西暦2059年4月15日(火) 20:52

 YOSHIには攻撃のリズムがある。

 彼の攻撃はワンパターンの対義語であり、非常に多様で、無数のフェイントがデフォで組み込まれており、たとえばYOSHIの斬撃にカウンターを合わせるためにリズムを先読みするといった対策は、極めて困難である。

 下手に先読みしようとすると、YOSHIが攻撃のタイミングを僅かにズラすだけで瞬殺されかねない、そういうメタゲームがあった。


 だがそれも、普通の人間が戦った場合の話だ。

 タツミは対策無しで戦ってもトップクラスの実力者。才気に溢れた彼女が長年YOSHIを研究し続けた結果、彼女の中にはYOSHIの戦闘パターンに対する非常に高い理解がある。


 タツミはYOSHIの動きをある程度先読みできる。だからこそ一度はYOSHIを──第3スキルをほぼ使っていなかったとはいえ──追い詰めたのだ。


 なのに今は先読みできない。駆け引きの中で、タツミの先読みは外れ、YOSHIの先読みは当たり続けている。そこには明確に何か、細工されたカラクリがある。






 タツミを翻弄したYOSHIの技を解体するには、1つの問いを投げなければならないだろう。


 その問いとは、シンプルに1行。


 "多くの人に心の底から認められる最強とは、いったいなんなのだろうか?"






 風成善幸はお世辞で他人を絶賛したりはしない。嘘の期待を語ったりはしない。

 彼の言葉は真っ直ぐな本音だ。

 彼が嘘で隠す時は、よっぽどの時だろう。


 まうと話していた時も、彼はそうだった。その言葉に偽りは無かった。



───ふぅー。すまへんなヨシ。自分で見てもそんな覚えがぅない方でな……あんたが見慣れた天才と比べたら、覚えは雲泥やろ


───いや、十分だ。俺が知る限り、俺の同年代で君達ほどの集中力をもって教えを受けようとしていた人間はほぼ居なかった。基礎練を嫌がり、地味なアクションの最適化を嫌い、チョコパイを餌にしないと話も聞かず……


───それはあんたが公式戦デビューした頃の同年代の思い出話やろがい! 全員小学生やろ! 同年代は!


───……それもそうか



 善幸がズレたことを言うと、瞬時に関西弁でツッコミを入れ、なんでもない会話をコントのように仕上げるまうに、YOSHIはずっと感心していた。


 善幸はまうの『会話のリズム』に合わせられるよう、まうを観察し、まうを見透かし、まうを理解し、まうのテンポを把握する。


 そうすることが、戦場でまうと共闘する時に1番役に立つものであり、戦場でまうと息を合わせるために必要なものだった。

 『まうのリズムを己の内に取り込み、いつか共闘した時、まうに不快な想いをさせずに息を合わせてみせる』。それこそが、戦うことしかできない競技者である彼なりの誠意だった。


 いのりと話していた時も、彼はそうだった。その言葉に偽りは無かった。




───今日は多くを学ばせてもらった


───こっちのセリフだよ~! 今日一日で、ビルド系スキルが千倍上手くなった気がする~! せんせ~の教え方すっごくよかったよ~


───そうか。ならよかった



 善幸が話すスピードよりずっと話すのが遅くて、だからこそ穏やかで、ゆったりとした優しさがあって、のんびりとした明るさを見せるいのりは、色んな人から愛されていた。"俺とは違うな"と、YOSHIが素直に思える女の子だった。


 善幸はいのりの『会話のリズム』に合わせられるよう、いのりを観察し、いのりを見透かし、いのりを理解し、いのりのテンポを把握した。


 まうに対する姿勢と同じ。いつか、いのりと共に戦う日のために、いのりのリズムを学習する。それこそが、戦うことしかできない競技者である彼なりの誠意だった。


 東郷と話していた時も、彼はそうだった。その言葉に偽りは無かった。



───もう語れるぞ。お前と出会えたことは、間違いなく素晴らしい出会いだったと言える


───俺はお前から色んなことを学んでいる。出会って間もないが、もう多くを学ばせてもらっている。だからこれは、いい出会いだ



 まうも、いのりも、東郷も、YOSHIには無いものを持っている。YOSHIは3人の中にある可能性が開花すれば、自分では手が届かない場所まで辿り着けると……自分にはできないことができるのだと、信じている。


