奥飛騨海水浴場ゆけむり事件簿

木野二九

第1話 あたしの彼氏は迷探偵

「えーっと、海水浴に行くんだよね?」


小南こなみくんの運転する高級ミニバンは、高速道路を飛騨高山方面に向かって快走している。

幽子ユーコちゃん、もちろんそうだよ! 僕もホラ、ズボンの下はもう海パンだしね」

コナミくんは白い歯をキラキラさせながら笑い、イケメンスマイルを爆発させた。


「でも・・・コナミくん」

「僕のことならコナン君って呼んで!」


飛騨高山は山間部だし、あたしが知る限り岐阜県に海はない。


相変らず自称名探偵は、自分の呼び名にこだわっているし。

だから学校イチの残念イケメンって言われるんだよ。


「でもほら」


あたしが高速の案内表示にでかでかと『高山方面』と表示されているのを指さすと、

「疑っているの? しかたないなあ、ちゃんと海パンを・・」

なぜかコナミくんは、運転しながら嬉しそうにズボンを下ろし始めた。


危険だし、意味不明だし、超やめてほしい。

さすが今世紀最大の残念男・・・そんな異名をほしいままにするだけのことはある。


世界的に有名な自動車メーカーの御曹司一族でもあり、運動神経も良くイケメンで、優しくって、地元最難関の国立大学工学部に現役合格している「超優良物件」だが。


やることなすことアホっぽい。しかもそれが全部、素の行動で、大学入学して半年もしないうちに言い寄る女どもから、片っ端にフラれた逸材だ。


あたしもこんな体質じゃなければ、この阿呆とは付き合いたくないのだけど…。

あらざるものを寄せ付け、見えてしまうあたしにとって・・・。

どんな怪奇現象も勝手に浄化してしまうこの男は、便利以外のなにものでもない。


「ああそっか、高山だから不安なんだね。幽子ユーコちゃんが教えてくれたYouTubeの広告で、僕も初めて知ったんだ! 塩分豊富な温泉をプールっぽい露天風呂にしたアミューズメントで、今年オープンしたんだって」


「なぜに、そんな場所を…」

「おもしろそうでしょ! それにその温泉旅館、以前連続殺人が起きて、ニュースにもなった場所なんだ」


「はあ?」

「まだ犯人は捕まっていないそうだし、名探偵として、そこはなんとかしなきゃって」


「はあああぅ!」


とりあえずスマホで検索すると、そんな怪しい施設がヒットする。

やはりというか、なんというか。レビューには心霊体験がごまんと書き込まれていて、今では客もほとんどいなく、地元のヤンキーさんたちが肝試しに行く程度の場所らしい。


その広告サイトを見ても、怪しい人影のようなものがいくつか映り込んでいて、下手な合成心霊写真にしか見えない。




オープンしたの今年でしょ…閑古鳥が鳴くの早すぎない?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る