第12話 お風呂と、これからのこと
「ふぃ~っ!」
身体とともに下着も洗いおえた私は、肩まで湯舟につかって、思わず声が出てしまいます。
両親が生きていた時には、何度かお風呂に入ったことはありましたが、こんな立派な湯舟は今世では初めてです。
「あ゛~、気持ちぃぃぃっ」
少し熱めのお湯が気持ちいいです。じゃぶじゃぶっと勢いよく顔を洗います。
そして、天井を見上げながら、考えます。
――さてと、これからどうしようか。
まずは、私がポーターの仕事を受けた冒険者ギルドのある街、アーカンスに完了報告に戻らないといけません。たとえ、依頼主であるパーティが一緒にいなくても。
ポーターの雇い主は冒険者ギルドであり、冒険者たちではないからです。
依頼主が同行していないので、報告の時に多少揉めるかもしれないけれど、最悪、預かっていた彼らの荷物を引き渡してしまえばいいだけの話です(そうでなければ、頂いてしまう気満々ですが)。
――でも、ポーターの仕事って、大したお金にならないんだよね。
ポーターの仕事は荷物持ち。自分の身を守る以外の戦闘はしないのが基本です。
特にポーターになりたての子供の場合、ダンジョンに行っても5階くらいまでの低階層まで。アーカンスの場合、1日300ギル(3000円相当)が相場で、実際、私もそれで依頼を受けました。
しかし、実際には地下14階まで行ってましたし、それに疑問も持たずについて行った、当時の自分のお馬鹿加減に情けなくなります。
今にして思えば、私が猫獣人だったから無理がきくと思ったのでしょう。人族の子供、それも初めての仕事だったら、あそこまでついていけなかったでしょうから。
それにアイテムバッグを使う時点で、運べる量が段違いなのですから、1日300ギルは安すぎなのです。私のアイテムバッグについては冒険者ギルド側もわかっていたはずなので、受付担当がグルの可能性もあります。
もし、冒険者ギルド全体でそういう体質なのだとしたら、どうしようもありませんね。
――どっちにしても、彼らが戻ってくる可能性もあるし、さっさと街を出たほうがいいかも。
彼らが私のことをどう報告するかはわかりませんが、先に言ったもの勝ちです。
しかし、アーカンスの街を出るなら、私一人ではダメなのです。なぜなら、私がお世話になっている孤児院には、大事な弟分と妹分がいるからです。
今、アーカンスの孤児院は孤児で溢れています。それは亡くなった冒険者たちの子供であったり、捨てられた子供だったり、理由は様々です。
そんなたくさんの孤児の中、私の弟分はダニー、妹分はサリー、と言います。人族の双子で、私が両親を亡くして孤児院に入るより前に、捨てられていたそうです。
まだ5歳と、だいぶ小さいのですが、孤児院に獣人の子供が多くはないせいか、なぜか私に懐いてしまい、孤児院にいる間はずっと私の後をついてまわっていたのです。
今回のポーターの仕事に行くために引っ剝がすのに、院長先生たちにもご苦労をかけました(遠い目)。
以前の私だったら、彼らを連れて街を出るなんて夢のまた夢でしたが、前世を思い出した今の私でしたら、なんとかなりそうな気がしてきます。
「よしっ」
身体は十分に温まりました。
湯舟から出ると、生活魔法の『ドライ』で濡れた身体を乾かします。以前は生活魔法など使えませんでしたから、魔法のありがたみを痛感します。
さぁ、明日は早くに出て、アーカンスの街に戻りましょうか。
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