親しい人って大切だな! 全然楽しさが違う!
今日もソルとパーティを組んでチカバの洞窟へと来ている。せっかく2人で冒険できるのだから、ちゃんと連携したいよな。
なら、アタッカーのソルは攻撃に専念してもらって、俺がタンク役を勤めればいいだろう。
本音のところではスキルを使ってみたいが、そんなことをすれば俺が全て終わらせてしまう。
しっかりとパーティでの冒険を楽しむためにも、壁としての役割に徹するべきだな。
「じゃあ、ソルさん。ボクがソルさんの盾になりますから、あなたは攻撃に専念していてください」
「ああ、分かった。そうするしかないよな。あんな不甲斐ない戦いを見せて、心配するななんて口が裂けても言えないよ」
ソルは昨日の失敗を引きずっているのだろうか。別に気にしなくていいのに。一緒に冒険するのが楽しいんだから、多少弱くてもお釣りが来るくらいなんだ。
俺としては、初めて経験する楽しさを教えてくれたソルにはとても感謝している。しっかりと、ありがとうと伝えるか。
「いえ、気にしないでください。ボクを助けようとしてくれたこと、嬉しかったです。ありがとうございました」
「当たり前のことだ。クリスのような可愛い子を守るのはな。アタシは、その当然ができなかったんだけどな」
「ボクもソルさんも無事なんですから、十分ですよ。ボクはソルさんといると楽しいです。それじゃダメですか?」
「ダメなわけない! お前は自由にして良いんだ。好きな相手とパーティを組んでいいし、冒険をやめたって良い」
「ボクはソルさんと一緒に冒険がしたいです。だから、一緒に行きましょう」
「分かった。今度こそ、頼りになる姿を見せてやるよ」
「楽しみにしていますね、ソルさん」
ソルはちょっと気にし過ぎだよな。まあ、命がかかっていると思えば分かるか。
実際に俺が弱ければ、俺かソルが死んでいた可能性はあるんだから。そう思えば、おかしな態度ではない。
なら、俺は本当に強いんだというところを見せてやろう。安心して戦って良いんだと思わせてやろう。
そのまま、俺とソルはモンスターと戦っていく。俺が敵の攻撃を押し留めて、そのスキにソルが攻撃していく。
「ソルさん、今です」
「分かった。スラッシュ! もう一発、スラッシュだ!」
ソルが斬撃を2度放ち、今回の敵であるゴブリンは倒れていく。
前回の失敗から反省したのか、しっかりMP効率を考えてくれているな。これなら、攻撃を任せるには十分だろう。
うまく連携ができていて、気持ちいいな。こうしてパーティを組むのも、悪くない。
「すごいです、ソルさん。しっかりとゴブリンを倒せましたね」
「ああ、流石に2回も同じ失敗をする気はないよ。そんなんじゃ、安心して組めないだろ?」
「大丈夫ですよ。ボクは強いので、失敗してもどうにかします。しっかりソルさんの盾を努めますね」
「なら、頼りにさせてもらうよ。その分、ちゃんと敵は倒させてもらうからな」
「はい、お願いします。ソルさんの戦い方、しっかりと見せてもらいますね」
実際、ソルの剣技は見るべきところが多い。俺はまだまだ未熟だからな。
おそらく器用さの影響で、俺の攻撃は問題なく当たっている。それでも、なんというかカッコ悪い動きになっているからな。
いずれは、誰もが見とれるほどの剣技を身に着けたいものだ。そして、モンスターを切り刻む。きっと楽しいはずだ。
それからも、ダンジョンを進みながらモンスターを蹴散らしていく。
スライムもオオカミも、俺にはまったくダメージを与えられない。だから、何も考えず敵の攻撃を受けているだけでタンク役をこなせるんだ。
「流石だな、クリスは。敵の攻撃をまったく寄せ付けないって感じじゃないか」
「そうですね。ボクは強いので。これまでの経験のおかげですね」
「無理はするなよ。いくらダメージを受けないといっても、怖さだってあるんだろうからな」
