冒険は順調!
今日はアブナイ平原というセカンの街2つ目のダンジョンを攻略していく。
モンスターは同じだが強くなっているという、チカバの洞窟とソノ二の洞窟の関係と同じだ。
使い回しのような気もするが、マイナーなゲームなので仕方のないところはある。
予算が少なかったのだろうな。まあ、若干行動パターンが変わる敵もいるが。
「アブナイ平原は初めてなので、慎重にいきましょうね」
俺は余裕なダンジョンではあるが、ソルもセッテもただの人間だからな。
十分に攻略できる強さは持っているはずだが、だからといって油断は禁物。
命がかかっているんだから、無理はさせられないよな。
俺は失敗したところで安全は確保されているが、ソル達は違う。
万が一の事が起これば、まともな生活が送れなくなる可能性だってある。
欠損したらどうなるかなんて、検証しようとは思えないのだから。
「ああ、そうだな。初めてのダンジョンなんだ。警戒し過ぎということはないだろう」
「そうだね。まずは浅いところで確かめてからだね」
この2人は慎重でありがたいことだ。別に最悪勝てるとは思う。
それでも、2人が傷つく可能性は十分にあるからな。俺としては、しっかり自分の安全を確保していてほしい。
『肉壁三号』の体は最強だ。だからこそ、周りには気を使う必要があるんだよな。
俺に合わせさせて、着いてこられないなんて事態は最悪だから。
「ですね。安全マージンには気をつけましょう」
「だな。アタシ達も無茶はしないよ」
ソルが言うと、ちゃんと過去を活かしているんだなという感じがするな。
以前は先走りすぎて死にかけたことがあるからな。あの時は焦った。敵との戦いが楽しくなかったのは後にも先にも1回だけだ。
二度と同じ事が起こってほしくないという思いは強い。この世界は楽しいんだと思いたいからな。
「クリスくんに負担をかけたりしないよ。約束するから」
「負担は気にしなくていいです。自分の安全を気にしてください」
俺の安全なんてどうにでもできるんだから、本当に気をつけてほしい。
ソルやセッテが死んだ未来で、きっと俺は何も楽しめやしない。
だから、ちゃんとみんなを守らないとな。何よりも俺自身のために。
この世界を全力で楽しむ上で、親しい人達は欠かせないのだから。
「……分かったよ。なら、ちゃんと守ってよね」
「もちろんです。大船に乗った気持ちで居てください。ボクは最強の盾なので」
「最強だからこそ、安易に頼りたくないんだよ。強い武器に頼った戦士は弱くなるだろ?」
ソルの言うことは十分に分かる。アクションRPGだと、ステータスで勝っていると雑な動きになりがちだ。
つまり、その雑な動きが癖になったら困るということだろう。
なら、ある程度の配慮は必要だよな。彼女達の人生なのだから、俺の都合だけで振り回す訳にはいかない。
「確かにそうですね。なら、適度に頑張ります」
「じゃあ、そろそろ行こうか」
アブナイ平原に入っていくと、相変わらず敵の動きは見えやすかった。
「じゃあ、いつもどおりボクが引き付けますね。2人で攻撃してください」
ライオン、イノシシ、チーターといろいろいるが、対処は同じでいい。
「ハイスラッシュ! これでもまだ倒れないのか!」
「ハイウインド! まだダメなの? なら、もう一回!」
とはいえ、火力の問題もあって、以前よりも明確に時間がかかっている。
ソルもセッテも息を整えるために休憩する場面が増えてきたな。俺は体力的にも問題はないが。
「はあ、はあ。これで、序盤の敵は一掃できたな。だいぶ疲れたけど」
「そうだね。クリスくんは疲れてない?」
「問題ないです。これくらいなら、大した負担ではないので。でも、そろそろ帰りましょうか」
今回の成果としては十分だろう。少なくとも、安定して倒せることはわかったのだから。
これからの課題として、火力の底上げが必要になってくるかもしれないが。
まあ、ゆっくりと考えよう。一日や二日で魔王の脅威が襲いかかってくるわけではない。
焦りすぎてソルやセッテになにか起こってしまわないように、一歩ずつ進めていこう。
それにしても、これが誰かの成長を見守る喜びか。
ソルやセッテが敵を倒せるようになっていくことがとても嬉しい。
前世では知らなかったことだが、人と関わっていくのはとにかく楽しいな。
まあ、二人がいい人たちだということが大前提ではあるのだろうが。
「お疲れ様でした。アブナイ平原はどうでしたか?」
報告に向かうと、相変わらずミリアが受付してくれる。
やはり、気心知れた相手だと何もかもが楽だ。何も言わなくても素材を受け取ってくれたりするし。
「順調でしたね。まだ注意は必要ですが、十分に攻略できる範囲のはずです」
「とりあえず入り口では問題はなかった。セカンライノやボスにはまだまだ勝てないだろうがな」
「そういえば、アブナイ平原ではセカンライノから逃げても追いかけ続けられるんだよね」
「なら、出会わないように気をつけてくださいね。いきなり挑むのは危険でしょうから」
ミリアの発言には納得できる。ユニークモンスターとでも呼ぶべき立ち位置だから、普通にボスくらいの警戒でもいいだろう。
俺1人なら突っ込んで行ってもいいけど、ソル達は大変なはずだからな。
「分かりました。気をつけますね」
「では、今後もがんばってくださいね」
ミリアと別れて、今日の冒険はおしまいだ。さて、のんびりとするかな。
これからの冒険に向けて、英気を養っていこう!
――――――
ソルもセッテも、アブナイ平原の敵は強くて苦しいと考えていた。
少なくとも、二人だけでは勝てない相手が大勢いると。
にもかかわらず、クリスはいつでも涼しい顔だ。
改めて現実を思い知らされていく二人。結局のところ、自分たちはクリスの足を引っ張るだけの存在でしかないのだ。
それでも、クリスは自分たちと組むことを望んでいる様子。
本当ならば、自分たちと出会わなければクリスはもっと楽をできたのかもしれない。
そんな考えが思い浮かんで、でも全く否定することなどできなくて。
だから、せめてお互いの気持ちを確かめ合おうと、ソルとセッテは会話を始める。
「ねえ、ソルさん。アブナイ平原の攻略、できると思う?」
「クリスがいればな。アタシ達だけなら、絶対に不可能だ」
「だよね。本当にクリスくんとパーティになって良かったのかな……」
「後悔してももう遅い。アタシ達が去ったらクリスはきっと苦しむ。その程度のことは分かる」
「だよね……足を引っ張り続けるのと、別れて悲しませるの、どっちのほうがマシなのかな……」
「クリスの一番の苦しみは心のはずだ。後は分かるよな?」
「じゃあ、結論は変わらないか……」
クリスの心を癒やしたい二人としては、離れ離れになる訳にはいかない。
それはつまり、クリスの足を引っ張り続けるということだ。
自分たちの未来を理解したソルとセッテは、それぞれに胸の内に苦いものを抱え続けていた。
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