第4話 幼馴染とお勉強

「賢くん、今日は私の部屋でしたいな」


ざわざわっ!!


とある昼下り、俺の席に来るなり幼馴染が投下してきたとんでもない爆弾により俺の思考は完全に停止した。


ざわ。これは周りのクラスメイトが一様に俺達に視線を向け、騒ぎ出した音である。女子はあらあらまあまあみたいな生暖かい視線を送り、そして男子は──


二つ目のざわっ。これは全方位から独り身の純然たる殺意を向けられたことにより、俺の全身が総毛立った音である。


「あー!テスト勉強な!!楽しみだなぁ!!なんて!?」

「勉強だけでいいの?」


がたがたっ!!


がた。周りのクラスメイトの腰が浮いた。女子はえっ?マジで?みたいな顔で驚いた様にこちらを見つめている。


二つ目のがたっ。……俺は席をたった。お前がたつのは命だろうがっ!!、という男共の魔の手から逃れるために。

俺は優しく彼女の手を取って歩き出す。流れる滝汗を誤魔化しながら。


「志乃さん。こっちにおいで。良い子だから。アメちゃんあげるから」

「わーい」


呑気ぃ……。







「はい、やり直し」

「コロシテ………コロシテ……」

「ふふ、大げさだなぁ」


志乃が赤ペンで線を引く音と同時に笑顔で、無慈悲に、俺の前へと答案用紙が突き返される。


我が幼馴染は何故、こと勉強となると血も涙も失うのだろうか。

思い返せば、俺が彼女と同じ高校に行きたいと口走った時からスパルタになったと思う。


「大丈夫。私の後輩の女の子も通った道だから」


大丈夫?その子、心とか笑顔とか失くしてない?他人に自分が味わった苦しみ味あわせようとかしてない?


「ちゃんと成果は出てるよ。頑張ろう?」

「ガンバル……」


柔らかな笑顔でそう言われてしまっては、情けない姿を見せられる筈もなく。


「ムリィー……」


そんな事も別になく。


「ふふ、しょうがないなぁ」


ふわりと。柔らかな身体に包まれた。自分の身体では到底あり得ないであろう、心地よい匂いが鼻を擽って。何とは言わないが、顔が柔らかいものに包まれて。


「ね?賢くん」

「は、はい…」


抱きしめたままで、志乃が耳元に口を寄せる。彼女の手はゴソゴソと淫らな手付きで俺の身体をまさぐっており。


「…これから、賢くんが一枚終わらせる度にイイコト、してあげる…」

「い、イイコト!?」






「でもね」






ゆるりと幼馴染の身体が離れていく。その手にはいつの間に抜き取ったのか、俺の携帯が握られている。


「賢くんがこれから一回間違える度に、賢くんのゲームのどれかの好きでもないキャラのガチャを一回引きます」


悪魔かよ。












「はい、あーん」


笑顔で、楽しそうに志乃が俺の口元へとお菓子を運ぶ。

俺は眉を顰めながら、大人しくそれを口にする。


「イイコト……」

「嫌?」

「…………」


首を傾げる幼馴染。…嫌じゃないから反応に困るのだが。


「ちゃんと出来たね。偉い偉い」


ナデナデ。志乃の小さな手が俺の頭を撫でる。


人間ね。大切なものを守る為ならば何だって出来るんですよ。俺は推しの水着の為に全てを賭けると決めているのだ。


「じゃあ、しよっか」

「へ」


幼馴染の思いもよらぬ言葉に、思わず口をポカンと開けて間抜け面を晒す。


「…何が?」

「?勉強だけでいいのっていったじゃない」

「そ…、それって」


言いながら志乃がその肩に羽織るお馴染みのショールをするりと脱ぎ捨て、更に上着までも脱いで細い肩と豊満なそれを晒して……いやいやいや


「待て待て待て!!」


スカートまで脱ごうとした所で、俺は己を取り戻し必死に志乃を止める。けど、止まらない。シュル…とスカートが落ちる衣擦れの音が耳に届いて慌てて顔を覆う。


「じゃーん」


「……………………」


「?賢くんどうしたの?」


暗闇の向こうで幼馴染が何か言っている。


「新しい水着買ったんだー。ね、感想聞かせて?」


そう、志乃は新しい水着を……。水着?


「ミズギ………?」

「うん。たくさん泳ぐことは出来ないけど、皆と遊ぶのは好きだから」


そっと手を開いて、開いた隙間から志乃の姿を覗き見る。

両手を広げて、幼馴染が見てと言わんばかりに嬉しそうに笑っている。


胸元にさり気なく花があしらわれたシンプルな白いビキニ。志乃の豊満なお胸とくびれた腰が惜しげもなく晒されている。……………………


「………………」

「どう、かな?………かわいい?」




「エロい」




「え」


狭い屋内で。かわいい幼馴染が。半裸(水着)。こんなのもう。ね。


「エロい」

「え、エロ?……そう、なの?……え、違う、だって、わた、わたしっ、エロくないよぅ!?」


顔を真っ赤にしながら胸元を隠して志乃がしゃがみ込む。むっちりとした白い太腿が殊更に強調されて


「凄くエロい」

「求めてた反応と違ぁうっ!!」


「エロかわいい」

「かっ!?…エロっ、そういうとこっ!そういうとこだよ!!賢くぅんっ!!」


逃げるように志乃が布団に潜り込む。後ろに飛び込んだものだから一瞬、お尻がこっちに突き出すように強調されて。すぐに睨む様に顔だけをのぞかせるけど、こっちから見ていると裸にしか見えないそれは、まるで事後のワンシーンの様な。


「志乃」

「う」


「志乃は何してもエロいなぁ」

「違うのぉっ!!!」






テストはめっちゃいい点でした。

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