<『黄金の獅子』>

 シジャークダンジョンからアーカンスの街に向かう乗合馬車が、ガタガタと音をたてながら街道を走っていく。

 その乗合馬車の中には、多くの冒険者たちと同様に、やけにボロボロな格好の『黄金の獅子』の面々が頭を項垂れて乗っていた。


「ったく、なんでチビのバッグくらい奪えなかったんだよ」


 パーティリーダーの剣士が、隣に座っている斥候役の女性にボソリと呟く。

 他にも乗客がいるせいもあって、声は抑えめだが、その声は酷く冷たい。


「ちゃんと手に入れたって、何度も言ったわよね」

「じゃあ、なんでないんだよ」

「わかんないわよ。いきなり消えたんだものっ。それも何度も言ってるじゃないっ」

「本当よ、本当なの、リーダー」


 リーダーの向かいに座っていた、魔法使いの女がより声をひそめていう。斥候役の女と一緒にロジータを竪穴に突き落とした女だ。


「それなら、お前が盗んだってことだよな。これも何度も言ってるか」

「酷いっ」


 シーフの男が忌々しそうに言うと、魔法使いの女が泣きそうな顔になる。


「煩いぞ」

「……」


 同乗していた他の冒険者から注意されて、皆が口をつぐんだ。同時に、それぞれにダンジョンの中での出来事を思い返していた。


 

 新人のロジータを連れてダンジョンに入り、とんとん拍子で階層を重ねていく。

 それはいつもよりも早いペースで、たった3日で14階まで行くこと自体が奇跡に近かった(本来は1週間はかかる)。

 そのことに調子づいて、アマンダからの裏の依頼である『マジックバックの奪取』も簡単に出来ると思っていたのだ。

 しかし、実際には魔法使いと斥候役が失敗した。本人たちはちゃんと手に入れたというが、手ぶらで戻ってきたのだ。

 それからは、最短の帰還の転移陣の間がある10階に戻るのにも一苦労で、なんとかダンジョンから戻れたのは新人ロジータを突き落としてから5日目の朝だった。




 アーカンスの街に着くとすぐに、冒険者ギルドへと向かった『黄金の獅子』の面々。カウンターにはアマンダの姿はなく、シルビアの所以外の窓口では待っている者がいる。

 早く宿をとって休みたい彼らだったので、シルビアの元へと向かう。


「『黄金の獅子』だ。アマンダは?」

「アマンダ? ああ、元ギルマスの愛人のアマンダのこと?」

「はっ!?」


 パーティリーダーの剣士は、アマンダとギルマスの関係を知らなかったものだから、驚きの声をあげる。


「え、あ、愛人って、どういうことだよ」

「あら、知らなかったの? まさか……あなたもアマンダに騙されてたクチかしら」


 わざとらしく言うシルビアに、呆然となるリーダー。

 パーティメンバーたち、特に女たちは知っていたのか、苦い顔になる。


「ちょ、ちょっと、それよりも、元ギルマスってどういうことだよ」


 シーフの男がシルビアに問いかける。


「ああ、一昨日、王都のギルド本部から査察官が来てね。元ギルマスとアマンダの不正が見つかって、二人とも捕まったのよ」

「えっ」

「そうそう……あなたたちにも、新人冒険者に対する規約違反と殺人容疑がかかってるのよ」

「なっ」

「どういうことっ」


 彼らが慌てていると、奥から黒いスーツ姿の男たちがぞろぞろと出てきた。


「はいはいはい、大人しくしろよ~」

「まったく、真面目にやってれば、もっと上のランクに上がれただろうに」


 『黄金の獅子』は、逃げる間もなく、あっけなく捕まってしまった。

 

「ほんと、馬鹿よねぇ」


 シルビアは黒いスーツの男たちに連れていかれる『黄金の獅子』の背中を、冷ややかに見つめるのであった。

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