第3話 ロジータ10歳、今、色々思い出してるところ

 テントの中は、前世の私が使っていたまま、居心地のいい状態を保持していました。

 普通のテントとは違い、オーダーメイドで作られた魔道具でもあるテント。

 広さは10畳ほどでしょうか。ベッドは当然、テーブルや椅子もあります。

 その上、テント内は自動で点灯するし、キッチンやバス、トイレ完備。きっちり結界も張れるタイプ。今、買おうと思っても、冒険者なりたてのポーターの私には一生買うことができない物でしょう。

 そもそもこのレベルの物が、今の時代に売っているのかも、微妙かもしれません。


「とりあえず、疲れた」


 私は「クリーン」と呟いて、身体を綺麗にしてから、ベッドに横になりました。


「あー、なんか、色々、ぐちゃぐちゃだわ」


 心身ともに疲れてた私は、目を閉じると、そのまま意識を失いました。




 思い出したいくつかの前世の記憶が、浮かんでは消えていきます。

 人として転生したのは5回。もしかしたら、人以外の生もあったかもしれませんが、明確に記憶しているのは人として生のみ。

 それも全て殺されて終わるという、なんとも、嫌な終わり方ばかりでした。


 一番古い記憶は、魔法のない世界でのこと。とても高い建物と、鉄の箱が馬もなしに動いたり、凄い人の数の中を歩いていく『私』。

 名前はもう思い出せないけれど、たぶん30代くらい。結婚していて夫の不倫相手に刺されて死んだようです。

 最後の瞬間、不倫相手の嬉しそうな歪んだ顔が、やたらと印象に残っています。


 二番目に古い記憶も、魔法はない世界。20代半ばでしょうか。貴族の正妻だったにも関わらず、これまた夫の愛人に毒殺されたようです。

 私は彼女が、夫の愛人だとは知りませんでした。なぜなら、自分の親友だと思っていた相手だったからです。

 その彼女と屋敷で2人でお茶をしている時に、毒を飲まされたのです。苦しんでいる私を嬉しそうに、そして自慢気に夫との密会のことを、私が死ぬまで延々と語っていたことを覚えています。


 三番目に古い記憶は、魔法があるかどうかはわかりません。身近で魔法を使っているのを見たことがなかったので。そこでは、私はただの農民の娘でした。まだ10代前半くらいだったでしょうか。

 そこそこ可愛らしかったのか、その村の村長の息子に言い寄られていたのを、嫉妬した同じ村の女に騙されて、奴隷商人に捕まってしまいました。そして奴隷として売られる途中、魔物に襲われて死んでしまうのです。


 最後に四番目の前世、一番最新の記憶。それは。


『フロリンダ・デジール』


 今いる世界でも、超有名で、10歳の『あたし』ですら知っている、200年前に存在したハイエルフの魔術師。

 なぜか、彼女の、いや、『私』の名前だけはハッキリと覚えているのです。

 なんとなくですが、これは前世の世界がそれぞれ異なるせいではないか、と予想します。

 ハイエルフということもあり、170歳を越えていました。それでも、見かけは20代くらいにしか見えなかったでしょう。


「くそっ、思い出したら、腹が立ってきた!」


 眠気が吹っ飛んで、思わず叫び、カッと目を開いた私。

 200年前のフロリンダ・デジールの死は、今では有名な物語となっています。

 自分の命をかけて、勇者と聖女たちパーティメンバーを助けた、偉大なる魔術師と。


「ふざけるなっての!」


 正しくは……勇者たちに嵌められて、ライフォンダンジョンのボス部屋に閉じ込められて、魔物……ドラゴンに殺されたのです。

 そのライフォンダンジョンは未だに未攻略。

 結局、彼らは攻略できなかったということです。

 物語では、勇者と聖女が結婚してめでたしめでたしとなっているけれど、今の私には、あの優柔不断な男が、ゴーイングマイウェイの聖女の尻に敷かれている姿しか想像はできません。実際、私をボス部屋に閉じ込めようとした瞬間の二人の顔は忘れられません。

 勇者……剣士ゲイリーの泣きそうな顔と、聖女……ヒーラーのアリステアの高慢な笑みを。


 ほんと、とことん、男運に恵まれません。

 そもそも、最後2回は恋すらしてない相手なんですけどね。


 ――今世は、もう、男はいいわ。


 ロジータ、10歳にして、恋愛否定論者になりました。

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