神隠し

 はい。私が埋めました。


 けれど私が手をかけたのではありません。あれは事故でした。

 ただ悲しくはなかったのです。ほっ、としたというか──もう構わなくていいんだという開放感だけがありました。

 自分で腹を痛めて産んだ子なのに、おかしいですか?

 母が子を無条件に愛せなくては駄目なのでしょうか?

 私にはどうしてもあの子をいとしいとは思えなかった。だからあの子が死んだときに恐れたのです。私が殺したのだろうと皆から糾弾されはしまいかと。裏の庭に穴を掘って埋めました。

 そうして我が子が消えてしまった母を演じてきました。神隠しとして村で噂になり、皆と協力して何度も山に探しに行きました。私は同情され、いたわれました。今まで私にはそんなことをされた経験はなかったのです。それはひそかな快感でした。

 二年が経ちました。


 ある朝、私は夫が悲鳴を上げるのを耳にしました。庭の方でした。私はすぐに駆け付けました。

 そして見たのです。

 膝から崩れ落ちそうになりました。

 たけのこが地面から顔を出していました。あの子の右の、小さな手の骨をひっかけて。



 おそらく濡れ衣を着せられて、神様が怒ったのでしょう。だってあれは神隠しではなく──神あらわしとでもいう他はないじゃあありませんか。

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