。


一方は、鎧を着た敵や、魔獣や魔物。

対する一方は、生身の人間。


どちらかと言えば、王宮や王都で曲者や狼藉者を始末する役目の近衛騎士の方が、剣道の使い方としては合っている。



「しかしなぁ……あれを取り入れれば軍のレベルが上がる気がするんだが……」


名残惜しそうな将軍の様子に、私はう〜んと首を捻った。


そうだなぁ……例えば。


「私の剣術に合う刀に、鎧や魔獣を穿つ強度があれば良いのですが……。

例えば、強度の魔法などを付与して……」


独り言のような呟きに、将軍と団長が首を捻る。


「強度の魔法?」


不思議そうな将軍の声に、私はハッとした。


そうだ、このアインデル王国は、魔法が発展していない。

当然のように思っていたが、強度の魔法など存在しないのだ。


……ん〜、だとしたら……。


あっ!

私は思い付いた事を将軍に話した。


「閣下!特殊な剣を特殊な魔法で強度を上げれば、私の剣術も騎士団で役に立つと思います。

その二つを叶える方法に心当たりがありますので、私に任せて頂けませんか?」


私の提案に将軍はパァッと笑う。

案の定、食いついた。

よほど剣道が気に入ったらしい。


「良いだろう、シシリアちゃんに任せるよ」


将軍の返事を聞いて、私はニヤリと笑った。



どうせ近い内に何が何でも会いに行くつもりだったのだ。

帝国の赤髪の魔女。


帝国は王国を囲む様に広がっている大国だ。

もともとこの王国は、大昔帝国の皇子の1人が興した国なので、両国の関係は大変に良い。


王国を興した皇子が、皇太子では無かったものの、カリスマ性のある人間で、未だに帝国で人気があるんだとか。

なので、国土も国力にも大きな差があるにも関わらず、帝国人は王国人を下に見たり馬鹿にしたりもしない。

物凄く友好的なのだ。


そんな帝国には、魔法が一般市民にまで広く浸透している。

簡単な生活魔法程度なら、誰でも使える。

それが、帝国が魔法大国と羨望と畏怖を込めて呼ばれる所以でもある。


対して王国では、魔法はごく一部の限られた者のみ、使う事が出来る。

この国を興した皇子の末裔である王族と、その皇子に追従していた騎士の末裔である貴族達。

つまり、先祖が元帝国人だった人間。

なので基本、魔法を使えるのは王族と貴族だけなのだ。


それゆえこの2国には、文明も、国の発展レベルにも大きな差がある。


それを覆したのが、突如帝国に現れた『赤髪の魔女』だ。


彼女は魔法を使えない帝国の人間や他国に向けて、生活魔法を道具という形に変えて売り出した。

最初の頃は高価な魔石を使って原動力にしていたので、貴族や金持ち向けだったが、最近ではカラクリとカガクを駆使した魔石無しの物が主流になり、広く一般にも利用され始めた。


ちなみにカガクとは、帝国の大公が『赤髪の魔女』と共同で生み出した、魔力無しで魔法(生活魔法程度)を使用出来る術式のようなもの……。


湯上がりにパッと髪を乾かす生活魔法は『ド・ライヤー』という道具に。


部屋のゴミや埃を集めて綺麗にする生活魔法は『ソ・ジィキ』という道具に……。


お分かりだろうか?

『ド・ライヤー』と『ソ・ジィキ』である。

『ド・ライヤー』と『ソ・ジィキ』(2回目)


ドライヤーと掃除機だよね?

ってか、カガクって化学だよね?

えっ?『赤髪の魔女』転生者じゃね?


前々からそう怪しんでいた私は、是非とも赤髪の魔女に一目会って話がしたいと思っていたのだ。

いや、実は同じ転生者のよしみで魔法教えてくんないかな〜ってな下心もある。


だが、市井に降りるくらいならまぁ良いが(バレたらこっ酷く叱られるけど)公爵家の令嬢が勝手にぷらっとちょっと他国まで、とは出来ないので、何とか理由をつけて出国出来ないかと虎視眈々と機会を狙っていた。


それが今回、王国騎士団の戦力増強の為、なんておあつらえ向きな理由が降って湧いてきたのだっ!

これを逃がす手は無いっ!


ってな訳で、行くぜっ!帝国っ!

そんで何が何でも赤髪の魔女に魔法を教えてもらうっ!


肉弾戦と魔法を極めれば、更にキティたんの死んじゃうっ子運命回避に近づくっ!


やったるぞーーッ!

今度こそ、待ってろっ!

俺TUEEEEっ!(本音)


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