 だが、YOSHIが口で他人の可能性を信じていると言ったとしても、それを無条件で信じられる人間はそう多くはない。口だけならなんとでも言えるからである。

 実際に、YOSHIに褒められている途中に、『でもお前の方が凄えヤツなんだろ』と思ってしまうような……東郷のような人間も居る。


 YOSHIには他人の個性ひかりが見えているのだが、その光をYOSHI以外の人間に信じさせることはとても難しい。


 YOSHIが心地良く感じている他人のリズムや、勝てないだけで個性的なスタイル、それぞれの人生が培った心の色は、誰にも見えにくいものだから。






 だが、YOSHIがもし───学習した他人のリズムを使って、戦闘中にとしたら、どうだろうか?






 そう、それこそが、タツミがここまで気付けなかった、タツミが追い詰められた第3の理由。


 タツミはYOSHIを研究している。YOSHIを熟知している。彼のパターンを理解している。けれど、まう、いのり、東郷を研究したことなどない。


 何故なら、タツミは強いから。まう、いのり、東郷相手には、研究しなくても勝てるから。だから知らない。

 時間は有限だ。人は強者になればなるほど、自分より強い人間以外を研究する時間が無くなっていく。強者ほど弱者に無知になっていく。弱者が使うドマイナー戦術が一回だけ強者を倒したなんてミラクルは、どこの界隈でも聞く話だ。


 