「大丈夫です。あの程度のモンスターなんて、可愛いくらいですから」
「ならいいけど。弱いアタシが言っても困らせるかもしれないが、怖かったら逃げても良いんだからな」
「問題ありません。モンスターに怖いなんて思いませんよ。もっと怖いものを知っていますから」
例えば現実とかな。今では考えないで済んでいるが、もしこれが夢だったら発狂する自信がある。
せっかく『エイリスワールド』にやってこられて楽しいんだから、モンスターなんて怖くない。
それに、どうせ絶対に勝てるからな。もし仮に裏ボスが現れたところで、楽勝だろう。
「だったら心配ないか。そろそろボスだな。今度こそ、ちゃんとやってみせる!」
「その意気です、ソルさん。絶対に勝ちましょうね」
そのまま俺達はボスであるハイゴブリンへと向かっていく。
敵は剣で攻撃を仕掛けてくるが、適当に腕でかばえば簡単に弾ける。あまりにも楽すぎて、気が緩んでしまいそうだ。
ソルはハイゴブリンが俺に攻撃している間に、横から剣を振り下ろしていく。
「スラッシュ! もう一発! まだまだ!」
「いいですよ、ソルさん! あと少しですね」
「ああ、そうだな。ならこれでいくか! フルスラッシュ!」
なるほど、フルスラッシュを覚えているのか。MPをすべて消費する代わりに、最大の火力を放つ技。
まあ、MP残量とハイゴブリンのHPを考えれば、一撃だろうな。
とはいえ、なかなかにリスキーな選択をする。負けるくらいならと撃つ運用のイメージだが。
それでも、問題なくハイゴブリンを倒せたようだ。ここは褒めておくか。
「すごいです、ソルさん。一撃でしたね」
「ああ、なんとかな。じゃあ、帰るか」
そのまま冒険者組合へと帰り、ミリアから報酬をもらう。この生活にも慣れてきたな。
「お疲れ様でした。クリスさんは将来有望ですね」
「ありがとうございます。でも、ソルさんが手伝ってくれるおかげですよ」
「アタシは大したことをしていないよ。クリスの才能があってこそだ」
「では、今後もお二方には期待していますね。それでは、また」
組合から離れて、ソルともう少しだけ会話をしていく。
「今日は楽しかったです。これからも、ソルさんを守らせてくださいね」
「ああ、分かった。次を楽しみにしているよ」
そう言ってソルは去っていく。俺も次が楽しみだ。それにしても、明日を待ちわびるというのはいつ以来だろうか。ソルと出会えて、本当に良かった。
――――――
ソルはクリスに守られる自分の現状を嘆いていた。
「くそっ! アタシが弱いから、クリスに守るなんて言わせちまう! もっと力があれば……!」
本音ではクリスを守りたいと考えているソル。にもかかわらず、現状はまるで逆。
自分ならばダメージを覚悟する一撃を、クリスは涼しい顔で受けていく。防御力999という数値で、彼の強さは理解していたはずだった。
だが、ソルが考えていたよりも、遥かに実力差は大きい。
まるで手の届かない、まるで星々をつかもうとしているような感覚が襲いかかってくる。
そんな心を振り払うように、ソルは自分を
「アタシが強くならなきゃ、クリスは一人になっちまう。結局、親しい相手だから一緒にいるのだとしても」
ソルは心の底では理解していた。実力という意味ではまったく必要とされておらず、単に仲がいい相手として求められているだけなのだと。
本当のところは、足手まといだと思われているのだと。それでも、仲がいいからクリスは切り捨てられないだけなのだと。
「ああ、これまでアタシは何のために鍛えてきたんだろうな。かわいいクリスに助けられるためか? 笑えるな」
ソルは今の自分の状況を考えると、体から力が抜けていくかのように感じていた。
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