付き合っていない清楚系美少女がなぜか俺にだけ甘えてくるSS

柊なのは

SS

SS1 小さい頃の私

 とある休日。掃除をしようと部屋を片付けていると幼稚園の時のアルバムを見つけた。


 掃除を中断し、写真を見てみるが、どれも笑っていない。


「可愛さのない写真ばかりですね」


 写真を撮ったのはおそらくお婆様とお父様のどちらかだろう。


 写真を撮る前に「笑ってー」と言われていた記憶があるが、多分私は笑えなかったのだろう。


(今もあまり笑えませんしね)


 ちょうど近くにあった手鏡を手に取り、ニコッと笑ってみるが、ぎこちない笑顔に見える。


 手鏡を机に置いて再び、ページをめくっていくと公園で撮った写真があった。


 後ろには桜が咲いていて、私はお父様と手を繋いでいた。


(これは笑顔だ……)


 笑顔であるときと無表情なときの違いは何だろうか。


 パラパラとページをめくり、いろんな写真を見ていると碧くんから電話が掛かってきていることに気付いた。すぐに通話ボタンを押して電話に出る。


「碧くん?」


『あっ、瑞希? 今から香奈と晃太で新しくできたチーズケーキ屋に行くことになってるんだけど、一緒にどう?』


「チーズケーキ、いいですね。行きたいです」


 掃除の途中だが、今、甘いものが食べたいと思っていたところなので迷うことなく即答した。


『なら3時頃に俺が瑞季の家に行くから、待ってて。そこから一緒に行こう』


「はい」


 通話が切れて、時計を見る。碧くんが来るまでまだ2時間あるので他のアルバムでも見てみよう。


 いい写真なんてないと思うが、小さい頃の自分が気になり、次は小学校の時のアルバムを手に取って開いた。


「これは……」


 1ページには猫さんと一緒に写る私がいた。これを撮ったのはおそらくお父様。


 


────8年前




 お婆様は猫を飼っていた。夏休みには毎年、お父様とお婆様の家に行き、私は猫とよく遊んでいた。


「ラテ、今日は暑いですね」


 お父様とお婆様が誰かとお話ししている間、話し相手がいなかった私は、猫のラテとお話ししていた。


 返事が返ってくることはないが、たまにラテは「にゃ~」と可愛くなく。


「お母様も帰ってきていると思ったのですが、先週ここに来て帰ったそうです。ラテは、お母様に会いましたか?」

 

「…………」


「私も会いたいです。久しぶりに」


 この時の私は、お母様に会って頑張っていることを報告したかった。けれど、今年も会えなかった。


「お母様は、私のことが嫌いなんでしょうか」


 膝の上にいるラテを優しく撫でながらそう呟くと後ろから足音がした。後ろを振り返るとそこにはお父様がいた。


「瑞季、外に出かけるけど行く?」


「あっ、行きます」


「うん、わかった。あっ、ラテと遊んでいたの?」


「はい、ラテとお話ししていました」


「そっか」


 お父様は、嬉しそうに笑いそして急にスマホを取り出し、ラテと私を撮った。


「お父様?」


「これ雪乃さんに送ってもいいかな?」


「お母様に……はい、いいですよ」


 この写真をお母様が見てくれたかは今でもわからない。お父様が送ったとは言ったが、見ていない可能性もある。


「ラテ、行ってきますね」




***




「あれが最後でしたね」


 アルバムはまだたくさんのページがあったが私はアルバムを閉じて、涙をハンカチで拭いた。










★本編のお知らせにあった通り、大学生編はあちらの本編で投稿することにし、こちらの方ではSSを更新していきます。


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