今夜はあなたとずっといっしょに
鮎川伸元
今夜はあなたとずっといっしょに(その①)
新幹線の狭いドアをくぐる。自分のスーツケースをどこかに引っかかることがないように慎重に運ぶ。
「えっと、、Fの12、Fの12、、あ、ここだ」
一番窓際の席それが今回の僕の旅の始まりだった。
ちょうど冬至の日、僕は折角の冬休みなので、おばあちゃんの家に行くことにした。しかも両親は年末の仕事が忙しいので、今回はなんと一人旅。若干の寂しさを感じつつも、やはり一人で新幹線に乗り、旅をするという非日常が僕の心の隅に残っていた。どんなことをするにも、まずは腹ごしらえから、僕はおもむろにリュックの中からお弁当を取り出した。今回買ったのは、駅のデパートで買った線を引くとお弁当があったかくなるやつだ。
「うぅまぁあーいーー!」
一人旅だからか僕の気分は最初から全開だった。周囲からの視線を感じ、我に返った。恥ずかしかった自分はお弁当を抱え込み突っ伏した。その状態から窓を見ると、そこにあったのは一面雪の銀世界だった。長らく東京という大都会に住んでいた自分にとっては、この一面の銀世界の言うのがとても新鮮だった。
新幹線を降りたら特急列車に、特急列車を降りたら普通電車に、普通電車を降りたらバスに、僕のおばあちゃんの家はすごい田舎にあった。おばあちゃんの家から一番近いバス停までついたときにはもう夕方になっていた。最終的におばあちゃんの家の玄関のベルを押すことができたのは完全に日が落ちた後だった。
「ジリリリリリ」
今時こんな音の鳴るベルが存在するなんて思ってもみなかった都会っ子の僕は環境の違いに早くも不安を感じていた。
無駄かもしれないと思いながら、ドアの取っ手に手をかけると、ガラガラガラと引き戸は何の抵抗もなく開いた。家には人の気配どころか電気一つついていなかった。
勝手に置いても大丈夫かな?と内心思いつつも貴重品をそのまま外に放置する方が嫌だったので、一旦家に上がることにした。居間には蠟燭とマッチ、たたまれた提灯が置いてあった。僕はこの小物たちを見て見当がついた。おばあちゃんはおじいちゃんのお墓に行ったんだ。僕は夜の田舎道を歩き出した。田舎道に街灯なんてものは無く、自分のスマホのライトだけが頼りだった。ライトの光が届かない所には闇しかなく、家で待っていれば良かったなあ、と内心後悔しつつ、でも進まなければならないと感じた。なにか大切なもののために、、、。
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