第3話 到着

 王都イクシオンを出立した我々は、街道を進んで居た。先頭は私。その少し後ろを馬車2台。残りの9人の内、副官であるマリーともう1人が私の近くを走り、残りの7人は馬車を守るようにその左右に展開しつつ並走している。


 街道とは言え、危険が皆無という訳ではない。盗賊や山賊、魔物と呼ばれる怪異たち。更に野生の熊や狼なども十分危険となる存在だ。それらを経過しつつ進む。


 朝早くに出立した我々は、幸いな事に戦闘なども無く、道中にある町で昼食を取ってから再び移動を開始した。


 そして……。

「むっ。見えてきたか」


 やがて我々の視界に先に大きな町が見えてきた。

「何とか日が暮れる前にたどり着けそうですね」

「あぁ」

 傍にいるマリーの言葉を聞きながら私は頷く。既に太陽は沈みかけ、空はオレンジ色に染まりつつあった。


「日暮れが近いっ!それまでに町に入るため、少し馬の足を速めるぞっ!」

「「「「「了解っ!」」」」」


 私達は少しばかり速度を上げ、何とか日が暮れる前に町、フェムルタ伯爵家が収める町へとたどり着けた。


「止まれっ!」

 門の傍まで行くと、番兵らしき男が槍で我々の道を遮った。

「お前達はどこの所属だっ!」

 ふむ。これでも私は結構有名なのだが、私を知らないのか。まぁ見たところまだまだ若い兵のようだ。槍の持ち方もまだ慣れていない所を見るに、つい最近にでも現地雇用された兵なのだろう。ならば仕方無い。

「今すぐ所属と姓名をっ!」

「おいバカッ!」

 聞かれれば名乗ろう、と思って居たのだが、別の番兵が私に気づいてギョッとした表情をすると、走ってきて槍を構えていた男の頭を殴りつけた。


「いてっ!?何すんだよっ!?」

「お前こそ何やってるんだっ!相手が誰だか分かってるのかっ!?」

「え?」

 最初は文句を言いながらも、同僚の剣幕に彼は少し気圧され疑問符を浮かべている。


「た、大変失礼しましたっ!聖龍騎士レイチェル様っ!」

 そう言ってもう1人が私に対して咄嗟に頭を下げてくる。

「せ、聖龍騎士って、えぇっ!?!?こ、この人がっ!?」

「分かったらお前も頭下げろバカっ!」

 そう言って驚く新兵の頭を掴んで下げさせるもう1人の番兵。


「良い。2人とも頭を上げよ」

 私はそう言って2人に頭を上げさせた。

「その程度の事は気にしては居ない。だから気にする必要は無い」

「は、はいっ!寛大な処置、ありがとうございますっ!」

 片方はそう言って敬礼をするが、私達を止めたもう1人は戸惑っているのか顔が青く視線が泳ぎまくっている。どうやら、自分が不味い事をしたのではと不安で怯えているのだろう。


「君」

「は、はいっ!?」

 私が声を掛ければ、案の定戸惑った様子で反射的にビシッと背筋を伸ばし固まってしまう。そのままガタガタと震えているが……。


「君は仕事真面目だな」

「え、え?」

「怪しい者は誰であろうと必ず止める。例え味方の格好をしていようと、それを安易に信じるのは危険だ」

「え、えっと」

「安心しろ。君の判断は間違っていない。信じる事も必要だが、だからといって疑う事を疎かにして良い理由にはならない。例え相手が如何に善人を装っていても、裏では何を考えているのか、簡単に分かる物ではない。だからこそ疑う必要があるのだ。それに、君たち門を守る兵には相手が誰であろうと止め、町の安全を守るためにその素性や持ち物を確認する権利が与えられている」


「え、えっと、そ、それはどういう……」

「私達を止めた君は何も間違っていないと言う事だ。誇りを持ちなさい」

そう言って私は彼に微笑む。

「ッ!は、はいっ!ありがとうございますっ!」

 うん。元気の良い返事だ。

「うむ。では、私達は行く。ここを通っても良いかな?」

「「はいっ!」」


 どうやら大丈夫そうだ。私は部下達を先に中へと通す。その間に、あの新兵君の側に行く。

「君はまだ仕事を始めたばかりか?」

「は、はいっ!先月、試験に受かって仕事を貰ったばかりですっ!」

「そうか。ならば、まだまだ不慣れなことが多いだろうが、頑張りなさい。あなた達の仕事は、この町と人々を守る為にとても大切な仕事なのだから。自らが人や町を守っていると言う誇りを胸に、日々励みなさい」

