ゲーム世界の文化を知るチャンス!
「今日は、私と出かけませんか? クリスさんにも、息抜きが必要でしょう」
ミリアに誘われたので、受けることにする。
冒険も楽しいが、せっかくだからこの世界を味わいたいよな。
『エイリスワールド』の文化を知るいい機会だし、設定資料集を見るより細かく知れる。
やはり、転生できて良かったな。何から何まで楽しいのだから。
「はい、もちろんです。ミリアさんなら、いつでも歓迎です」
実際、ミリアの受付はかなりいい感じだから、彼女との関係をよくできるなら、多少の手間を惜しむつもりはない。
キツめの美人という第一印象とは裏腹に、けっこう優しい気がする。
まあ、出会ってすぐだから、猫を被っているだけかもしれないが。それでも、今後もミリアに受け付けしてもらいたい程度には気に入っているんだ。
「では、着いてきてください。いろいろと案内して差し上げます」
「お願いしますね。この街はあまり知らないので、いろいろ教えてください」
本当に気になる。どんな店があるのか、どんな食べ物があるのか、いろいろと。
プログの街だけの文化なのか、他の街でも同じなのか、いずれは知りたいところだな。
転生という誰もできない体験をしたのだから、この『エイリスワールド』のすべてを味わい尽くしたいんだ。
この世界にやってきてから、楽しいことは無限にある。最高としか言いようがない。
「まずは、あなたに服を買って差し上げようと思います。その服だけでは厳しいでしょう?」
それはそうだな。普段着にするための衣装がほしいところだ。
さすがに今の拘束具みたいな格好が非常識なのは分かるからな。
それにしても、女の人から服を買ってもらうなんて。やはりこの世界は女の人が多いから文化が違うのだろうか。
あるいは、ミリアが特別なのだろうか。別にどちらでも構わないが、ミリアと親しくなれるのなら、きっと楽しいはずだ。しっかりミリアの性格を知りたいな。
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
「はい、もちろんです。クリスさんは可愛らしいですから、いろいろな服が似合うと思いますよ」
その言葉通り、ミリアには色々な服を着せられていった。そして、どれも似合うと褒められる。
『肉壁三号』の顔は美形に作ったから、当たり前ではあるけどな。ファッションというのも、悪くないな。
これまではあまり気にしてこなかったが、評価が高いだけでも楽しくなってくるものだ。
ミリアが喜んでくれる限りは、衣装にこだわってみるのもいいよな。
「ミリアさんは、どれがいいですか? 一番気に入ったのを、着てみたいです」
「一番と言わず、いくつでも買って差し上げます。これでも、けっこう稼いでいるんですよ」
だからといって、たくさん買ってもらうのには抵抗がある。出会ったばかりの人に貢がれる気分というのは、こんなものなのだろうか。
とはいえ、衣装に当てがないのも事実なんだよな。そこまで稼いでいるわけではないから、一着二着しか買えない。
「無理はしないでくださいね。ミリアさんにも、生活があるでしょうから」
「大丈夫です。この店すべての服を買ったところで、生活には困りませんから」
見栄なのか本当なのかは分からないが、ここまで言われて断るのも問題かな。
じゃあ、ミリアのお世話になってしまおう。この分は、俺が活躍すれば返せるだろうか。
なんにせよ、ミリアが困っていた時には、俺が助けよう。そんな機会があるのかは知らないが。
そのまま、複数の衣装を買ってもらうことになった。これからは、外出する時は買ってもらった服で行こう。
「ありがとうございました。大切にしますね」
「ところで、防具は買わなくてよかったんですか?」
「これがあるので、大丈夫です。気にしないでください」
「そうですか。お金のことは、本当に心配しなくていいですからね」
「いえ、問題ないです。ボクは強いので」
「なら良いのですが。欲しくなったら言ってくださいね」
「ありがとうございます。でも、きっと言いません」
実際、俺の防具は『セブンクエスト』でも最上級のものだ。俺のビルドに合わせることを考えたら、これ以上はないと断言できる。
