セカンの街を観光するぞ!
ボスを倒したのだから、休日を満喫するのはどうかと提案を受けた。
そこで、俺の知り合いたちでセカンの街を観光することに。
うんうん。せっかくの観光なんだから、みんなで出かけたほうが楽しいよな。
前世では1人のほうが心地よかったけれど、意外と友達というのは良いものだ。
とても楽しい時間を共有できて、幸せを実感できる。
「クリスさん。以前気になっていた時計塔に入るのはどうですか?」
ああ、セカンの街のトレードマーク。冒険を優先したいから観光をやめていたんだよな。
うん、自分へのご褒美に良いかもしれない。ボスを倒したのは記念としてちょうどいいよな。
「いいですね。みなさんはどうですか?」
「問題ないです。クリスさんの好みに合わせるです」
「アタシもそれでいいぞ。一番活躍したのはクリスなんだからな」
「なら、私も合わせようかな。新入りなんだからね。案内は任せて」
とのことで、まずは時計塔に向かうことになった。
中に入ると、階段をずっと登っていくことになる。
そうして高いところにたどり着くと、街の全景が一望できた。
人の賑わいを感じられて、街だなという感じがする。
この世界に人の営みが息づいているのだと思えて、けっこう感動していた。
「高いところから周りを見ると、人が生きているんだなって感じがしますね」
「たくさん人が見えますからね。大勢を一度に目にするのは珍しいですか?」
「そうですね。冒険以外の生活をしている人も、たくさんいるんですね」
「冒険者の生活も、今見えている人たちあってのものです。占いをしていると、人の流れがよく見えるです」
「食べ物を準備している人もいるし、防具を作っている人もいるんですよね。知らなかったな」
ゲームの世界だから、もしかして都合よく生まれてくるんじゃないかと考えていた。
だが、この世界に生きる人々が文化を生み出していることがよく分かる。
やはり、ゲームの世界だからといって軽く見て良いものじゃないよな。
あらためて、この世界で俺は生きているんだという実感を手に入れることができた。
「ははっ、無から食べ物が生まれているとでも思っていたのか?」
「かもしれませんね。なにせ、何も知らなかったので」
「だったら、これから知っていけば良いんだよ。私がいくらでも教えてあげるから」
ソルもセッテも、世間知らずな俺に根気よく付き合ってくれてありがたい。
メチャクチャな発言をしている自覚はあるから、見捨てられてもおかしくはないんだよな。
そんな俺を大切な仲間として扱ってくれる事実に、俺がどれほど救われていることか。
「みなさん、いつもありがとうございます。知らないことばかりで迷惑をかけてばかりなのに」
「気にしなくて良いんですよ。冒険者の方を支えるのが、受付嬢の役目ですから」
「占い師だって、人を導くのが仕事です。だから、気にする必要はありませんです」
ミリアもエリカも、優しい笑顔で見守ってくれる。
この世界で生きていて良いんだと肯定されているようで、本当に嬉しい。
あくまで俺は異物かもしれないが。それでもみんなを守りたいんだ。『肉壁三号』は強いんだから、絶対に守れるはずだ。
「助かります。ボクはこれからも迷惑をかけると思いますが、よろしくお願いしますね」
「はい。迷惑なんて気にしなくていいですよ。みなさん、クリスさんが大好きなんですから」
「ありがとうございます。嬉しいです。でも、できる限り迷惑をかけないように気をつけますね」
実際、親しい人に迷惑をかけるのは心苦しいし。全く迷惑をかけないのは不可能だけれども。
「それで、どうだ? 満足したか?」
「はい。楽しいです。次はどこに行きましょうか」
「私がおすすめを案内してあげるね」
との事なので、セッテにおまかせしてみる。
そこで印象に残っているのは、モーレツミルクキャンディという飴だ。
甘いものは前世ではあまり好みではなかったのだが、案外美味しくて夢中になってしまった。
「甘いものって美味しいんですね。初めて知りました。モーレツミルクキャンディって、どこかで聞いた名前ですね」
「プログの街にモーレツビーフの串焼きが売ってただろ? ここから出荷されてきたんだよ」
「へえ、そんなものなんですね。近くの街にも運べるものなんですね」
腐ったりするんじゃないかと思っていたのだが、案外文明レベルが高かったりするのだろうか。
「私みたいな魔法使いが凍らせて、転送アイテムで一緒に運ぶって感じだね」
なるほどな。魔法がある文明だけあって、うまく利用されているものだ。
魔法があることと無いことの違いは、他にもあるのだろうか。
よく分からないが、これから知っていければいいな。
「なるほど。知りませんでした。勉強になります」
そういえば、甘いものが美味しいのは、体が変わった影響だろうか。
モーレツミルクキャンディが特別だという可能性を考えていたが、どっちだろうか。
甘いものが好きな体になったのなら、新しい楽しみが増えたことになるな。
まあ、別に前世で嫌いだったわけではないのだが。出されても嫌とは思わない程度には。
「これからも分からないことがあったら聞いてくれていいからね」
「ありがとうございます。助かります。みなさん優しくて、つい甘えてしまいそうになります」
「私達には甘えていいです。クリスさんを支えると決めているですから」
「そうですね。受付嬢に頼る冒険者なんて、当たり前ですよ」
「アタシ達はパーティなんだから、助け合うのは当然だからな」
「みなさん、本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね」
みんな笑顔で頷いてくれて、俺は受け入れられているんだという感覚をもてた。
やっぱり、最高の知り合いばかりだ! 『エイリスワールド』サイコー!
それからも観光を続けて、とても満足感のある一日になった。
あらためて、『セブンクエスト』が大好きで良かった!
――――――
セッテはクリスと知り合ったばかりで、彼について詳しくない。
だから、想像以上にクリスが世間知らずで驚いていた。
人が当たり前の生活を送っていることに驚いてみたり、甘いものを初めて食べたような反応をしてみたり、基本的な輸送の方法を知らなかったり。
本人に直接聞くことははばかられたので、クリスと別れてからミリアたちに尋ねてみる。
結果として、セッテは恐るべき事実を知ることになった。
「クリスさんの本当の名前は『肉壁三号』。クリスさんの過去を考えただけで、胸が締め付けられるようです」
ミリアの言葉を受けて、セッテも同じような苦しみを味わうことになった。
人々にとっての当たり前を知らなかったのは、知る機会に恵まれなかったから。
世間知らずだなんて思っていたが、とんでもない闇が紛れ込んでいたのだ。
そんな不幸なクリスに、自分は冒険の最中にかばわれてばかり。
改めて現実を直視すると、セッテはどこかへ消えてしまいたくなった。
「私が弱いばっかりに、不幸なクリスくんに余計な負担をかけちゃう。こんなことなら、出会わなければクリスくんはもっと幸せだったのかな……」
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