第3話 実戦を覚える

 〜〜〜マリィ


 落ち着いたあと、まず最初にしたのは靴の確認だ。

 旅の途中で靴が破損なんて地獄でしか無い事は、素人の私でもわかる。


[確認]編み上げ靴_革製_使用可_足装備可


 確認さんは使用可って言ってるな……ヨシ!


 パンチはスカった。(才能ナシ)


 キックはなにか補正っぽい誘導の動きが有ったし、スキル的な何かだと思われる。


 朽ちてたとはいえかなり太めの枝を刈飛ばしたので、人間には向けたくない。


 人間の身体が砕け散るのを想像してブルリと震える。


 ……戦士なら大丈夫だったりするんだろうか。

 戦士は同じことをしてくる?


 自分の身体を見つめる、華奢でどうして傭兵をしてたのかもわからない女の子だ。


 この子は戦ったんだろうか?


 私も戦えるだろうか?


 持久力と攻撃力とは確認できた。

 だが、私自身の瞬間的な耐久性は不安だ。

 今は布装備だし後衛職的な感じなのでは?

 役に立たないゲーム的な考えが浮かぶ。(事実だと思われるが)


 #####


 なんてことを考えていたのが前フリになったのか

 ゴロゴロと岩や枯れ木の転がったマリィのスパーリング広場に、招かれざる客がガチャガチャと現れた。

(芸人かな?)


 出てきたのは周囲の風景とはかけ離れた機械生命のイノシシ!?

 光沢のある前面は完全に金属製に見える。

 弱点っぽい縦に2つ並ぶ横長センサーアイ風の眼が紅く輝いた。


 マリィの体は自然に動いていた。


 「生き残る!」

                 

          山菜でつないできた活力食事効果が一気に活性化する。


 紅い輝きに負けじと、青く光る眼で睨み返す。

(青く光る眼!)


[確認]アーマーボア_魔物_金属_3s後突進攻撃


 ゲームなら明らかに中盤以降出てきそうなメカメカしいイノシシにビビりつつ、[確認]さんのエグさを知る。


 スッと近くにあった大岩を遮蔽にすると。


 ピコピコ眼?を点滅させながら、ノコノコ位置調整を始めた。


 もう一度大岩の後ろに行く。


 ピコピコ眼?を点滅させながら、ノコノコ位置調整を…


 隙だらけの尻に飛び蹴りでキックを食らわせる!


 激しい金属音が響いた。


「硬い……前面だけでなく全身が金属製なのかぁ……」



 ――数分間同じ光景が続き、一方的な打撃が加えられる――


 この世界で初遭遇の存在が、交渉不可の魔物なのを嘆き悲しみ蹴り続ける。(立ち回りが……)

 人間からは理由を付けて逃げたのだが……。

 キックは決まっているが打撃に耐性があるのか装甲が拉げる(!?)だけで倒しきれない。


「キックをもらったなら、理に従い素直に爆発してほしい」(なんの理?)


 初戦闘で予知有りとはいえ、頑張っていると思う!(感動した!)


[確認]アーマーボア_魔物_金属_1s後タックル


 マリィの視界が砕け飛んだ岩の確認で埋まった。


「あっ」(あっ)


 バフッと交通事故のような音が響いた。

 岩ごと吹き飛ばされたのだ。

「っうう〜!?」

 服以外が身綺麗になったマリィがキラキラした髪をなびかせて、もと来た道へ水平気味に飛んでいく。


 そのままだと地面に叩きつけられて、慈悲なき起き攻めをされてしまうだろう。


 空中で何ができるはずもなく地面をドタバタ転がると、背中を庇いながら飛び起きた。

 目を青く輝かせて索敵しつつ新しい大岩を探している。

(良き闘志だ)


「グエッえー、痛……すぎ……ん?」


 ……アーマーボアが、消えた。

 白昼夢でなかった証は衝突場所に転がるゴロゴロした石と金属片だけだ。


「ええ……?に、肉ぅ……」


 キックでダメージ蓄積が起きて防御の低下が併発していたのか、岩ごとは無茶だったのか。

 自身の攻撃の反動に耐えられなかったようだ。


 人間が吹き飛ばされて軽傷なのは意味不明だが。


 服がぼろぼろなため、だいぶ暗くなるまで副葬品の針と糸で[確認]の光を頼りにしながら縫い直すことになった。

 マリィの糸物資に大ダメージだ。

 落ちていたのは金属片のみ。


 得るものは少なく失うものは多い。


 だが生きている。


 そして、この世界の勝利には報酬がある。

 もし格上を討ち取ったならそれは大きくなるのだ。

(喜び勝利に酔え)


 マリィは自分を見つめた


 マリィ_人間_戦士_レベル5


 レベル5は熟練の戦士並だ。

 生存の道は切り開かれたと言える。

 

 今、確実に言える事。

 それは、このまま放浪を続けていては。

 社会復帰困難になる事。


 人と会う服が無いのは不味い……。

 今回はうまく繕って服の形を維持している。

 だが、幸運は何度も続くものではない。

(限界は来る)


「へへ……私ってば、めっちゃ強くなったんじゃ?」


 「バリッ」と高まったパワーで石を握りつぶし、悦に浸るマリィ。

 朦朧としながらモソモソとカバンから雨具と、しおしおの調理済み甘味山菜を引っ張り出す。

 近くの木陰で、毛布代わりの雨具に包まり。

 山菜をもちゃもちゃ喰らい。

 そのうち眠り始めた……。

 「私ぁ強ぃ~♪」

 戦士には休息が必要だ。

(幸福な夢の中で今だけは休むが良い)


 ここに騎士並みの力を持つ、素寒貧が誕生した!



 [確認]布の服+_布・金属製_体に装備_物理耐性

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