意味怖

連野純也

season2 (31~)

空き巣

 刑事さん、私は空き巣専門です。強盗たたきなんて下品な真似しませんや。まだ明るいうちに塀とかの死角に入って、じっと待つんです。家の中の人の動きを想像しながらね。

 その家は何かおかしかった。夜になっても電気がつかない。空き家なのかと思った。でも窓から見ると調度はあるようだ。

 えいやと、窓から侵入はいったんですよ。リビングにね。物が少ない部屋でした。最近のミニマリストってやつですかね。ただソファとセットのテーブルには、からになったコンビニ弁当がありました。

 寝室をのぞきましたが、誰もいませんでした。奥から小さな物音が聞こえます。まだ起きているのかもしれない。これは入る家を間違えたなと思いまして、退散しようとしたんですよ。

 すると、男が立っていたんです。音もなく、深夜に申し訳程度の常夜灯が照らす中、大工が使うようなを持ってね。

 心底ビビりました。でもね、その男、静かなんですよ。私を見てもぼそりと、

「……ここで何してるんだい」

「ひ、ひとがいると思わなかったもので。失礼しました」

「泥棒か。ちょうどいい、少し作品を見ていかないか」

 ははあ、頭のねじが飛んでるやつだ、と思いましたよ。下手に刺激すると大騒ぎされる恐れがあるわけで。

「作品、ですか」

「お化け屋敷は知ってるだろう? 夏に依頼が来るんだ。マネキンや絵の具を使って怖ーいジオラマを作るのさ」

「ああ、お岩さんみたいなお化けを作るんですね」

「最近は廃病院ものが多いね。人に見られるとまずいんだ。情操教育に悪いと近所の子供の親に何度も怒鳴り込まれてる」

「なるほど。大っぴらにはできないが感想は欲しい。承認欲求ってやつですかね」

 男はにやりと笑いました。

 アトリエ──というより作業場って感じでした。壁と床はビニールが張ってあります。つんとくるシンナーの匂い。そこにはナース服をまとうバラバラにされたマネキンらしき物体が置いてありました。断面まで描きこまれていて非常にリアルで。胃液の酸っぱいやつが喉元まで上がってきたのを覚えてます。

「こいつは凄い……皆ビビりますぜ」

「ありがとう。言っておくが、口外無用だぜ。下手に噂になったら、僕は家宅侵入の被害届を出すからな」

「いや、絶対に言いません」

 私は逃げるようにその家を出ました。

 男の言うことは筋が通っているかもしれません。ただね、刑事さん。


 マネキンを切ったに、どうして髪の毛がからみついていたんでしょうね?

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