第11話 野営の準備と、食事と着替えの服のこと

 すっかり夜が更けてきたようです。青白い三日月が天高く上がっています。

 街まではもう少しですけれど、すでに門は閉まっていることでしょう。さすがの私もお腹が空いてきましたし、この辺りで野営といきましょうか。

 周辺は荒地が広がっていて、見渡す限り建物も森も見えません。そんな中、道から少し離れたところで、インベントリからテントを取り出し、設営します。

 一応、結界機能がついてはいるものの、そのままだと道からは丸見え。変なヤツに目を付けられる可能性、大です。


「確か…・・あった、あった」


 インベントリから取り出したのは、地面に挿すことで起動するタイプの『隠避』の魔道具。4本で1セット。

 テントの四隅に挿し終わると、テントはまったく見えなくなります。

 私にはテントがどこにあるのかわかるので、そのままスルーでテントの中へと入ります。


「あー、疲れたー」


 入ってすぐに靴を脱ぐと思わず声が出ました。

 身体強化して走ってきたことと、気が抜けたこと、両方でしょうか。床にぺたりと『大の字』に倒れこんでしまいました。


「あ゛ー、このまま、寝ちゃいそうー」


 声をあげたと同時に、ぐぅぅぅ~っというお腹の音が響きました。

 

 ――そうだった。お腹も空いてたんだった……。


 むくりと身体を起こして、まずは『クリーン』で自分を綺麗にしてから、インベントリで食料を探します。

 スキルに『料理』があるのですから、自炊することもできるはずですが、今は疲れてるので出来合いの物で間に合わせてしまいましょう。

 今日は『フロリンダ』時代に買った、ゴールデンブル(金毛牛)の肉の串焼きに、ココーンのスープ、馴染みの宿屋のおかみさんのパンにしましょう。パンは残りが少なくなっているから、控えなきゃいけないんだろうけれど……今は、食べたい気分なのです!


「ふぅ……満足」


 お腹いっぱいになった私は、食器を片づけると久しぶりにお風呂に入ることにしました。

 蛇口を捻ってお湯がドバドバと出ていきます。湯舟にお湯がたまるのを待ちながら、私は着替えの準備です。

 インベントリの中に入っていた寝巻(ネグリジェ)は、『フロリンダ』時代のモノ。当時は今よりもずっと背が高かったので、今の私では引きずりそう。他にはないか、と思って見つけたのは、白い長袖シャツ。当然、『フロリンダ』の物ではあるのですが。


 ――これが恋人のシャツだったら『彼シャツ』とか言ったんだろうけど。


 自虐気味に苦笑いを浮かべた私でしたが、今は着られるモノがないので、仕方がありません。

 1回目の前世の時に着ていた『ジャージ』や『Tシャツ』、『ハーフパンツ』など、今は見たこともありませんが、あったらいいなぁ、と思ってしまいました。

 それよりも、問題は下着です。

 今までは胸は特に意識せずにそのままでしたが、1回目の前世での『ブラジャー』を思い出してしまったのです。『フロリンダ』の時はツルペタでしたが、今はぽよぽよと動く胸の鬱陶しいこと。

 それと、『フロリンダ』のパンツ。サイズはなんとか履けはするものの、尻尾を通す穴がないのです。仕方がないので、パンツは今履いているのをお風呂で洗濯して乾かすしかないでしょう。


 ――スキルに『裁縫』があったから、自分で色々縫えるんじゃない?


 そのためには色んな道具が必要だけれど、『フロリンダ』が持っているわけもなく。街に帰ったら買い出ししたいと思ったものの、肝心のお金をどうやって用意したものか、と悩んでいると。


『オフロニオユガタマリマシタ』


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