誰かのサポートというものも悪くない!
ソルが元気になってきたので、今日はソノ二の洞窟で冒険だ!
うんうん。世界観を知ることも楽しいけれど、やっぱりこの世界の一番楽しいところは冒険だよな!
モンスターを倒してこそ、『セブンクエスト』だ! キャラクター育成も良いけど、俺のビルドは完成しているからな。
能力を上げるつもりではあるけれど、急ぎではない。
「ソルさんは、強くなりたいですか?」
「当たり前だ。ずっとクリスに守られるなんてゴメンだからな。強くなるためなら何でもするよ」
何でもするとは言っても、さすがに敵の攻撃を無防備に受け続けろなんて言えないしな。
基本的にはゲームでの効率を重視した育成は人の心を無くしている動きだから。
だが、ゲーム基準でない効率のいい動きは分からない。聞いておいて何だが、今すぐに優れた回答は出せないな。
経験値効率のいいザコは居るが、経験値を稼いだところで、スキルポイントが増えるだけだから。
それはそれで重要な要素ではあるのだが、能力を上げるには行動回数が重要だ。
より多く攻撃すれば攻撃力が上がるし、より多く攻撃を喰らえば防御力が上がる。
安全マージンや心理的な問題を考えれば、普通に戦っていくのが最適解かな。
ゲームのときなら、ひたすら周回していたのだが。人間は戦いを繰り返すのに向いていない。
「そうですね。でも、強くなる近道はないです。残念なことですけどね」
「なあ、お前はどうやって強くなったんだ?」
「ひたすら戦いですね。防御力を上げるために、何度も攻撃を受けました」
「やっぱりそうだよな……アタシも同じ事をしたら、強くなれるかな」
「その前に心が壊れると思いますけど。ボクは特別なので」
ゲームのキャラを動かしていただけだからな。本当に痛みを味わっていたわけではない。
この世界にただの人として生まれていて、効率のいい育成ができたかどうか。ダメージを受け続ける恐怖に勝てたか怪しいよな。
やっぱり、『肉壁三号』に憑依か転生かできたことは幸運だった。『エイリスワールド』での冒険を思う存分楽しめる。
「そうか。じゃあ、普通に戦っていくしかないのかな」
「でしょうね。それに、ボクはソルさんに無理してほしくないです」
「そっか、そうだよな。お前は優しいもんな。なら、無理はしないよ」
「はい。ソルさんが傷ついたら、ボクは悲しいです」
実際問題、人を傷つけてまでこの世界を楽しみたいわけじゃないからな。それくらいの良心はある。
「ああ、分かったよ。そろそろ行こうか」
「そうですね。ソノ二の洞窟ですね」
今回は、ソルを活躍させるためにスキルを使おうと思う。フィールグッドというスキルだ。
俺自身がデバフを受ける代わりに、味方にバフを与えるという能力。『肉壁三号』のビルドだと、デバフを受けることすらメリットになるんだよな。
まあ、その運用はもっともっと強い相手じゃないとダメだから、使うのはまだまだ先だろうが。
「じゃあ、今回はソルさんにおまかせします。フィールグッド! バフをかけたので、このあたりの敵なら楽勝なはずです」
「ありがとうな。なら、しっかり活躍しないとな!」
まずはゴブリンにぶつかっていくソル。だが、簡単に倒せるはずだ。
俺の使えるバフは、プログの街には明らかに見合っていない強さだからな。
全能力を倍加するという、序盤で使っていたらゲームバランスが崩壊する代物。
だが、ちょうどいい難易度なんて、誰も求めていないだろう。だから、これでいい。
「まずは一撃、スラッシュだ!」
ソルが敵に向かって剣を振り下ろすと、簡単に倒れていく。
そのままガッツポーズを見せてくれる。姉御肌な印象、褐色、赤髪赤目と相まって格好いいな。
やっぱり、沈んでいる姿よりも今の方が何倍も魅力的だ。もっと、今みたいなソルを見られるように頑張ろう。
こうしてソルの活躍をサポートするのも楽しいよな。『セブンクエスト』はソロ用のゲームだったが、マルチプレイができても面白かったかもしれない。
だって、今とてもいい気分だから。1人では味わえない喜びというのはあるものだな。
ソルとパーティが組めたことは本当に幸運だった。ずっと1人だったなら、今みたいな楽しみは知れなかったのだから。
「いいですね、ソルさん。一撃でしたよ」
「ああ、そうだな。クリスのおかげだよ。バフをかけてくれてありがとな」
