第14話 アーカンスの冒険者ギルド

 ホーマックさんは私の歩くペースに合わせて、右足を少し引きずるようにして、隣を歩いています。

 彼も以前は冒険者をやっていたそうで、依頼の途中で右足を怪我して引退することになったのだとか。一時期、ひどく落ち込んでいたそうですが、そんな彼を支えたのが今の奥さんだそうです。

 そして、そんな彼が傷を負うような依頼を受けることになった原因が、私にポーターの仕事を回してきた受付のアマンダという女性なのだそうです。

 私はお姉さんと言いましたが、ホーマックさんに言わせると『とんだアバズレババァ』なのだそうです。それは10歳の私に聞かせていい言葉なのか、と思いましたが、精神的にはホーマックさんよりも成熟していると思われるので、笑顔で流してしまいましょう。


「さて、ついたぞ」


 ホーマックさんは立ち止まって建物を見上げます。

 3階建のギルドの建物は、周辺の建物が2階建てなのに比べても、一際大きいです。

 私自身、登録の時と、ポーターの仕事を受けに来た時、この2回しか建物の中には入ったことはありませんでしたが、いつも通りすがりには見ていた建物です。 

 勢いよくドアを開けたホーマックさん。私はその後を遅れないようについていきます。


「おい、ホーマックじゃねぇか」

「あいつ、衛兵になったんだろ」

「なんだってギルドに」


 中で屯っていた冒険者たちのコソコソと話す声が聞こえてきます。

 受付カウンターの方を見ると、3人の女性が座っています。

 右端に座るのはブルネットに青い目の小柄な女性、真ん中に座っているのは赤毛に緑の目のちょっとキツメな顔の女性、左端は金髪をお団子にまとめて眼鏡をかけている女性。

 私が覚えている女性はいないようです。

 ホーマックさんは、中央に座っていた赤毛の女性に声をかけました。


「アマンダは?」

「あら、ホーマック、久しぶりね。アマンダなら今日は休みよ」

「そうか……だったら、ちょうどよかったかもな。ロジータ、こっちに来い」


 ホーマックさんが手招きをしたので、彼の隣に立ちます。赤毛の女性は、不思議そうな顔で首を傾げ、ホーマックさんに目で尋ねています。『この子が何か?』と。


「この子はロジータ。この前、ポーターの依頼を受けて『黄金の獅子』に同行していたらしい」

「そう……ロジータちゃん、ギルドカード、貸してくれるかしら」


 いきなりギルドカードを求められて、思わず躊躇してしまい、ホーマックさんの顔を見上げます。すると、彼が力強く頷いたので、信じることにしました。


「少し待っててね」


 赤毛の女性は、その場でカードを照会しているようで、何かを見つめています。

 さすがに『フロリンダ』時代でも、ギルドの仕組みまでは知らなかったようで、あちらにどういった情報が表示されているのかわからず、不安になります。


「……!?」


 赤毛の女性が、何かに驚いたのか、大きく目を見開きました。そして、そのまま私の方へと目を向けます。


「ロジータちゃん、このダンジョンの階層って」

「あ」


 なるほど。

 昨日、ダンジョンで出た時に水晶にかざしたデータが反映されているってことですね。


「……ちょっと、ここでは難しそうだから。二階、いいかしら」

 

 赤毛の女性は、難しそうな顔をして少し考えた後、ホーマックさんに声をかけました。


「なんだ、面倒な話になりそうなのか」

「ええ、そうね」


 二人ともが意味深に私を見ています。

 その様子からも、私には拒否権はなさそうなので、仕方なく二人の後をついていくことになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る