しっ尾8本目 約束の覚悟

──やっと、家に帰ってきた。あちこちまわって、ナンとかげることができたけど……つかれた…。

ぎんさま、そろそろゆいからはなれてくださいな」

「し、失礼しましたわ、さま。今すぐにゆいさまから」

 そうだった。ぎんさん、まだわたしの中にいるんだった。

 ぎんさんがはなれてくれて、かがみたしかめて。

 「良かった、元にもどれて」

 このままずっとケモ耳だったらと思うと……。

「さあ、おそくなったけど夕食にしましょう」

 おばあちゃんに言われて時計を見たら、もう九時ぎてる。

 わたしのために作ってくれた、たくさんのごそうぜんめちゃって……。ごめんなさい。

「ごめんね。おばあちゃん。わたし……」

「良いのよ。あたためなおすから気にしないで。おなかいっぱい食べなさい」

 ぎんさんに待ってもらって二人でゆっくり、静かに食べた。

 何を話していいのか分からなくて…心の中でゴメンナサイってあやまりながら食べるごはん。こんなの初めて……。

さま。それは…何ですの?」

「チキン南蛮なんばんというものです。げた鶏肉とりにくあまにひたして、タルタルソースというものをかけて食べるんですよ」

「こちらの白いのは…御御御付おみおつけみたいなものですの? とろみがあるみたいですの」

「ああ、クリームシチューですよ」

「まあ。ワタクシ、初めて見ますわ。どれも美味しそうですの」

「そうねえ。私が子供の頃はシチューのルウがやっと売られ始めた時期じきですねぇ」

「チキン南蛮なんばんもあったけど、めったに食べられないごそうだったわ」

 そうか。ぎんさん、何十年ぶりとかで出てきたんだ。

 でも、おばあちゃんがいくつの時にぎんさんと会ったんだろ。シチューがやっと売られたって。

ぎんさんは食べないんですか?」

「ワタクシはようですもの。お食事をとる必要はありませんわ」

「でも、気になる?」

「……そうですわねえ。匂いはわかりますけども、味となるとどうだか…」

「そもそも、んでもそれは、どこにいくのやら……ぶくろがありませんから」

 ぎんさんのおかげで、少しなごやかになった。ありがとう……ぎんさん。

「どういたしまして」

 あ。〝約束やくそく〟したからわたしの考えが、分かるんだった。

 ゆっくりごはんを食べて、後片付けして。

 落ち着いた頃におばあちゃんから──。


ゆいぎんさまと、どんな〝約束やくそく〟をしたのかしら?」

 えっと……。言ってしまって、いいのかな?

 銀子さんを見ると、だまってうなづいてくれた。

「あの…恋のじょうじゅの…お願い、です……」

「まあ! 相手はどんな子なの!? 不良とかじゃないでしょうね? 性格はいいの? ゆいを悲しませたりしたら、しょうしないわよ!!」

「お、おばあちゃん?」

「み、看恵みえさま? どこぞのお父上みたいなことをおっしゃって、ズレてますわよ?」

「あら、ごめんなさい。つい。その子の名は?」

かりおもてせいくん……。同じクラスの子」 

 それからおばあちゃんは、目をつむってこめかみに手を当てて──だまってた。しばらく、何か考えているみたい。


ゆい。どんなお願いでも、〝約束やくそく〟したのよ」

「あなたに、その〝かく〟はあるの?」


 〝かく〟? お願いに、〝約束やくそく〟に?

 わたし、何か悪いこと、したの!?

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