97.怪談ブーム
「昔は人の遺体から薬を作っていた──ってことは知ってるか?」
と私は話しかけた。田舎の村の小学校──今は廃校になっているが──を金を払ってまで借りた酔狂な大学生たちにだ。
目的が怪談を研究する、ってんだから都会もんの考えていることは判らない。
まあ、雪が積もれば街に出るのさえ苦労するような田舎に来てくれたんだから私も少しは協力しようと思って、話を切り出したわけだ。
「肝臓、胆、脳みそ、血液、頭蓋骨、へその緒、胎児──には薬効があると信じられていたんだな。さすがに明治には死体から摘出しての密売は政府から禁止されたが、迷信はそのあとも残り続ける。そして──<肝取り勝太郎事件>が隣村で起こったんだ」
「──肝取り勝太郎?」
「女五人を惨殺して肝を商人に売った男の事件だ」
私はストーブの灯油が充分残っていることを確認した。大学生は男三人に女二人。
「ここは木造で隙間風が入る。だいぶ冷えるから対策は十分にしてくれよ。この時期熊は冬眠してると思うが、もし見かけたら刺激しないようにして連絡してくれ。猟銃持って駆けつけるから」
「熊、出るんすか」
「まあな。過疎で山に人が入らなくなった分、動物の行動範囲は増してるってわけだ。悪いことは言わねえ。今からでも宿取ったらどうだ。人がいる方が安心だろう」
「いいえ。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
「そうか。じゃあ、気をつけて」
私は彼らと別れてからいったん家に帰り、用事を済ませてから迷彩服に着替えた。
猟銃と
校庭の木の陰で身を潜めていると、いくつかの悲鳴が聞こえてきた。
怪談の会なんて嘘なのは判っていたが、ここでデスゲームを始めるとはな。
女が一人出てきた。腕を抑えている。夜目にもわかるほどの出血。
その背後から、男が近づく。右手に光るのは大型のナイフ。
男がナイフを振り上げた。月光に刃がきらめく──私は銃を構え、撃った。男は後ろに倒れて動かなくなった。
女は助かった、という顔で私を見ている。私は女に近づくと、囁いた。
「君たちはこの村には来なかった。キャンセルの電話さえこないとは、残念なことだ」
私は女の頭に
村長に電話を入れる。
「ああ、薬の材料が手に入った。口裏合わせの方しっかり頼むぞ。これで伝統を守れるな」
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