「ッ~~!はいっ!ありがとうございますっ!!!」


 目を輝かせながらビシッと私に敬礼する新兵に答礼をすると、私は皆と合流するためにリリーを軽く走らせる。



 そして代わりに先頭を歩いていたマリーに追いつく。

「隊長、ま~~たファンを増やしたんですか?」

「人聞きの悪い事を言うな。私はただ、彼の先輩としてアドバイスを送っただけだ。……私には、聖龍騎士の立場まで上り詰めた自分の腕に、技術に相応の自信を持っている。だが、それだけでは国や民を守る事は出来ない。祖国を守るためには、多くの人の力が必要だ。私1人で国や人々を守れる程、戦いというものは容易い物ではない。1人1人の力を合わせるからこそ、大きな力は生まれると言う事だ」


「つまり、隊長は私達を頼りにしてるって事ですねっ!」

「あぁ。もちろんだ。私はお前達を頼りにしている」

「ふぇっ!?」


 マリーは当初、自慢げな表情をしていたが私の言葉を聞くなり戸惑ったような表情と共に素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっ!?た、隊長っ!何言ってるんですかっ!我々なんてそんな、聖龍騎士の隊長に比べたらっ!」

 突然顔を赤くして謙遜を始めるマリー。何やら他の兵たちも顔が赤い。夕陽の光が映り込んでいるのか?まぁ良い。


「謙遜も良いがそれは言い過ぎだぞ、マリー。私は、お前達が後ろで背を守ってくれるから、いつも眼前の敵に集中出来ているのだ。私はお前達という共に戦う仲間を得た事、とても光栄に思って居る。……心強い仲間、戦友であるお前達が傍に居てくれるから、私はいつでも敵と戦えるのだ」


 彼等にはいつも支えられてきた。どうせならばその思い、言葉にして伝えなければな。しかし……。


「「「「「「ッ~~~~~~!」」」」」」

「ど、どうしたお前達っ!?」

 何やら振り返ると、全員が顔を真っ赤にしていたっ!?

「な、何でも無いっ!何でも無いですからっ!そ、それより早く行きましょうっ!伯爵を待たせちゃ悪いですよっ!」

「お、おいっ!私を置いていくなっ!」


 そう言って足早に馬を走らせるマリー。他の者達も足早に馬を走らせる。私は慌ててリリーを走らせ、彼等の後を追った。


「ホントっ!ホントにもうっ!隊長はそう言う所、無自覚なんですからっ!あんな事言われたら、どこまでだって付いていきたくなるに決まってるじゃないですかっ!」

「お~いマリーッ!なんて言ったんだっ?」

「何でもありませんっ!」

 何とか追いつくが、マリーが何か言っていたような。しかし問いかけても、怒っているのかそう言ってそっぽを向かれてしまった。……何か悪い事を言ってしまったか?私は自分の胸の内をそのまま打ち明けたつもりだったのだが。


 チラリと他の面々へ目を向けるが、皆顔を赤くしながら視線を逸らし、一向に私と目を合わせてくれない。……ハァ、やはり人付き合いというのは、良く分からんなぁ。



 などと思いつつリリーを走らせていたが、やがてフェムルタ伯爵家が見えてきた。となれば、流石にマリー達も気を引き締めた様子だ。当然私もだ。


 そして、敷地内の入り口にある門の所まで行き馬を止めると、ちょうど中から黒いスーツ姿の初老の男性が現れた。恐らく執事の1人だろう。

「お待ちしておりました、聖龍騎士レイチェル様」

「あぁ。聖龍騎士団第5小隊隊長、レイチェル・クラディウスだ。騎士団に提出された依頼のため、小隊を率いて参った。それで?我々は今後、何をすれば良い?フェムルタ伯爵から、何か連絡のような物はあるか?」


「はい。旦那様より言伝を預かっております。『本日はもう日も暮れております故、明日の朝我が家にて改めてお会いし依頼についてお話ししたい。つきましては町の中でも一番の高級宿を用意させていただきましたので、今日はそちらにお泊まりになって行軍の疲れを休めて欲しい』、との事でした」

「そうか。しかし、依頼は急を要する物ではないのか?場合によっては今すぐ伯爵と話がしたいのだが?」

「いいえ。その点はご安心ください。ご依頼は急を要する物ではございませんので」

 ふむ。執事の感じからしても、嘘を言っているようには見えない。ならば急いで会う必要は無い、か。それに、行軍での疲れも少なからずある。皆町に着くまで気を張ったままだったからな。それに馬たちもそろそろ休ませてやりたい。


