第40話 乗船券を手に入れる

 年齢詐称は言われるかもと思っていたので、商人ギルドのギルドカードをすぐに出しました。カウンターのおばさんは訝しそうな顔で、そのカードの裏書を見ると、ギョッとしています。


「え、じゅ、10歳!?」


 そんなに驚くことはないと思うのですが、おばさんはカードと私を見比べています。おばさんの大きな声のせいもあってか、近くにいた男の人たちがじろじろと見てきます。


「あの、他の人も待ってるんで」

「あ、そ、そうね。目的地は向こう岸のカジャダインでいいかしら」

「……他に行く船があるんですか?」


 おばさんが言うには、対岸に向かう船の他に、北の王都に向かう船と、東の海方向に向かう船もあるそうです。値段を聞いたら、子供でも最低一人銀貨10枚と言われて、とてもじゃないけど乗れないと思いました。


「はい、これが乗船用の券だよ。今日の出航は、16時が最終だから、それを逃したら明日になるわよ」

「はい、ありがとうございます」


 カジャダインまでの乗船券は、子供一人に銀貨1枚、馬車が5枚かかりました。

 その間、双子は大人しくしていたので、二人の頭を撫でてあげました。


 ――どんどんお金が減ってくなぁ。


 早いところ、隣のヨラニード子爵領に行って、色々と換金しないといけないと、つくづく感じました。


 私たちは乗船券を手に入れると、混雑している建物の中から出ました。そして、馬車の置いてある場所へと向かいます。

 先程の船会社のマークの付いた腕章を付けた若い男の人が私たちに気付いたようで、馬車を動かそう、ダーウィの手綱を握ろうとしました。


「あちっ!?」


 たぶん魔道具が反応したのでしょう。男の人がびっくりした顔で、痛みを散らそうと手を振っています。

 所有者と許可した者以外が触れたら、ビリリッと電撃が走るようになっていたのです。


「ああ、すみません」

「いや、俺のほうこそ、防犯の魔道具が付いてるって言ってたのに、忘れて触ったから」

「よかったら、これ、どうぞ」


 良かれと思ってやろうとしてくれたのはわかるので、マジックバッグ(と見せかけてインベントリ)から飴の入った瓶を取り出しました。中に入っているのは、スース―飴(ハッカ飴)です。『フロリンダ』の時は好きでよく舐めていましたが、今の私は子供の味覚のせいで、美味しく感じないのです。

 私が一粒だけ、男の人に渡すと、男の人はにっこり笑って飴を口に放り込みました。


「ほー! 凄い、スース―するな」

「味、大丈夫ですか?」

「ああ。ありがとうな」


 双子を馬車に乗せ、私は御者台に乗ります。


「カジャダイン行きの船は?」

「それだったらあそこで待ってれば、もう少ししたら来るだろう」


 河岸に見えるのは、小さな船だけになっていました。先程の『フェリー』サイズの船はもう出てしまったようです。

 男の人にお礼をいうと、私は河岸のほうへと馬車を向けます。

 私たち以外にも、対岸に行く旅人や馬車が集まっています。思ったよりも多くて、私たちの馬車も乗れるのか心配になってきました。


「船がきたぞ」


 近くにいた別の馬車の御者のおじさんが、護衛の人に声をかけています。

 その声に私も川の方を見ると、大きな船がこちらのほうにゆっくりと近寄ってくるのが見えました。

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