 強者は、弱者に対し無知だから。






 世界は無情だ。


 どんな分野であっても、弱者の人生から、どんどんと価値を吸い取っていく。


 絆で芽生える異能など無い。

 繋がりで覚醒する超能力など無い。

 信頼が生み出す新たなる力など無い。

 ポシビリティ・デュエルで用いることができる力は、才能と努力の掛け算のみだ。

 想いが強い人間の絶対力1は、ヘラヘラしたニートの絶対力2に敵わない。


 大人なら、誰もが知っている。

 友情も、信頼も、絆も、真剣勝負の結果を変えたりはしない。

 勝者が敗者を憐れむ想いも、敗者が勝者を妬む想いも、全てが無意味。勝敗を変えたりはしない。


 想いは無意味で、弱者は弱者だ。


 これはこの世界の戦いの基本法則でもある。


 何故ならば……『原作者が見た世界の形』とは、そういうものだったから。

 この世界の原作者そうぞうしゅは、弱者が想いだけで強大な力に覚醒し、強者に勝つようなアンリアルを、自分の作品には許さなかったから。


 皆の想いと絆で強くなっていき、どんな苦難も乗り越える主人公……そういうものを、本当は原作者本人が好んでいるくせに。

 世界は、現実は、こうなんだからと、作品にリアルを盛り込むことをやめられないで居る。

 だから世界はこういう形。


 けれども、世界の外から来たYOSHIだけはこのルールの半歩外に居る。


 彼だけがずっと、前世の頃から想っている。

 『敗者が負けてそこで終わりだなんて認めたくない』と。

 『負けたらそれまでの人生や努力に意味が無くなるだなんて許せない』と。

 ならば。


 YOSHIは前世で掛けられ、今も残る呪いに、どんな答えを出そうとしてきたのだろうか。

 他の誰かの言葉を借りるでもなく。

 他の誰かの想いを代弁するでもなく。

 善幸だけの答えを、語れるのだろうか。




───最愛が最強に勝つ


───そういうのが僕は好きなんだ




 前世の善幸が見た東郷の言葉は、ずっとずっと魂に残る、彼を導くともしびである。











 疾風怒濤。神速で踏み込んで来たYOSHIの斬撃を、タツミは大剣で迎撃しようとする。


 しかし、空振った。


 攻撃直前に、YOSHIの速度が緩んだからだ。


「!?」


 YOSHIのリズムから、いのりのリズムへ。

 瞬時にスタイルのリズムが切り替えられる。

 ゆったりとした余裕のあるリズムは、YOSHIの最高最速の剣技に慣れていたタツミにとって、迎撃のタイミングを完全に外されてしまうものだった。


 攻防のタイミングを外してしまったタツミに迫る本命の斬撃。タツミは素早い身のこなしで直撃を避けるが、二本あった角の右片方を両断される。

 斬られた角が宙を舞った。


「くっ……!」


 みみがYOSHIの背後に周り、YOSHIを撃ってタツミを援護せんとする。

 前後で挟む挟撃。

 連携の基礎中の基礎の立ち回りだ。


 だがYOSHIのリズムがまた変わる。

 いのりのリズムから東郷のリズムへ。

 YOSHIは正面のタツミと剣で渡り合いながら、背中から水弾を次々連射していく。


 堅実な牽制射撃が、みみの援護を妨げる。

 正面でタツミを、背中でみみを対処する、器用な姿勢。

 しかし、そんな無茶が崩れない。

 丁寧な技で、YOSHIはそうした無茶を器用に回す。


 クルクルとリズムを変えていくYOSHIに、タツミだけでなく、みみもまた戸惑っていた。


「なんだこりゃぁー……?」


 タツミが上に撃つ。

 みみが横に撃つ。

 真横から一直線に迫るみみの銃撃と、上方から迂回して迫るタツミの銃撃が、極めて回避困難な弾幕として機能する。


 YOSHIは『準備』を捨て、『思考』を捨て、『反射』に集中した。


 善幸が実はこっそり好きだった、誰かがボケたらすぐさまツッコむ、まうのリズムへと変更がなされる。他人の言動を見てすぐに反応して動く、まうのリズムへ。

 考えて避けるのではなく、見てから反射で避けるリズムに変更がなされ、YOSHIの変更された回避パターンにタツミとみみの照準合わせが追いつかず、全弾回避が成立する。


 ボケとツッコミというお笑いのリズムを上手くこなす不寝屋まうを参照し、戦闘に応用するそれは、もはや異様と言うべき動きであった。


「これはっ……」


 これはフェイントではない。

 行動アルゴリズムの変更だ。


 技をコピーしたわけではない。

 強さを模倣したわけでもない。

 リズムだけが交換されている。


 風成善幸は何故、最強と呼ばれ始めたのか。

 何故、他者は彼を認めたのか。


 それは、彼のを見つける能力が、非常に高いからだ。

 彼のそうした能力が、自分と違う生き方をしている仲間の、彼とは違うリズムを感じ取らせ、それが鉄砲魚Toxotesの可変的なスタイルの根幹を成す。


 今、YOSHIにリズムの変速という力を与えているのは、競技者とは違う世界に生きる、配信者という生き物への純粋な敬意だ。


 この力は、仲間を認める気持ちから生まれている。ゆえにこれは……『これから俺が鍛えるのはこいつらだ。見とけよ』という、世界にぶち上げる宣誓の大旗だった。


「ふッ」


 YOSHIは勝つ。

 勝ち続ける。

 負ける時もあるが、再戦で勝つ。

 その過程で、多くを学び、反映しながら。


 省みられない敗者の価値を。勝ち続けた果てにYOSHIに負けた勝者の価値を。YOSHIが持たない強さの価値を。認め、敬うことで、YOSHIはそれらの強さを学んでいく。

