Forget me (not)

深海 悠

遥翔side

一小節目

 同窓会で柊木ひいらぎ真冬まふゆと再会した時、彼女と結婚する未来が見えた。小学生の時から密かに思いを寄せていたが、数年ぶりに会い、改めて彼女と一緒になりたいと思った俺は、その場で彼女に告白した。突然の告白に彼女は些か動揺していたが、猛アタックの末に彼女と結婚することが出来た。


 彼女との生活は幸せに満ちていたが、生活リズムが違うことや出張で家を空けることが多かったこともあり、彼女と過ごす時間は限られていた。彼女と過ごす時間が短すぎて、喧嘩をすることもなければ、同じテーブルでゆっくりと食事をすることも叶わなかった。


 結婚して半年が経ったある日。仕事を終えて家に帰ると、真冬が玄関先で倒れていた。すぐさま救急車を呼び、彼女を病院へ連れて行った。搬送先の病院で、医師から余命半年と宣告され、真冬は即入院となった。

「迷惑かけてごめんなさい」

 病室に行くたびに、真冬は俺に謝罪の言葉を吐いた。自分が重荷になっているのなら、私のことは忘れてくれても構わないとも言った。真冬はみるみるうちに瘦せ細り、ついには面会を断られた。


 数か月の闘病の末、彼女は息を引きとった。覚悟していたとはいえ、妻の死を受け入れることは容易ではなく、いまだ夢の中にいるような感覚のまま、葬儀を終えた。葬儀の帰り道、真冬の叔父から声を掛けられた。

「これを君に」

 手渡されたのは小さなメモ帳だった。

「真冬のことを忘れてくれても構わない。だが、そのノートだけは捨てずに持っていて欲しい。酷なことを言うようで申し訳ないが、どうかお願いします」

 ノートの表紙には、『叶えたいことリスト』というタイトルが付けられていた。ページをめくると、控えめな字で願いごとがいくつか書かれていた。どれも簡単に叶えられるものばかりなのに、それさえも叶えてやれなかった自分を憎んだ。



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