第39話 領境の街に入る

 日が昇った頃、私たちは再び馬車に乗って移動し始めました。

 朝になっても糞玉のニオイが辺りを漂っていて、なかなか厳しい状況でした。

 なので、『テイルウィンド』で糞玉ニオイを飛ばして、モノのそものは『ファイアーボール』で燃やしてから、野営地を離れました。

 御者台から軽快に走るダーウィの背中を見ながら考えます。

 魔道具のテントには魔物除けがついているので安心していましたが、外にいるダーウィを守る方法も考えてあげないといけないことを、すっかり忘れていたのです。


 ――毎回、糞玉はちょっとねぇ。


 インベントリにあるのは一瓶だけです。使い切ったら、また作ればいいかもしれませんが、そもそも原料となるワイルドグリズリーは北のほうに生息しているし、そこで生き残れるほど、今のロジータには力はありません。


 ――お金で解決できるなら、それにこしたことはないんだけど。


 そのお金自体も心もとないのです。

 早いところ、『フロリンダ』時代の在庫を売り払えたらいいのですが、この領内ではまだ不安が残ります。特に小さな村や町のギルドほど、秘密保持が難しそうに思うのです。


「あ、石壁が見えてきた。あれがオジマーの街かな」


 オジマーはゼーノン伯爵領の領境の街です。川を挟んだ向かい側が、ヨラニード子爵領になります。

 私は街道の方へ向かうように手綱を動かします。スピードを落としつつ街道に戻ると、街に入るための列に並びます。

 

「はい、身分証」


 衛兵のおじさんが無愛想に言います。

 私は前回のイゴシアでのこともあるので、私の身分証とともに馬車に子供が二人乗っていることを伝えました。 


「一人銅貨4枚」

「え」


 イゴシアの倍します。そのことを聞くと、川の管理にお金がかかるのでよそとは違うのだと教えてくれました。無愛想ですがいい人でした。ちなみに、大人は一人銀貨2枚だそうです。

 ここではお金を払ったら、馬車の中のチェックもなしに、すんなり通してくれました。

 船着き場に着くと、大きな船や小さな船が並んで停泊しています。

 大きなのは『日本人』時代に見た『フェリー』のような感じで馬車や荷物などを運ぶもので、小さな船はいわゆる人だけを乗せる渡し舟のようです。

 川の幅は思っていたよりも大きく、確かにこのくらい大きな船が必要かもしれない、と思いました。

 私は乗船の受付をしている建物の前へ馬車を向かわせます。私の馬車以外にも、大きな馬車が数台停まっています。行商人の集団のようです。

 停車場の隅の方に馬車を停めていると、船会社のマークの付いた腕章を付けた若い男の人がやってきました。


「この馬車は船に載せるのかい?」

「はい」

「じゃあ、この札を持って受付にいってくれ。馬車はこっちでみてるから」

「わかりました。簡単な防犯の魔道具が付いてるので、馬車には触れないでくださいね」

「ああ、わかった」


 私は馬車から、双子を下ろして一緒に建物の中に入ります。

 周囲は皆、身体の大きな大人たちばかりです。双子は私の服の裾をつかみながら後をついてきます。

 受付カウンターは5つあるのに、どれも列が出来ています。行商人やその護衛たちなのでしょう。


 ――この様子だと、今日中に隣のヨラニード子爵領に行くのは無理かしら。


 そんなことを考えているうちに、私たちの受付の番になりました。


「子供3枚と、馬車1台です」

「子供ですって?」


 男の人に渡された板を差し出しながら言うと、カウンターにいたおばさんにジロリと睨まれました。双子が怖がって、ギュッと私の服を引っ張ります。

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