 その過程で、敗者の中から、「俺はアイツに負けたんなら納得できる」と言う人間が現れ始める。そういうサイクル。


 今はその価値リズムが、彼が敬った価値リズムが、彼を助けてくれている。


「みみ殿! 迂闊に今の彼の動きを読もうとするのは危険で御座る!」


「いやぁーこの速さで飛んでる人の動きの先が読めなかったら普通に攻撃当たんなくなぃー?」


「そうで御座るな」


「ござってんねぇー」


 タツミの大剣が、リズムごと入れ替えるYOSHIのアトランダムな動きを捉えきれず、斬撃を当てられない。


 返す刀の風刃が、素早い身のこなしを続けるタツミを捉えかけ、タツミが翼を打って体ごと回して回避するが、刃先がタツミの片翼を斬り落とした。


「くっ……!」


 タツミはまうのリズムを知らない。いのりのリズムを知らない。そして、今の東郷のリズムも把握していない。それはタツミに必要なものではなかったからだ。

 だが、YOSHIにとっては必要なものだった。

 仲間の必要性を、YOSHIは全身で表現する。

 彼の戦いは、半ば表現の域に在る。

 心を顕す表現の域に。


 タツミが『敵を倒すために必要な研究』をしている時に対象にならなかった3人は、善幸が『仲間を助けるために必要な研究』をする時に対象になった3人でもあった。


 3人より強い『から』知らなかったタツミ。

 3人より強い『から』知ろうとした善幸。


 その違いが、今ここで、YOSHIを勝利に導く鍵となる。



◯行けヨシ行けヨシかっ飛ばしたれー!


◯かっこいいよせんせ~、イケてんぜ~


◯おっ、今のみみみとの攻防かっこええやん!


◯せんせ~楽しそ~。よかったね~



 そして、YOSHIのこういう"細かすぎる仲間配信者のモノマネ"は、真似されている当人達には一切伝わっていない。本当に細かすぎるからだ。


 分かっていれば、配信越しに見ているまうもいのりも結構喜んだだろうが、彼女らには経験値が無いため気付けない。自分達のリズムがYOSHIの助けになっていることも見抜けない。


 世の常、と言って良いのか分からないが。


 大きな『好き』を向けられる側の人間というものは、自分が向けられている感情を自覚していないことが案外多いのである。


 無論、兄が大好きな妹はすぐ気付くのだが。


「……そういうとこぉー、いつも仲間になった人に慕われてるとこだよねぇー」


「そうでもない」


「そうでもあるよぉー」


 3人の戦いは攻防の応酬を経て、洪水が起きた屋上から、そのビルの下の大通りに移っていた。


 みみがにこりと笑んで、YOSHIが先程壊した貯水槽──屋上から落下した──を機械腕で持ち、投げつけて来たので、YOSHIは内心少しばかり驚いた。


 貯水槽が、大きな影が、YOSHIへと迫る。


 重いものを投げるために必要なのは変化力。変化力によるパワー加算が必須である。YOSHIも、タツミも、そこに点数は振っていない。

 重く大きなものを投げられるのは、華奢な見かけに反して、『腕』に変化力を振ってパワーを得ているみみのみ。



【名称:ローヌの腕】【形質:八の腕】

変化力:10



 貯水槽の落下に合わせ、みみは横っ飛びに跳んで、広くバラ撒くように銃を撃つ。

 YOSHIがリズムを変更してくる以上、精密射撃はほぼ当たらない。

 狙って撃った『から』当たらない。

 ゆえにみみは即時戦術を変え、適度に適当な射撃を選択した。面制圧の射撃とも違う、射撃。


「ッ」


 それを見たYOSHIはすぐさま元の自分のリズムに戻し、適当な射撃の合間をすり抜けるように飛んで、落下してくる貯水槽を回避する。


 ガドンッ、と、貯水槽が衝突した路面が小さく揺れ、投げられた貯水槽はそのままビルに衝突。幾多のガラスが砕け散った。


 YOSHIの風化体が、そのガラス片を

 そして、水弾にガラス片を込め、撃った。


 みみを狙うガラス入りの水弾。割って入ったタツミが大剣を振り回し、それら全てを斬り弾いた。

 ギャギッ、ガリッ、と大剣の表面をガラスが引っ掻くような音が響き渡る。


「はっはっは! ……ああ言えばこう言うのがアチャ殿で御座ったが、ああすればこうしてくるのがYOSHI殿で御座るなぁ! もう笑うしかないので御座るが!」


 タツミは右手の大剣を肩上に構え、左手の短銃を逆手に構えた。そして短銃をトンファーのように使い、ガラス入りの水弾をそれで弾きながら疾走、接近。短銃で水とガラスを砕きながら、YOSHIとの距離を一気に詰める。

