第26話 ロジータ、買い出しに行く(2)
肉を焼くいい匂いが辺りに漂っています。
「うわ、美味しそう」
人が列をなしている屋台は、きっと美味しいのでしょう。
並ぼうか迷っているところで、別のいい匂いが鼻腔をくすぐります。
「あ、これは、焼き鳥の匂い!?」
焼き鳥の『タレ』の焦げる匂いに似たものが、私の胃袋を呼んでいます。
そういえば、昨日院長先生と夕飯を作る手伝いをしていた時に、この世界には1回目の『日本人』としての人生の時に口にした、調味料に似た物がいくつかあることに気が付いたのです。
それが『醤油』と『味噌』です。
――まさか、それが木の実だったとは思わなかったけど。
ソイの実と言われる『ココナッツ』の実のような物の中に、『醤油』のような果汁(?)と『味噌』のような果肉(?)があるのです。
毎回割るのに時間がかかるので、調味料としてはたまにしか使いません(昨日も私の帰宅のお祝いでもなかったら使うことはなかったでしょう)。
たぶん、あの焼き鳥は塩焼きの焼き鳥よりもお値段がはっているはずです。それでも並ぶくらい美味しいんだろうとは思います。
「はい、いらっしゃい、いらっしゃい!」
「ケージャの実の団子はいかが~」
「焼きココーン、1本30ギル、30ギルだよ!」
焼きココーンの響きに足が止まります。
屋台を覗き込むと、いい焦げ具合のオレンジ色のココーンが並び、甘い匂いが漂っています。
――『日本人』の記憶としては、黄色い『トウモロコシ』なんだけど、私の中ではオレンジ色が普通なのよね。
まだ前世の記憶とのすり合わせが出来ていないせいで、違和感を感じています。でも、どちらの記憶でも、これは美味しい、とわかっています。
「おじさん、1本ちょうだい」
「あいよっ。おや、可愛いお嬢さんだ、一番大きいのをやろう」
「ありがとう!」
焼き上がっているココーンを包み紙代わりのココーンの葉で包んだのを受け取り、お金を渡します。
葉で包んであっても焼きたてのせいで熱さが伝わります。屋台から少し離れたところで、あっち、あっち、と声をあげながら、私は葉を剥くと少しだけフーフーと冷やしてから、がぶりつきました。
「はっ、はふ、あっつ! うまっ!」
口の中をココーンの粒と汁でいっぱいです。
――ヤバっ、ちょっと美味しすぎ。
焼き加減がバッチリすぎます。焼きココーン自体は、どこの町や村でも売っているモノなのですが、ここのおじさんの腕がいいのかもしれません。同じように自分も焼けるか、と言われると自信がありません。
私は少しだけ考えて、食べ終えてからもう一度屋台に行って、後でダニーとサリーと一緒に食べるために追加で3本買いました。
焼きココーンでお腹が膨れてしまったので、食料の買い出しを続けます。
食べ物屋の屋台の通りを抜けると、肉類を扱っているお店が見えてきました。一際大きなお店では、店頭に大きなオークや牛のような肉が吊るされています。
――うわ、こんなところに出す?
今までは気にもしてなかったのに、今では、誰でも触れるようなところに生肉を置いている様子に、不衛生を感じるようになっています。
例え、人がいっぱい集まっているお店でも、こういうところの加工肉(ソーセージやハム、ジャーキー)を買う気にはなれません。
私は少し奥にいったこじんまりとした老夫婦のやっているお店で、ソーセージとハムを買い込みました。量が多かったせいか、おばあさんがオマケで煮オークをつけてくれました。
これ、絶対、美味しいやつです。
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