腐る街
暮葉
バス
この街は腐っている。人も建物もたしかに腐っているのだ。いや、腐っているというよりかは腐っていくという表現のほうが正しいのだろう。
駅前の中心街ですら活気がなく、バスターミナルへ行く人の顔は皆憂鬱そうで色を失っている。もちろん僕もその中の一人だ。各人に各人の事情があり、それぞれ違ったことを考えている事は分かっているが、死んだ顔つきをしているという点においてここに居る彼らと僕は仲間なのだと思えた。そしてこの奇妙な仲間を詰め込んだバスはそれぞれを家へと返すため低い唸り声を上げた。
バスに揺られ、外の景色を見る。幼い頃は好きだった風景がなぜこんなに色を失ってしまったのか、活気があったであろう町並みがなぜここまで静かになってしまったのかを考えた。ぱっと二つ理由を思いついた。一つは本当にこの街が廃れてしまったかもしれないこと。二つは僕が、僕自身が元気とかそういった物を失ってしまい、どうしても穿ちすぎた、退廃的な見方をしてしまっていること。多分どちらかなのだろうと思う。
バス停を二つほど通り過ぎた頃だろうか。明るい顔つきのカップルが朗らかに会話をしながら乗り込んできた。この二人によってバス内にあった少し冷たく、疲れを感じさせる心地よい空気が中和されていくのを感じた。バス内で鬱屈とした僕らを結んでいたものが途切れて行く事も感じた。僕はこのカップルを少し恨めしく思い横目で見た。
驚いた。とても驚いた。彼らは二人とも中学生のときの同級生だった。女の方は僕が中学生の頃想いを寄せていた人だった。男の方は幼稚園の頃からの親友だった。彼は何をさせてもそつなくこなせる、いわゆるエリートだった。彼は県内一番の高校へ行き、僕は二番目の高校に行った。中学を卒業して以来彼とは会話していない。会ってすらいない。家は隣なのだが。思わず話しかけたくなったが、雰囲気がそれを憚らせた。よく考えると僕は高校に入ってから髪を伸ばしたしメガネも掛け始めていた。彼らは僕のことをぱっと見で僕を認識できないはずだ。まあ無理に話しかけに行く必要もないか、と自分を納得させた。
じきに彼らが会話し始めた。
「なあ、裕ってやつのこと覚えてる?
あいつなんか変だったよな。
なんというか、自意識過剰で何でも自分に関連させて考えるところとか。
高校で離れれてマジで良かったわ~。」
彼らが「僕」の話をし始めた。偶然乗り込んだバスで、唐突に。
これは何かの運命なのだと思えた。
「りょー君中学の頃ずっと付き纏われてたよね〜。まじ可哀想だった〜、あいつ私にも話しかけてきてなんかキモかったし〜。あいつ話しかけて来るときいつもどもってて聞き苦しかったし~。」
りょー君?君はそんな様に誰かに媚びる様な甘ったるい声をあげる女だったのか?
僕は君の凜としている所が好きだったのに。
それに彼は僕の事をその様に思っていたのか?僕は友達だと思っていたのに。
僕が普段降りる駐留場に着いた。彼らは二人してバスを降り家に向かっていた。彼らは家で何を語らうのだろうか?今から何をするのか?どうしても卑しい考えばかりが頭をよぎる。なんだかとても疲れた。体中から元気とか気力とかそういったものが全て抜け出てしまったかのようだった。僕にはもうこのバスに乗っている乗客を仲間などと思い上がった事を考える気力はもう無かった。この街は腐っている。そこに住まう人も。活気を失うのも順当だろう。鬱屈とした感情を抱えながらバスはいつもの二つ先で降りた。
腐る街 暮葉 @kureha-0312
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