 水弾に破壊力が無いとはいえ、即興で銃を盾として使いこなす器用さに、YOSHIも内心舌を巻いた。


 やがてYOSHIが全てのガラス片を使い切ったタイミングで、タツミは短銃を消し、両手で大剣を振りかぶり、振り下ろさんとする。


 0.1秒の攻撃準備動作。

 その瞬間、YOSHIは大剣を持つタツミの手首と、タツミの膝と、タツミの背から生える翼を、同時に水弾で撃った。

 至近距離からの、ノーモーション精密射撃。

 素人では見たところで真似できない、風と水の神業。


「ぐっ!?」


 膝が撃たれたので踏み込みが止まる。

 手首が撃たれたので剣が振り下ろせない。

 翼が撃たれたので飛んで下がれない。

 そうして一瞬、無防備に止まったタツミに、YOSHIの横薙ぎの斬撃が迫る。


 しかし、これで倒せると踏んでいたYOSHIの目算は、異常な挙動で後退して斬撃をかわしたタツミによって引っくり返された。


「……大した連携だ」


 タツミのアバターデザインには、竜の角、竜の翼、そして……竜の尾がある。


 みみが機械腕を伸ばし、その尾を掴んで引っ張ってタツミを助けたのだ。YOSHIはタツミの回避手段を全て封じたつもりだったが、尾まで使ったこの2人の連携までは封じきれなかった。


 1人では届かない頂の強さYOSHIに、タツミとみみは繋げた心で立ち向かう。


「流石はみみ殿」


「このくらいはねぇー」


 タツミが強い。

 それは事実だろう。

 みみが強い。

 それも事実だろう。

 だが、時間経過で徐々に高まっていくYOSHIの強さをもってしても未だに決着がついていないのは、タツミとみみが混ざることで生まれた化学反応が、1人では生み出せない強さを見せているからだ。


 タツミの力を見切り、みみの力も見切っていたYOSHIだったが、タツミとみみの『間』に生まれる力と技には、かなり予想を外されていた。


 タツミがみみを強くして、みみがタツミを強くしていく。2人は、友達だからだ。


「奥の手があるなら、もっと見せてみろ。俺の予想を超え、裏をかいてみろ。お前達が俺を倒し、今日の主役になると言うのであれば」


「こわぁー」


「問答無用。勝ちをもぎ取らせて貰うで御座る」


__________

□竜の巣穴▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◯見事でござってんな……

◯ござる殿、美しい

◯このござるを見に来た

◯皆仲間思いなのでござってる

◯誰もが1人では戦ってないのでござろうな



 ぎゅん、と加速した攻防が始まる。


 更に加速するYOSHIの脳裏に、YOSHIが利用しているリズムを通して、YOSHIの知らない生き方をしている仲間達との会話が蘇る。



───ねえねえ~、『マイティ・フォース』とかはどうかな~


───おー、かっこええなあ。強い力マイティフォース? あるいは強い四人マイティフォースやろか? あ、うちら3人がエブリィカ4期生やから強者Mighty4期生4thか! トリプルミーニングかつ強そーな名前でえーんとちゃう?


───あのね~。4人の名前の頭文字を1つずつもらって~、ghを足せば~、それで英単語になるな~って気付いたので~


───頭文字?


───ほー、ええんとちゃうか。そういう憶え方あるっちゅー話をリスナーにしとけば……ん? ああああっ! そーゆーことか! 確かになるわ! Mightyマイティ


───まうちゃん理解はや~


 不寝屋"m"うから『m』。

 伊井野"i"のりから『i』。

 アチャ・"t"うごうから『t』。

 風成"y"しゆきから『y』。


───それでね~、Ghotiの名前の成り立ちと同じで~、『mighty』のghは発音しないんだよね~。mityだけでもマイティって読めるもんね~


───ほんまやんけ!