「そうか。ならば分かった。ひとまず宿へ行き、今日の所は休ませて貰うとしよう」

「分かりました。では私がご案内させていただきます」


 その後、執事に案内されて向かったのは馬で数分の所にある大きな宿だった。見た目は豪華絢爛な作りで、如何にも金持ちの商人や貴族御用達と言わんばかりの宿だ。

「大きいな。町で一番というのは本当のようだ」


 私達はまず、宿に併設されていた厩舎に馬と馬車を預け、執事に案内されながら宿の中へと入った。執事は我々にラウンジで待つように伝え、受付の方へ。そして受付に居た若い従業員らしき女性と何かを話した後、奥から出てきた支配人らしき男性と共に私達の所へ戻ってきた。


「皆様、お待たせいたしました。当宿の支配人をしている者です。まずは皆様のお部屋にご案内させていただきます」

「あぁ。頼む」

「はい。ではこちらへ」


 その後、私達は部屋に案内された。部下の殆どは4人用の大部屋を5つ。もちろん男女は分けてある。そして私はなんと、宿の最上階にある一番高い部屋、スイートルームという所に案内された。

「ここは、凄いな」


 部屋の中は煌びやかで内装も豪華。ベッドや家具の一つ一つ、どれをとっても高級そうな物ばかりだ。

「しかし私がこの部屋を1人で使ってしまって良いのか?この宿で一番高い部屋なのだろう?」

「はい、それはもう。伯爵より最高のおもてなしを、と通達がありましたし、何より聖龍騎士様にご宿泊頂ければ当宿にも箔が付くと言う物。どうかお気になさらず、おくつろぎ下さい」

「そうか。ならばそうさせて貰おう」


「では、お食事の用意が出来次第お呼び致します。何かありましたら近くの従業員にお声がけ下さい。失礼します」

そう言って支配人は下がった。残ったのは私と執事だけ。

「レイチェル様。この度は依頼を受けて頂いた事、主に変わってお礼申し上げます」

 執事はそう言って恭しく頭を下げる。


「頭を上げてくれ。我々は騎士だ。貴族であろうと平民であろうと困っているのなら助けるのが仕事。だから頭を下げる必要は無い。それより、明日の日程について話がしたい。どうすれば良い?」

「はい。明日の朝、私がこちらまで迎えに来させて頂きます。その際にレイチェル様と、もう数人ほど、どなたかをご一緒に屋敷までご案内致します」

「そうか。ならば副官を1人連れて行くが、問題無いか?」

「はい。大丈夫でございます。他に何かご質問は?依頼については残念ながら明日、旦那様からお聞き頂くしかないのですが……」

「そうか。分かった。私からこれ以上聞く事は無い」


「分かりました。では私はこれで失礼させていただきます」

 そう言うと執事も部屋を後にした。


 さて、これで部屋には私1人だ。とりあえず適当な所に荷物の入ったリュックを置き、鎧も外す。そして制服に着替えて、と。


 私は着替えてツヴォルフをベルトに挿すと、近くにある窓の方へと歩み寄った。壁一面の窓からは夜の町を一望する事が出来た。しかし、と考えながら振り返る。


「落ち着かない部屋だな」

 調度品は豪華の一言。ベッドも天蓋付き。しかも部屋の一角には風呂まで沸かしてある。本当に金持ちの客が泊るための部屋か。私には縁遠い部屋という事もあってか、妙に落ち着かない。……マリー達の様子でも見に行くか。それに明日の事も伝えておかないとな。


 私は部屋を出て彼女等の部屋に向かった。

『コンコンッ』

「マリー、私だ。居るか?」

「あっ、隊長ですか?ど~ぞ~、開いてますよ~」

 中からそう聞こえたので、ドアを開けて入る。部屋の中では、マリーを含めた女騎士4人が制服を少し着崩した姿でくつろいでいた。


「おいおい、少しくつろぎすぎじゃないのか?」

 流石に気を緩めすぎだろう、と思って私は苦言を呈する。

「だって~、仕方無いですよ~。任務でこんな良い宿に泊った事なんて初めてじゃないですか~」

「む、むぅ。まぁそれはそうだが……」

 マリーの言葉も分からない訳ではないが……。ハァ、まぁ良いか。


「まぁ今日くらいはくつろいでも良いか。ただし、明日からはそうも行かないぞ?その分今日はゆっくり休めよ?」

「「「「は~い」」」」

 私の言葉に少し緩く頷く彼女達。その姿に私はやれやれと思いながらもマリーの方に近づく。

「マリー」

「え?はい」

「悪いが明日の朝、あの執事が迎えに来る。そして私と副官のお前、計2人で伯爵家に話を聞きに行く事になった。良いな?」

「了解です隊長」

「よし。じゃあ私は戻るが、良い所の宿だからって変にはしゃぐなよ?ではな」


 そう言って私は部屋を出た。その後、男部屋の方にも寄り、レオに私とマリーが不在の間臨時で指揮を預ける事を伝えた。まぁ、精々1~2時間程度だろうし何かが起こるとは思えないが、念のためだ。


