Forget me (not)

深海 悠

遥翔side

一小節目

 運命なんて信じていなかったけれど、同窓会で柊木真冬の姿を見た時、彼女と結婚する未来が見えた。嘘みたいな話だが、彼女も俺と同じことを思ったらしい。数か月の交際期間を経て、俺たちは夫婦となった。


 真冬との生活は幸せに満ちていたが、彼女と過ごせる時間はとても短かった。商社の営業として働く俺は、出張で家を空けることも多かった。彼女との時間が短すぎるせいで、喧嘩をすることもなければ、一緒のテーブルに座って、ゆっくり食事をすることも叶わなかった。


 真冬と結婚して半年が経った頃、家に帰ると、真冬がリビングで倒れていた。彼女を病院へ連れて行くと、医師から余命半年だと告げられた。

「迷惑かけてごめんなさい」

 病室に行くたびに、真冬は謝罪の言葉を繰り返した。自分が重荷になっているのなら、私のことは忘れてくれても構わないとも言った。真冬はみるみるうちに瘦せ細り、ついに面会を断られるようになった。

 余命半年と言われた翌年の夏、真夜中に病院から呼び出しの電話が入った。

 真冬の手を握りしめながら、妻を助けてくださいと何度も天に祈った。やがて真冬は静かに目を開けた。

 真冬は俺を見て、「先生」と言った。

「さっき、夫と向日葵畑に行ったんです。夜にはスイカを食べて、どちらが長く線香花火を灯せるか勝負したんですよ。とても楽しかったなぁ」

 真冬の手からふっと力が抜け、ベッドに静かに倒れた。その後のことはよく覚えていない。ただ、葬式の後、真冬の養父から言われた言葉だけは鮮明に覚えている。

「君はまだ若い。真冬のことは、忘れてくれて構わないから」

 彼なりの優しさだったのかもしれないが、その言葉は俺の心を深く抉った。

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