 絆の価値に上下は無い。

 絆の強さで勝敗は決まらない。

 仲間を強く想えば勝てるだなんてありえない。


 ただただこの一瞬に、強い方が勝つ。

 勝った方が、仲間と勝利を分かち合える。

 勝利の喜びを祝い合える。

 そんな真理が此処に在るのみ。


 ただただ純然たる技術にて、YOSHIは絆を刃と化して行使する。


 仏頂面のまま、『これはただの戦闘技術だぞ』みたいな顔をして。


 リアリストみたいな顔をして、ロマンチストの最強を振るう。


 YOSHIは誰にも依存しない。誰にも頼り切らない。誰にも寄りかからない。誰の助けも必須ではない。誰に手を差し伸べられなくても生きていく。敗北を1人で自分の力に変えられる。どんな地獄もただ1人で走り切る。


 YOSHIは強いから、どこまでも1人で生きていける。なのに、YOSHIが走った後には、YOSHIが敬意を払った全ての人の名残が混ざった足跡が残る。


 その姿が、人を魅了する。


「今日、チームとやらを結成した。俺はいつも後から人の輪に入るタイプだった。既にある人の輪に迎えられることが多かった。チームを作るリーダーは俺より年上で、常識のある立派な大人で、俺はその人がまとめるチームに戦士の1人として加わるということばかりだった」


 彼は今その瞬間に手の中にある宝に、自分にできる全てのことをしてやろうとする。自分とは違う生き方リズムが、彼の目には輝いて見えるから。


「俺は今日初めて、教え子3人を庇護する形で、四人で一緒にチームを作った」


 YOSHIが正面にゆらりと構えた風刃を、タツミとみみに向け、その向こう側……世界中から集まって来ているリスナーへと名乗りを上げる。


「『MIghTY force』だ。今日此処で、全員名前だけでも覚えていけ」


 これが。

 これこそが。

 タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤーが憧れた男の姿。千和・ズルワーンに夢を追わせた男の輝き。蛇海みみが幸せになってほしいと願う、不器用な男の真っ直ぐな生き方。

 そして、彼なりに『配信』というものに真摯に向き合ったがゆえの姿勢であった。


________________

□みみとおはなししよぉ▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◯バズってたやつですね

◯SNSで見ました

◯つまり始まったばかりの伝説であると


__________

□竜の巣穴▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◯キマってるでござぁ

◯ナイスチームになりそうでござぁ

◯いい仲間になれそうでござぁ



 YOSHIは自分なりに『配信』に向き合っただけだが、タツミとみみは配信のプロだ。

 だから、配信素人のYOSHIの拙い振る舞いも、ちゃんと拾ってくれる。


「では、それがしらも名乗らせて頂こう」


 名乗りには名乗りを返す。

 "流れ"はそれで完成する。

 それこそがエンターテインメントだ。


「十二支の卯、うさみのうづき。十二支の辰、タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー。十二支の巳、蛇海みみ。我らは志を同じくする桃園の者。一言で言えば、同じチームの者で御座る」


 YOSHIは、初めて仲間4人で『恐竜島』に集まった時、先に居てトラブルに四苦八苦していた3人の姿を思い出す。兎と、竜と、蛇の3人。彼女らは、YOSHIがこの事務所に来る前から既にチームだった。


「チーム名は『みのみのみ』」


 うさみのうづき。

 タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー。

 蛇海みみ。

 3人共に、名前に『み』の音が入っている。響きが可愛くなるからだ。


 だから、"三のみの味みのみのみ"。


 プロゲーマーではない、けれど普通の一般人よりはゲームが上手い、そんな配信者の女の子達がちょっとふざけて付けたチーム名。


「いい名前だな」


 YOSHIは素直な感想を述べる。


「そうかなぁー?」


「俺には女子向けのネーミングセンスというものが全くない。羨ましいことだ」


「知ってるぅー」


 何が面白かったのか、何かを思い出すように、みみは楽しげに笑う。


 そしてYOSHIは、再戦に恵まれた強敵へと問いかける。


「タツミ・ザ・ドラゴンスレイヤー」


「何で御座ろうか」


「今度はチームを背負っての勝負だな」


 暗に、『前はお互いに何も背負わないタイマンだったな』とYOSHIは言う。


 口下手なYOSHIが本当に言いたいことを察して、タツミは苦笑する。


 かつて、何も背負わず、ただの個人としてぶつかった時、YOSHIもタツミも、互いに自由だった。その時の戦いが身軽で気軽で、それゆえの楽しさがあったことは否定できないだろう。