だから、防具なんて必要ない。ミリアの気持ちは嬉しいが、本当にいらないんだよな。
「では、次に行きましょうか。好きな食べ物はありますか?」
「だいたい何でも食べられます。あまり詳しくないので、お任せしますね」
「分かりました。でしたら、定番の店に案内しますね」
この街の定番か、この世界の定番か。分からないが、どちらにせよ楽しみだ。
実際、特に嫌いな食べ物はないからな。めちゃくちゃマズいということは無いはずだ。
それに、ミリアのことだからちゃんとオススメを食べさせてくれると思う。その程度には信頼している。
「お願いします。ミリアさんの紹介なら、期待できますね」
「ありがとうございます。クリスさんに期待していただけて嬉しいです」
「ミリアさんにはお世話になっていますからね」
「では、こちらへどうぞ」
それなりに賑わっている店に案内され、席についた。店員らしき人が注文を聞いてくれる。
「では、プログスープをお願いします」
「それがミリアさんのオススメですか? 楽しみです」
「何だ? そこの坊や、プログスープ知らずか? めずらしいな」
「そんなに有名なんですか?」
「思った以上に何も知らないんだな。それなら、きっと感動するぞ」
店員の言葉が大げさかどうかはすぐに分かる。まあ、ミリアの紹介した店なんだから大丈夫だろう。
困る可能性としては、この世界の料理が全部マズいということか。さすがに無いといいな。
しばらく待っていると、プログスープが運ばれてきた。薄切り肉とキャベツが入った、質素なスープ。
正直に言って期待感は薄くなっていた。だが、ミリアのオススメである以上、もっと美味しい料理は少ないはず。
だから、普通に食べていく。そして驚いた。見た目からは想像できないくらい複雑な味だ。
香辛料のたぐいが入っている感じはしない。だから、この世界の食材特有の味なのだろう。
いいな。また転生してよかったことが増えた。こんな面白い食べ物があるのなら、もっとこの世界を楽しめそうだ。
ミリアには感謝しないとな。新しい楽しみを知るきっかけになってくれたのだから。
「美味しいです。なんというか、いろいろな味がして」
「そうですか。良かった。好きなだけ食べてくださいね」
ミリアの言葉通り満足いくまで食べて、今日の予定は全て終わりになった。名残惜しさのようなものがあるが、ミリアとはきっといつでも会える。
「今日は楽しかったです。ミリアさん、ありがとうございました」
「ええ。また、一緒にでかけましょうね。息抜きだって大切ですから」
「はい。次の機会を楽しみにしていますね」
ミリアにも言ったが、本当に楽しかった。今日も最高の1日だったな。また明日からは冒険だ!
――――――
ミリアは占い師のエリカから、クリスの情報を聞いていた。彼が占いの店に行ったという情報を手に入れたので、少しでも情報を知りたいと考えて。
そこでエリカから聞いた事実。クリスが勇者であるということ。つまり、彼は戦い続ける運命にある。
だからこそ、クリスには少しでも
そこで、彼とともに外出することに決めたミリア。おしゃれをする嬉しさ、食べる喜びを知ってもらって、楽しい思い出にしてほしい。そんな思いからだった。
だが、ミリアが想像していた以上にクリスの過去は悲惨なものだった。
衣装を着替えることを楽しんでいるのに、防具は絶対に変えようとしない。
つまり、それだけ過去に囚われているということ。『肉壁三号』という名前がつけられるような過去に。
それだけではない。クリスはプログスープすら知らなかった。『プログスープ知らず』という言葉が生まれるほどに、誰でも食べたことがある食べ物を。
クリスがまともな過去を過ごしていないことを、さらに思い知らされる。ミリアは、当たり前の食事もできなかったクリスが哀れで仕方なかった。
それでも、次の機会を楽しみだというクリス。だからこそ、せめて自分が彼に幸せを教えるのだ。
ミリアは悲しみに包まれながらも、決意を固めていた。
「クリスさん、必ずあなたを幸せにしてみせますからね。どんな事があったとしても」
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