パワーレベリングは便利だよな!
ザワザワ森に何度かダンジョンアタックを繰り返している。
だが、あまり状況は良くないな。毎回同じようなところでMPが尽きて、同じように戻る。そんな動きを繰り返している。
別に俺はいくらでも付き合うつもりだが、どうにもみんなが沈んでいる雰囲気だ。
だから、あることを考えた。パワーレベリングだ。
「みなさん、ボクが敵のHPを削るので、トドメだけ任せていいですか?」
『セブンクエスト』の世界ではレベルとステータスには何の関係もない。ステータスは行動によって増えていくシステムだからだ。
だが、スキルポイントはレベル上げで増えていく。そして、スキルポイントが増えれば強いスキルが覚えられる。
そして、強いスキルがあれば敵をより多く倒せるようになり、必然的に行動回数も増える。
どういうことかというと、MPが尽きるまでの時間が伸びるから、より攻撃も防御も行えるということだ。
防御力を上げるためには敵の攻撃を受ける必要があるのが悩みどころではあるな。
俺が全てかばうように動けば、味方のダメージも減らせるはず。
だが、万が一の事態への備えも減る。それを考えると、あるていど防御も上げたほうが良い気がするな。
「それは、レベル上げをするということか?」
「はい。強いスキルを覚えれば、今よりは楽ができるはずです」
「それはそうかもね。でも、1人でそんなに削れるの?」
「問題ないです。ユミナさん、念のためにソルさん達の回復をお願いします」
「分かりました~。わたしも、とどめを刺せば良いんですか~?」
「はい。皆さんがスキルを覚えることで、今よりは敵を倒しやすくなるはずです」
実際、みんなが悩んでいる原因は停滞が主だろうからな。
少しでも改善してやれば、また冒険を楽しめるだろう。
まあ、みんなにとっては命がけだから、楽しい楽しくないの問題ではないのかもしれないが。
それでも同じだよな。強くなったという事実は大事に決まっている。
「仕方ないか。クリス、無理はするなよ。お前が傷ついたら、誰も喜ばないんだからな」
「大丈夫です。ボクは最強なので。ザワザワ森の敵くらい、どうとでもできます」
「なら、いいけどね。それで、どうやって敵を倒せばいいの?」
「何か攻撃を当てるだけで十分です。ボクが準備するので」
「それじゃあ、行きましょうか~」
ザワザワ森へ向かっていき、いつものように敵に出会う。
今度も青くて大きい蝶だ。さて、ここからだ。
「ボクには構わないでください。アピールタイム。カースウェポン」
HPが減ってくれたほうが後で楽ができるので、挑発スキルで味方をかばいつつ攻撃スキルでもHPを減らしていく。何度もスキルで攻撃して、だんだん俺と敵のHPが減っていく。
状態異常も受けられたらもっといいな。だが、ポートコンディションが無いとなかなか厳しい。
幸いにも、毒スキルや麻痺スキルは強制的に全体に判定が行われる。
だから、ソル達が状態異常を受けたら即座にポートコンディションで俺に移せば良い。
「カースウェポン、カースウェポン、カースウェポン」
何度も攻撃を繰り返すうちに、敵が鱗粉をばらまいていった。状態異常の付与だ。
「回復しますね。ポートコンディション」
即座に状態異常を受け取り、また攻撃を繰り返していく。
いい感じにHPが減ってきたので、最後の仕上げだ。
「これで最後です。マースフルスラッシュ」
俺は敵を切りつける。敵のHPを必ず1だけ残す技だ。これで準備は整った。
「ソルさん」
「任せろ、スラッシュ!」
ソルが切りつけていく。同時に敵は倒れていった。
初回だから苦労したが、あとは簡単だ。俺のHPは十分に減っている。
「これからはもっと早いですから、準備していてくださいね」
「分かったよ。すぐに魔法を撃つね」
「わたしも、しっかりと攻撃します~」
「では、次の敵へ向かいましょう」
そのまま、今度もまた青い蝶を見つける。
今回は楽ができるぞ。状態異常を受けて、HPも減っている。
「イヴェイドエンド。アピールタイム。ポリューションアタック。そして、ペインディヴァウアー」
まずHPが減っている時に一定回数、敵の攻撃を無効化するスキルを。
次にいつもの挑発スキル。その次に状態異常の数だけ攻撃が増加するバフ系のスキルを。
最後に、プログの街以来となる、HPが減っているほど威力が増す攻撃スキルを使う。
一度切りつけただけで、敵のHPの大半は削れていった。
それに、今の俺には前回にはないバフがある。だから、前よりも敵のHPが多くても関係ない。
「マースフルスラッシュ、今度はセッテさん」
「分かったよ。ファイア!」
また簡単に敵が倒れていく。パワーレベリングの快感、ぜひとも知ってもらいたいな。
とはいえ、あまり依存されては困るのだが。俺の強さにも限度があるし、そもそもステータスが上がらないという問題があるからな。
それでも、しっかりとスキルを覚えたみんなは素晴らしいことになっているはずだ。
もともと、みんな動きは俺よりも良いからな。ステータスとスキルの差が大きいのだ。
「ユミナさん」
「分かったわ~。えいっ」
それからも何度も何度も同じ事を繰り返して、手当たり次第に雑魚を始末していった。
これで、みんなも十分に新しいスキルを覚えられるはずだ。
「みなさん、次の冒険では今までより楽に勝てるはずです。それを利用して、もっと強くなっちゃいましょう」
そして、もっと色々なスキルの組み合わせができると楽しい。
ああ、いいな。みんなが成長してくれたら、新しい楽しさが増えるんだ。
もっともっと、今のみんなで冒険を楽しみ尽くしたいよな!
――――――
ソル達はクリスにレベル上げの補助を提案されて、終わったなと感じた。
自分達のふがいなさに、ついにクリスがあきれたのだと。
当然のことだ。パーティとしての役割はそろっているのに、十分な成果を出せていないのだから。
戦士と魔法使い、僧侶がいて、そして壁役であるクリスまでいる。
にもかかわらず、ずっとザワザワ森で足止めを食らっていたのだから。
自分達が活躍できないことの情けなさが、クリスの提案を受ける決意をさせた。
このまま足を引っ張り続けたところで、誰一人として得はしないと判断して。
誰もが悔しさに震えそうになっていたが、それでも必死に耐えていた。
クリスの前で感情を表に出すなんてこと、できるはずがなかったのだから。
なにせ、クリスは自分たちに気を使っただけ。バカにする意図なんてないのだから。
そして、クリスの手によってお膳立てされた上で、たったの一撃で敵を倒していく。
結局のところ、クリスは一人のほうが楽に戦える。誰もが思い知らされていく事実があった。
そんな苦しみに耐える理由は、せめてクリスの役に立ちたいからだった。
自分たちが強くなれば、今の屈辱に耐えただけの価値が生まれる。クリスを支えられる。そう信じていた。
結果として多くの敵を倒したソル達は、新たなスキルを覚えていく。
だが、誰一人として達成感など感じていなかった。
「くそっ! アタシ達は足手まといでしかない。分かっていたはずなのにな……」
「でも、クリスくんを悲しませないためだよ。我慢するしかない」
「二人は、ずっと苦しんできたのね~。よく分かるわ~。わたしも、同じ気持ちだもの~」
悲惨な過去を持っているクリスを支えたい。その気持ちは本物のはずなのに。
誰もが心にヒビが入るような感覚を覚えていた。
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