 だが、それでも。


「『仲間のために勝ちたい』……その重みが、今のそれがしらには心地良いで御座ろう? 宝物なかまの重みを背に感じていたい、背負って勝ちたい……それは1人では味わえぬ喜びゆえに」


「……分からんでもない。今の俺が安易に『分かる』と言うと、時間を掛けて仲間と積み上げてきたであろうお前に失礼な気もするが」


「ふふっ。真面目で御座るなぁ、いつでも」


 MIghTY force対みのみのみ。

 チーム対チーム。

 YOSHIをエースとした仲間達と、タツミをエースとした仲間達。


 強き者には、責任がある。

 背負ったものの責任がある。

 皆を勝利の光の下へ連れて行く、責任がある。


「いざ、尋常に──」


「来い。強き竜、強き蛇」


「──一六勝負。参る」


「行っきまっすかぁー」


 チームのために。

 仲間のために。

 見てくれている視聴者のために。

 あるいは……喜んでくれる仲間を見たいという、自分自身の欲望のために。

 そして何より、勝つために。


 三者は三様の死力を尽くす。






 そして。


 マップの北北西で繰り広げられる激戦をよそに、マップの南西ではある戦いが始まり、そしてあっという間に終わっていた。


「つっ、この、強っ……!」


 胸に穴を空けられ、膝をついて消える男。男は、両腕をカマキリに変えるスキル、両足をバッタに変えるスキル、それ以外をセミに変えるスキルで、虫の長所を組み合わせた強さを持っていた。


 長所は、虫への理解があればあるほど、誇張した長所を組み合わせた強さを持てること。


 短所は、生物変身系スキルの多くに共通する弱点だが……飛び道具が貧弱なこと。


 ライオンに変身しようとも、カブトムシに変身しようとも、狙撃系ビルド相手には封殺されやすい。それが生物変身系スキルの弱点だ。


 倒されたドン・バグから解放された3つ目のオーブを、倒した男がキャッチする。


 七色に光る矢を指の上でくるくると回し、弓兵は安堵の息を吐く。


「悪ぃね」




 アチャ・東郷は天才ではない。


 天才ではないが、頼りになる男である。


 いつでも、どこでも、何度でも。




「僕、さっきちょっと格好悪い所をリスナーに見せちゃったからさ。ここらで挽回しとかないといけないんだわ。コメント見えてないからコメントでどんくらい悪し様に言われてんのか、後で確認するのが怖いぜ……へへっ……僕のこと叩いてた奴らは僕の機嫌次第でBANしてやっからなぁ~」


 雨に濡れたオールバックの髪をかき上げ、東郷は見えないコメント欄のリスナーを軽く煽るようなセリフを吐き、弓で肩をとんとんと叩く。


______________

□東郷視聴者集会所▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

◯うおおおおおおおおおお

◯君のようなリスナーを喜ばせるガキは嫌いだよ

◯オタクくんさぁ……もっと胸張りなよ

◯はい、アチャの勝ち。明日までになんで(ry

◯乗るしかねぇ、このビッグウェーブに



◯アチャー! 東郷ー! 最高やぁー!


◯まうちゃんがうるさい~



◯わろた

◯不寝屋のまうさん……

◯マイティフォースマジで仲良いよ

◯新成チームの姿か? これが……

◯スパチャします! 覚悟の準備をして下さい!



「さて、ヨッシーを探すべきだが……もうちょっと考えて動いた方がいいか……?」


 MIghTY force対みのみのみ。

 チーム対チーム。

 YOSHIをエースとした仲間達と、タツミをエースとした仲間達。

 皆がチームで、皆が仲間だ。

 だから、サボってなんて居られない。


 憧れの男に、相棒と呼ばれたのだから。

 東郷が足を止めるわけがない。

 勝ちを目指さないわけがない。

 沸き立つような気持ちが、足を前に進ませる。


「行くか」


 仲間が居た。

 それぞれの者達に、仲間が居た。

 今日たまたま手を組んだ仲間が。

 横で守ってくれる仲間が。

 離れていても繋がっている仲間が。


 それぞれの仲間に、それぞれの繋がり、それぞれの助け合いがあって……きっとそこには、貴賤などというものは無かった。




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