「いえ、パーティなんですから、当然です。みんなで強くなれば、それでいいんです」
実際、RPGでもなんでも、パーティというのは1人で強くなるものではない。
みんなで支え合って、お互いの弱点を補って、それで勝てばいいんだから。
今はソルのほうが明確に弱いけど、いつかは俺のほうが助けられるかもしれないからな。
「分かったよ。じゃあ、ここからも戦っていくぞ」
「はい。ソルさんのかっこいいところ、見せてください」
「任せておけ! 惚れても知らないからな?」
ソルはにっこりと笑っている。ちょっと茶目っ気を感じて、いい感じだ。
実際、惚れたら惚れたで面白いだろうな。ソルはいい人だから、大きな問題は起きないと思う。
とはいえ、今は恋愛よりも冒険の方が楽しい。それに、魔王を倒さないといけないからな。
魔王は世界の脅威なのだから、恋愛にうつつを抜かして世界が滅んだら目も当てられない。
別に正義感なんてないが、滅んだ世界で何を楽しめばいいかなんて分からないからな。ちゃんと世界の危機は止めないと。
「好きになっちゃったらどうしましょうか。なんてね。まずは、このダンジョンを攻略しましょう」
「ああ、そうだな。アタシだってやれるんだってところ、見せてやるよ」
そのままソルはモンスター達を倒していく。実際、けっこう強いよな。
MP管理を失敗していた時は大変だったし、ソノ二の洞窟に1人で突っ込んでいかれた時はビックリした。
だが、今のソルは安定感がある。なにか妙な焦りがなければ、ちゃんと考えて戦える人なんだ。
「ソルさん、強いですね。もう後はボスだけですよ」
「ああ、ハイゴブリンだな。しっかりと倒してやるからな!」
「応援しています、ソルさん」
「安心して見ていてくれよ! 行くぞ!」
ソルはハイゴブリンと切り結んでいく。スラッシュを中心に、ときおりハイスラッシュを挟んでいく。
この世界はリアルになった以上、MPの他に体力もあるはずだ。だから、MP効率がいいからとスラッシュだけで戦ったりしないのだろう。
もっと防御力の高い相手なら、スラッシュよりハイスラッシュのほうがMP効率がいい時もあるけどな。
「スラッシュ! 当たったな! スキだらけだぞ、ハイスラッシュ!」
ああ、相手の動きを見ながら当てやすいかどうかも考えているのか。やはり、ゲームシステム通りに進まないこともあるんだろうな。
そういう観点でも、ソルと組めたことは良かったな。俺の気づかない落とし穴があった可能性はある。
「さあ、トドメだ! ハイスラッシュ!」
ソルのハイスラッシュが当たって、ハイゴブリンは倒れていく。やはり、バフをかければ十分に戦えるみたいだ。
「倒せましたよ。やりましたね、ソルさん」
「ああ。かっこよかったか?」
「はい、とっても。今日は楽しかったです。ありがとうございました」
ソルも元気になったようだし、いい冒険日和だったな。これからももっと、冒険を楽しんでいこう。
――――――
ソルはクリスのバフを受けて、順調に敵を倒すことができた。
だから、今の状態ならばクリスに守られずに済む。敵を倒した高揚感も相まって、とても気分がいい。
これからの冒険では、十分にクリスを守ることができるだろうと考えていた。そんな感覚に冷や水をさす事実が、ソルの目に入るまでは。
ボスも倒して安全になったので、クリスの様子に集中することができたソル。
そこで、クリスにデバフがかかっている事実に気づく。おかしい。ソノ二の洞窟にデバフをかける敵はいないはず。
ならば、なぜ今クリスにデバフがかかっている? そう考えて、ある可能性にたどり着く。
ソルがソノ二の洞窟を攻略する時、ずっとクリスのバフを受けていた。
つまり、クリスのスキルは、誰かにバフをかけるかわりに自分がデバフを受けるもの。
そこまで考えて、ソルの感じていた高揚感など消え去っていた。
なぜなら、これから強敵と戦う時、自分がバフを受ける限り、クリスはデバフを受け続ける。
つまり、ソルを強化するためにクリスが危険にさらされるということだ。
「結局、クリスを守るなんてこと、あたしの独り相撲なのかよ。ああ、悔しいな……」
クリスの前でだけは笑顔でいたソルだが、本音では泣きじゃくってしまいたかった。
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