 それから他の部屋も見て回り、全員が浮かれて変な事をしていないかを確認したあと、ちょうど食事の用意が出来たと知らせが来たので、全員で宿の一階にあるレストランへ。レストランでは豪華なコース料理が出され、皆戸惑っていた様子だった。その様子に苦笑しながらも私は料理に舌鼓を打った。


 その後、食事を終えた後は皆に『早く休むように』と言って部屋に戻った。幸い部屋に風呂が備え付きであったので、それで汗を流した後、私はベッドに入って休む事にした。



 ……のだが……。

「ね、眠れん……っ!」


 私は結局、慣れない豪華過ぎるベッドと、思ったより毛布が厚くて、体が暑いせいか眠りに入るのがだいぶ遅くなってしまった。うぅ、これで明日の朝寝不足にでもなったら、部下に示しが付かないぞ。と、そんな事を考えながら私は眠りについた。




 翌朝。

『コンコンッ!』

「隊長~!起きてますか~!早起きなマリーちゃん達がモーニングコールに来ましたよ~!」

 う、うぅ~ん。え?何?マリー?……あぁ、そうだ。朝に執事が来るんだ。もう、来たのか?早いなぁ。


 私はぼんやりとした思考の中、ベッドを出てフラフラと扉へと向かう。そして掛かっていた鍵を開け、ドアノブを捻る。

「ふぁぁぁ、おはようマリ~~」

「あぁ隊長おはようござい、まっ!?」

 ん~?何だ?マリーが一瞬にして顔を赤くしてるぞ~?それに、何だ。マリーだけじゃないのか~。他にも部下の女性騎士が数人、そこに立っていた。


「たたたたた、隊長っ!?なんて格好してるんですかっ!」

 お、お~~?突如マリーに背中を押されて中へ戻される私。

「ふぁ~~、何をするんだマリー、いきなり押すと危ないだろう?」


「そんなことより危ないのは隊長の格好ですっ!?なんですかそれはっ!?」

 え?格好?


 私は自分の体を見下ろし、服装を確認した。……あぁ、そう言えば昨日の夜は、思いのほか暑くて寝付けないからって寝間着を脱いで、確か下着姿の上にシャツを一枚纏っただけだったなぁ。あぁ、シャツも殆どボタン留めてないやぁ。


「破廉恥です隊長っ!それともあれですかっ!?私達を試してるんですかっ!?あれですかっ!私達が隊長をパックンチョすれば良いんですかっ!おいでませ百合の世界でもすれば良いんですかっ!?」

「お前達は、何を言ってるんだ~?私は~、破廉恥なんかじゃないぞ~」


「ね、ねぇこれって隊長」

「うん。もしかしなくても、寝ぼけてるね」

 う~ん、何やらマリーの後ろで部下達が何やら話しているが、う~ん。よく聞こえないな~。


「隊長っ!お水をどうぞっ!」

 と、そこに1人の部下が水の入ったコップを持ってきてくれた。

「お~~。すまんな~」

 私は差し出されたコップを受け取り、水を飲み干す。


 あ~~。何だかふわふわしていた頭の中がすっきりして……。ん?

「……なぜ、お前達が私の部屋に居るんだ?」

 おかしい。寝る前に扉の鍵を掛けたはず。それがどうして?


「それは隊長が寝ぼけて私達を招き入れたんですよっ!って言うか服来て下さい服っ!その格好に私達の理性が吹っ飛ぶ前にっ!」

「服を?」


 ふと下に目に向ける。そして自分の格好を確認する。今の私は、ピンクのお揃いの下着にワイシャツ姿、で……。え?え?ちょっと待て?今私はこんな格好で、目の前にはマリーを始め部下が数人居て?それで……。…………………ッ!?


「ッ~~~~~~~~~~~~~!!!!!」

 あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!やってしまったぁっ!私は声にならない声を上げながら咄嗟に彼女達に背を向けたっ!


「すすすすす、すまないっ!寝ぼけていたんだっ!あぁぁぁっ!私とした事がぁっ!」

 慌てて昨日の夜に脱いだズボンを探すっ!そしてあったっ!ベッドの傍だっ!慌てて私は駆け寄るが……っ!


『ガッ!』

「わっ!とっ!?」

 慌てていたせいか、自分の足に躓いてその場で転けてしまったっ。うぅ、咄嗟に付いた手が痛い。……ってそうじゃなくてっ!


「うわぁ、隊長の下着、ピンクだよ。しかも上下お揃いで」

「え、エロいね。エロ可愛いね」

 立ち上がって慌ててズボンに手を伸ばす。しかし後ろから聞こえてくる部下たちの会話が気になり、振り返る。


 そしてそこには、興味津々で私の半裸を見つめているマリー達。

「お、お前達。何故私の半裸を見ている?普通こういう時はそっぽを向くものだろう?」

「何故と言われましても、貴重な隊長の半裸姿だから、ですかねっ!」

「「「「うんうんっ!」」」」

 マリーの言葉に他の連中が頷く。貴重な半裸姿、だと?だが、だがな、わた、私だってっ!私だって好きでこんな格好で人前に立ってるわけじゃないんだぞっ!あぁもうっ!そんな目で見るなっ!羞恥心と怒りでどうにかなりそうだっ!だからっ!!!


「お前等は……………。さっさと出て行け~~~~~~~~っ!!!!!」

「「「「「ひゃぁぁぁぁぁっ!ごめんなさ~~~~いっ!!!」」」」」


 私は顔を赤くし涙を浮かべながら怒号でマリー達を追い返した。そして開けっぱなしだったドアを閉めて、私はベッドの方に歩み寄り、とりあえずズボンを履く。そして開けていたシャツのボタンをかけ直す。


 さて……。


「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 私はその場に蹲り、頭を抱えて長い、長~~~~いため息をついた。うぅ、部下の前で半裸の姿を晒すとか。もう隊長としての威厳が地に落ちた気がするぅ。い、いやでも、男連中じゃないだけまだマシか?…………いやでもマリーの奴は口が軽いからなぁ!私の羞恥心に満ちた変なエピソードだってバラしまくってるし。これが新人のキースの耳にでも入ったとしたら……。あぁ考えたくない考えたくないっ!


 うぅ、とりあえず、マリーには後で釘を刺しておこう。などと考えながら私は制服に着替える。


 その後、部屋でしばらく、新しく頭の中に刻まれた黒歴史に頭を抱えていたが宿のスタッフが来て朝食の用意が出来たと言うので、食堂に向かい朝食を食した。その時、当然周りにマリー達もいた。そして私の痴態を見た彼奴らは、私を見ながら顔を赤くしていた。クソゥ、顔を赤くしたのはこっちなんだぞ。それでも何とかポーカーフェイスで必死に隠しているが……。ハァ、ホントに後でマリーには釘を刺しておこう、と私は誓った。


 その後、朝食を終えたので私は一度部屋に戻り、ツヴォルフの手入れをしていた。すると……。


『コンコンッ』

「隊長、マリーです」

「ん?なんだ?」

「ロビーに伯爵家の執事さんがお見えです」

「む、そうか。分かった。すぐに行く。マリーもロビーで待っていてくれ」

「分かりました。先に行ってますね」


 そう言うとマリーの足音が遠ざかって行く。さて、と。私はツヴォルフを鞘に収めてベルトに通す。制服に汚れや皺などが無い事を姿見の前で確認した私は、部屋を出て1階玄関前にあるロビーに向かった。


「あっ、隊長」

 そこには制服姿で帯剣したマリーと昨日の執事が待っていた。

「おはようございます、レイチェル様」

「おはよう。すまないな、待たせてしまったか?」

「いえ。お気になさらず。それで、お屋敷に向かうのはレイチェル様とこちらのお方でよろしいですか?」

「あぁ。私の隊の副官、マリーだ」

「マリー・ネクテンです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、マリー様」

 敬礼をするマリーに対して彼は甲斐甲斐しく頭を下げた。


「では改めまして、表に馬車を用意してあります。それで屋敷まで向かいますが、よろしいですか?」

「あぁ。頼む」

「分かりました。ではこちらへ」


 そう言って外に案内された私とマリーは、外で待っていた豪華な装飾付きの馬車に乗り伯爵家へと向かった。


 さて、任務の詳細はどんな風になるのやら。私はそんな事を考えながら馬車に揺られていた。


     第3話 END

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